第12話:毒牙(どくが)
物流が寸断され、機能を失いつつある皇都。さらなる混乱を阻止すべく、超常現象対策室室長・霧島冴子は、重要インフラへの警戒レベルを最大に引き上げていた。
「パンサーの次は『内側』から来る……。私が敵なら、次はライフラインを狙うわ」
霧島の予感は的中した。皇都の全飲料水を司る「北皇浄水場」の最深部。そこには、警備員たちを音もなく「溶かして」侵入した一人の女がいた。
夜風に長い黒髪をなびかせる、目の醒めるような美女。しかし、その瞳は爬虫類のそれと同じ、冷酷な縦の瞳孔を湛えている。毒蛇魔人メデューサだ。
「この美しい街が、渇きと毒にのたうち回る様……想像するだけで肌が粟立つわ」
彼女が浄水池に手をかざし、指先から猛毒を滴らせようとしたその時、周囲を眩い投光器が照らし出した。
「そこまでよ。エルクの魔人」
遮光バイザーを装着し、漆黒のタクティカルスーツに身を包んだ霧島冴子が、精鋭部隊と共に立ちはだかる。その手には、対策室が極秘に開発した対エルク用兵装『対魔振動銃・カドゥケウス』が握られていた。
「人間の分際で、この私を待ち伏せしたというの?」
メデューサが妖艶に微笑むと、その美貌が裂け、髪の一本一本が鎌首をもたげる蛇へと変貌する。
「死になさい、無知な猿共!」
メデューサの口から緑色の毒霧が噴射される。だが、霧島が手元のスイッチを入れると、部隊の周囲に高周波の振動壁が展開され、毒霧を霧散させた。
「……計算通り。あなたの毒は、特定の分子振動で無力化できる」
「小ざかしい!」
メデューサの触手と化した蛇が霧島に襲いかかる。霧島は超人的な反応速度でそれを回避し、『カドゥケウス』から魔人の細胞組織を破壊する特殊振動弾を撃ち込む。
「ギ、ギィィィッ!? 身体が……崩れる……!?」
初めて味わう「人間からの痛み」に、メデューサが激昂する。彼女の身体が膨れ上がり、巨大な大蛇の尾を持つ完全体へと変貌した。その圧倒的な質量と暴力的なまでの毒圧に、対策室のシールドが限界を迎え、警報が鳴り響く。
「……ここまでか。全隊、引くな! 死守せよ!」
霧島が死を覚悟し、最後の一撃を放とうとした瞬間——。
浄水場の分厚い壁を突き破り、地鳴りのような排気音と共に、あの「漆黒の背中」が乱入した。
クロウの登場。その手には、毒を浄化するかの如く、月光を反射する天叢雲剣が握られていた。




