第14話:共鳴(きょうめい)
銃口を向ける霧島冴子に対し、クロウはバイクのアイドリング音を響かせたまま、静かに、だが重みのある声を放った。
「……無理はしない方がいい。メデューサの毒は俺の炎で大部分が蒸発したが、お前たちが最初に吸い込んだ分が今も神経を蝕んでいるはずだ」
「なっ……」
霧島の視界が、急激に歪み始める。彼女の指先は微かに震え、重い対魔兵装を支えきれなくなっていた。
「自分と部下の命を優先しろ。……ここはもう、安全だ」
クロウはそれだけ言い残すと、一気にスロットルを開けた。漆黒の残像を残し、バイクは浄水場の闇へと消えていく。
霧島は去りゆく背中に声をかけようとしたが、喉が熱く焼け付くようで音にならない。彼女はそのまま、力尽きたように冷たいコンクリートの床へと崩れ落ちた。
一方、エルクの最深部。
ナヤーの前に、左右対称の甲羅を背負った二つの影が這い出してきた。双子の亀魔人・タートルブラザーズ。
「ナヤー様。メデューサの死を無駄にはいたしません。我ら双子、二箇所で同時に動けば、奴はどちらかを捨てねばなりません」
兄の亀魔人が、鈍く光る巨大な槌を地面に叩きつける。
「いかに漆黒の仮面が強かろうと、奴の身体はたった一つ。同時に二箇所の異変には、絶対に対応できまい」
ナヤーが冷徹な笑みを浮かべ、杖で床を叩く。
「その通りだ。奴が右を救えば、左が沈む。左を救えば、右が砕ける。……救えなかった絶望こそが、我が主への最高の供物よ」
「はっ。皇都の北と南、その礎に同時に『振動』を刻みます。一人の力は小さくとも、二つが重なり共振すれば、大地を砕く人工の地震へと変わる……。皇都をその足元から崩壊させてやりましょう」
数日後。
意識を取り戻し、病床で報告書を握りしめる霧島冴子の元に、不穏な地震速報が届き始める。
揺れは小さく、しかし規則正しく、皇都の北と南で同時に発生していた。
「……同時発生? 偶然じゃないわ。奴ら、今度はこの街を文字通り『根こそぎ』にする気よ」
霧島は点滴を自ら引き抜き、苦しげに立ち上がった。
一方、喫茶店『アミティエ』の雄介もまた、足元から伝わる不気味な微振動に、厳しい表情で空を見上げていた。
「二箇所同時か。……あいつら、俺の弱点をよく分かってる」
八咫の鏡が、予兆を告げるように鈍く脈動していた。




