第15話:双破(そうは)
皇都の南北、同時に刻まれる震動。
超常現象対策室の霧島冴子は、分散された戦力と魔人の堅牢な防御を前に苦戦を強いられていた。
一方、南北の中間地点でバイクを止める雄介。
「……どちらかを選ぶなんて、俺にはできない」
雄介は、懐の『八尺瓊勾玉』を握りしめた。
空間を司るその力は、管理者から与えられた「仮初の肉体」に最も負荷をかける。一歩間違えれば、この世界での「形」を維持できず、霧のように霧散しかねない禁じ手。
「勾玉……力を貸せ!」
鏡と勾玉が共鳴し、漆黒の装甲が紫色へと変色する。
形態:冥鳥。
空間を折り畳み、南北を「繋げる」禁断の跳躍。
北の現場、兄亀の背後から空間を裂いてクロウが出現。
「一撃!」
冥鳥の重圧を乗せたキックが甲羅を粉砕。爆散の瞬間に、彼は再び虚空へと消える。
コンマ数秒後、南。
勝ち誇っていた弟亀の目の前に、再び空間が裂けてクロウが現れた。
「終わりだ……!」
空間の歪みと共に放たれた天叢雲剣の一閃が、弟亀を両断する。
「馬鹿な……奴は、さっき北にいたはず……!」
二人の魔人は、ほぼ同時に爆発。皇都は寸前で崩壊を免れた。
戦い終わって。
紫色の装甲が剥がれ落ち、元の漆黒に戻ったクロウ。
空間跳躍の代償は凄まじく、彼の輪郭は一瞬、陽炎のように揺らぎ、消えかかっていた。存在そのものがこの世界から零れ落ちそうになる感覚。
そこに、南の現場へ急行していた霧島冴子が到着した。
銃を構えることも忘れ、彼女は満身創痍の「死神」に問いかける。
「……どうして、そこまでして戦うの? あなたは一体、何のために……」
クロウは震える手でバイクを支え、ゆっくりと顔を上げた。
ヘルメットの奥から漏れた声は、あまりにも静かで、優しかった。
「……誰かの、当たり前の日常が続いて……。みんなが笑顔でいてくれれば、それでいい」
それだけを言い残すと、クロウは消え入るような排気音と共に、夜の闇へと消えていった。
残された霧島は、その背中を呆然と見送る。
「……笑顔? 自分の存在が消えかかっているような、あんな危うい体で……」
霧島は、彼を「排除すべき超常現象」ではなく、一人の「痛みを抱えた戦士」として初めて認識した。




