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悪役の双子の弟になった  作者: もち


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14

 学園に来て数ヶ月が経ったある日。


「ユウ様」

「ん?」


 学園の図書館、個室で一人勉強をしていると、従者のノクスから話しかけられる。

 ノクスは王室所属の執事。でも本当はシャルルとレイが育てた、こちら側の使用人だ。

 ある日街に出かけたシャルルが、ノクスを連れて帰ってきたのが始まり。二人はノクスを王室に適う執事として育て上げ、俺の専属になるよう手を回したらしい。俺がこれを知ったのは最近で、教えられた時はいつの間に、とめちゃくちゃ驚いた。


「本日届いた手紙です」

「あらがとうノクス」

「それと、こちらはシャルル様からです」


 家紋の印も届け人の名前も書いてない、簡素な手紙を渡される。シャルルからの手紙は、息苦しい生活の週に一度の楽しみ。つい口元が緩んでしまう。

 ノクスが優秀なこちら側の執事で良かった。必ずアランのいない時間を選んでくれるから、バレずに続けられている。俺から筆を取ることはリスクがあって出来ないが、シャルルのことを知れるだけで十分だ。

 心踊らせながら手紙を読む。


『ユウへ

 約束していた秘密の場所が完成した。

 場所はノクスに伝えている。明日の放課後、そこで待っている。今まで手紙に書いていたこと、これからは直接伝えたい。

 明日を楽しみにしている。

 シャルル』


 秘密の場所、完成したんだ……。嬉しい。やっと、やっとシャルルとゆっくり話せる。


「ノクス、明日放課後になったら案内お願い」

「かしこまりました。ユウ様?」

「渡さないとダメか……?」


 差し出された手に躊躇する。シャルルとの約束で手紙は読んだらすぐ、ノクスに渡すことになっている。俺としては部屋に隠して、元気がない時のお守りとして置いておきたいのだ。


「約束ですから」

「……ちゃんと隠したらバレないと思うんだけど」

「あの王子を甘く見てはいけません。いつか必ず見つかります」

「でも俺の机周りは触らないと約束してるし……」

「……なにがあるか分かりません。念には念を」

「はぁ、分かった従う」

「ありがとうございます」


 観念してノクスに手紙を渡す。

 ノクスが言うことはちゃんと分かっている。俺だって手紙がきっかけで、シャルルに破滅が訪れるのは嫌だ。シャルルに明るい未来を、俺の願いはそれだけだから。


「でもやっぱ直筆の手紙は残しておきたい」

「わがまま言わないでください」

「だってそれ燃やすんだろ。もったいない」

「不貞を疑われないためです」

「不貞って、俺はアランのものになった覚えは無い」

「貴方様がそう思っていても、世間は相思相愛だと思ってるみたいですよ。ほら」


 手渡された学園新聞を読む。そこには『学園のビッグカップル誰も彼らの中を引き裂くことはできない』『ユウ様と双子のシャルル様の不仲は本当だった』『ユウ様に手を出そうとした者たちの末路』

 身に覚えのない見出しが書かれていた。

 なんっだこれ!アランとの関係は別に構わないが、シャルルとの不仲は許せない!不仲なわけあるか!そう見えてるんだとしたら、アランが脅すからだ。会うのが難しいだけで、俺はずっとシャルルのそばにいたいと思ってる。

 ああもう、気分悪いな。


「最悪の記事だな」

「俺もそう思います」

「はっ、なぁシャルルはこの記事読んでないよな?こんな戯言信じてないよな?」

「信じてたら手紙なんか書きません。落ち着いてください」

「そっ、そうか、そうだよな……でも腹立つなこの記事」

「ええ、本当に」

「信じてる人も多いのか?」

「はい、俺が調べたところほぼ全員が信じております。そのせいでアラン王子を狙う輩はいなくなったとか」

「最悪だな」


 狙えよ玉の輿。俺はいつでも婚約者の座をあげる準備をしてるのに、アランを狙う人がいなくなるのは困る。

 あわよくばゲーム通り、誰かが婚約者の座を奪ってくれることを期待していたんだが……。デマのせいで厳しそうだな。


「あーもうため息しか出ない……学園生活ってもっと楽しいものなんじゃないの?」

「俺は通ったことないので知りませんが、ユウ様以外は楽しそうに見えます」

「じゃあ楽しいものなんじゃん!友達もできないし、シャルルと一緒にいれないし、同室はアランだし……もう楽しくない!辞めたい……」

「そう仰らず。明日はようやくシャルル様に会えます。それにもう少しの辛抱ですよ」


 最後の含みのある言い方に少し引っかかる。どういう意味なんだろう。

 気なるけど、まぁ俺の考えすぎだろう。たぶん明日のことを言っていて、頑張って今日を乗り切れとかそんな意味だ。


「分かったよ。とりあえず明日のために今日を頑張るよ」

「ええ、そうしてください。頑張っていればいつか、きっと」

「変な言い方をするんだな」

「いつか分かりますよ」


 そう言って少し笑うノクス。いつも無表情なノクスが笑うなんて珍しい。

 なんてことを思いながら、目の前の課題に意識を戻した。




 *




 約束の次の日、放課後ノクスに連れられ学園の森を進む。あとどれくらいで目的地に着くのか。ノクスに訪ねようとすると、突然目の前に湖が広がった。そしてその奥には小さな小屋が見え、シャルルが出迎えてくれる。


