13
無事に入学式とオリエンテーションを終え、寮へとやってきた。多くの貴族が通う寮なこともあり、部屋は広いし送っていた荷物も開梱済み。
ただ一点だけを除いて。
「なんでベッドが一つしかないんだ」
「え?」
キングサイズのベッドが部屋のど真ん中に置かれていた。
両端には机が置かれており、真ん中には部屋を仕切っていた跡がある。と言うことは、いくら二人一部屋とは言え、プライバシーを守れる配慮はあったわけだ。
「いくらなんでも権力を乱用しすぎだろ……」
「なんのこと?」
「ベッド!本当は一人一つだったんだろ!戻せ!」
「えーせっかく一緒に寝れるよう手配したのに……ダメ?」
首をこてん、と傾けてキラキラ三割増で聞かれる。
「ダメに決まってるだろ!」
ゲームなら一枚絵で表示されそうな顔で聞かれる。アランに憧れている人ならこの顔に惚れ惚れするんだろうけど、見慣れた俺からすれば腹立たしい以外の感情はない。
「今すぐ戻せ。無理なら俺はしばらくソファーで寝る」
「未来の旦那なのに……」
「まだ仮だろ」
「どうしてまだそんなことを言うんだい?私にとっては確定事項だと言うのに」
「……他にいい人が現れるかもしれないだろ」
「まだそんなことを言ってるの?」
アランは俺の背後にある壁に両手を付け、俺を閉じ込める。至近距離にせまる顔が嫌で、逃げるように目を逸らす。
さっきの言動はなぜかアランの地雷になっており、言えばいつもこうやって不機嫌になる。面倒だからいつもは面と向かって言わない。だけど今回は我慢できなかった。吐き捨てたくなるほど、されたことが嫌だった。
「そんなことって……」
事実だろ。とは言えない。ゲームの知識があるとは言え、まだ起こってないことを言うのはおかしいから。
「私が浮気してるとか考えてるの?」
「……世継ぎが必要な立場なんだから、一人くらい相手がいてもおかしくないとは思ってる」
「それは何度も言ってるけど、私は養子を取る予定で君以外を相手にする気は一切ない」
「そんなの……周りが許すわけない。血を大事にしているやつがいるだろ」
「ああ、古い考えのものなら辞めてもらった。固執した考えをもつ者は私の国作りに必要ないからね」
顎を捕まれ正面を向かされる。無理やり合わせられた目に光はなく、ドロリとした愛憎と執着の色が滲んでいる。この目、昔から苦手なんだよ……。
「あと何をすればユウは私の愛を信じてくれるんだ?学園の決まりも変えた、君に意地悪を言う王宮のものは皆、例外なく辞めてもらった。側室だって絶対に取らないと誓った」
「……いくらなんでも、あそこまでしなくても良かっただろ」
数年前、あまりにもしつこく迫ってきた時があった。その時に俺は疲れていたこともあり、「どうせ心変わりする」と言い放った。その直後アランは笑顔から無表情になり、この世界で唯一王族にも効く契約書を持ち出してきたのだ。
それは契約を破れば賢王でも王位を問答無用で剥奪され、国外に追放されてしまうこの世で最も重い契約。誰にも不履行には出来ないもの。それをこいつは「絶対に側室を取らない」と言う、大臣真っ青の契約書を俺に突きつけてきた。
……あの時のアランの行動力は怖かった。迷いを見せることなく即座に契約を交わしていたから。
「あのベッドだって君と共にありたいから置いただけ。君の許可が出るまで抱くつもりは一切ないから安心して欲しい。心配ならまた契約書を書くよ」
「……あんなものは一枚で十分だ」
「そう?私は君が満足してくれるまで何枚でも書けるよ」
「やめろ」
「じゃあどうすればいい?」
「部屋を戻せ」
「夜ぐらい君を側で感じたいだけなんだ」
「夜は一人でゆっくりしたいから嫌だ」
「……どうしてもかい?」
「どうしても……どうせ卒業したら一緒に寝なきゃいけないんだろ。学生の時ぐらい分けて欲しい」
「……分かった。さすがに今日中はもう無理だから、今夜だけ我慢してくれ。明日の夜には元に戻るよう手配する」
そう言ってアランは俺から離れていく。聞き入れてくれて良かった。さすがに三年間同じベッドは嫌だからな。
しかしここまで執着されると、あいつが本来の筋書き通り心変わりしてくれるのか心配になる。俺がゲームでのシャルルの立場にいるから、アランが心変わりしても破滅するのは俺だ。万が一心変わりしなくても、シャルルがエンディング後を自由に生きる分には問題ない。
そう言い切りたいのに、どうにも胸騒ぎが収まらない。本当にこのまま俺が望む未来を手に入れることができるのか、不安と疑問がどうしても拭えない。