「シャルル!」

「時間がかかってすまない。待たせたねユウ」

「待ってない、は嘘だけど。本当に完成したんだね」

「ああ、ユウと会うために作ったこの小屋は僕たちしか知らない。誰も見つけることはできないから、やっと安心して語らえる」

「入学してからすれ違うだけだったから、本当に嬉しい」

「あそこは煩いやつがいるからな。さて、ずっと外にいては招待した意味がない。中に入ろう」


 差し出された手を握る。


「うん……ってあれ?」


 小屋の中に入ろうとする俺とシャルルを見送るように、レイとノクスは動こうとしない。


「シャルル、レイとノクスは?」

「二人には見張りをしてもらう。誰にも見つからないとは言え、万が一ってこともあるだろ」

「そうかな?」

「そうだ。僕と同じ顔でもお前があいつに奪われたように、何が起きるか分からない」


 奪われた覚えはないんだけど。シャルルにとって婚約は奪われたも同然なんだ。俺にとって婚約はシャルルを守るための手段だから、身代わりになってくれたって喜んでくれてもいいのに。

 ……ってそれは無理か。俺が全力で嫌がってたら、素直に喜べないよな。


「ごめん……」

「なんで急に謝るんだ」

「俺の往生際が悪いから」

「意味がわからない。中で聞くから。ほら、さっさと入れ」


 手を引かれて入った小屋の中は思っていたよりも広くて、温かみがあってまさに理想とする部屋。


「凄い!」

「紅茶でいいか?」

「あ、俺やるよ。お茶淹れるの上手くなったから飲んでよ」

「じゃあ頼む」

「座って待ってて」

「ここで見てる」


 そう言ってシャルルは俺の隣にピッタリくっついてきた。飼い猫がくっついてきたみたいで可愛い。


「動きにくい」

「いいだろ。久しぶりなんだから」

「ふふっ、そうだねー」


 お湯が湧くのを眺めながら待つ。こんなに穏やかな気持ちになるのいつぶりだろ。


「なぁ」

「なに?」

「さっきの言葉どういう意味だ?お前の往生際が悪いって」

「あー……それね。ほら、俺がアランとの婚約を嫌がってるから、シャルルを救うって言っといて嫌がるのは、ね」

「歯切れが悪いな」

「うーん……ごめん。シャルルのためなら破滅する覚悟はあると思ってたのに、踏ん切りつかない自分が嫌になるよ」


 お湯をティーポットに注ぎ茶葉を蒸らす。紅茶のいい匂いが部屋に漂う。茶葉が群れるのをぼんやり見つめながら待つ。すると隣に立っていたシャルルは、俺の肩に頭をもたれかけてきた。


「ユウはまだ、僕のことを好いてくれてるのか?」

「?当たり前だろ。俺がシャルルのことを嫌いになるなんてことはないよ」

「そう、なら安心した」

「変なことを聞くんだね」

「大事な事だ。僕が今進めている計画は、お前が僕のことを好いてくれないなら意味が無いものだから」

「計画って、学園に来る前に言ってたやつ?」

「ああ」


 スリ、と頭を擦り付けられる。


「それってどんな計画?」

「言っただろサプライズだって」

「気になる……ヒントぐらいちょうだい」

「ヒントか。そうだな……こうやってユウと暮らす未来を手に入れることかな」

「それがシャルルの手に入れたい結末なの?」


 俺は嬉しいけど、それってシャルルの幸せに繋がるのかな。シャルルは優しいから責任を感じて、嫌がる俺のためにその未来を作ろうとしてるなら止めて欲しい。


「もし俺が身代わりになったことに負い目があるなら……」

「負い目なんかない。あるとしたら、お前に十年間嫌な思いをさせたことだけだ。本来なら僕が受ける教育を受けてもらったんだ。お前の自由を奪って申し訳ないことをしたと思ってる」

「俺が望んでした事だから謝らないで。俺はシャルルの役に立ててると思うと嬉しかったよ」

「ユウ」


 ティーポットを持ちカップに注ごうとすると。腰にシャルルの腕が絡みつき、身動きが取れなくなってしまう。


「シャルル危ない」

「僕が必ずお前と一緒にいれる場所を作るから」

「ここはそうじゃないの?」

「ここは限定的なものだ。一日中側に入れる訳じゃない。お前は僕が近くにいるのは嫌か?」

「嫌じゃない!」

「その言葉が聞けただけで良かった」


 そう言うとシャルルは俺から離れてしまった。名残惜しさを感じつつも、自由になった手で紅茶をティーカップに注ぐ。


「美味いな」

「立ち飲みは行儀悪いよ」

「お前しかいないんだからいいだろ」

「もーしょうがないな」

「そうだ、ここに菓子も用意してもらってるんだった。一緒に食べよう」

「うん」


 取り出されたクッキーは美味しそうで、見てるだけでお腹がすいてくる。


「ユウと一緒に過ごせて僕は幸せだよ」

「俺もシャルルと一緒で幸せ」


 眩しいほどのシャルルの笑顔を見つめながら願う。このまま時間が止まってしまえばいいのにと。


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