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穏やかな陽の光がさす入学式の朝。本来なら新生活にわくわくしている所、だったがアランが迎えに来るせいで朝から憂鬱だ。
「はぁ……」
「今日にふさわしくないため息ですね」
「別にいいだろ。今日から息苦しい生活が始まるんだから」
「未来の王配ともあろうお方が、そんなことを言ってはいけませんよ」
「少し愚痴るぐらい許してよレイ」
いつものように支度を手伝ってくれるレイ。これも今日が最後になってしまう。
学園でレイはシャルル専属の付き人。俺アランの婚約者なので付き人は王宮の人になるそうだ。まだ顔も名前も知らない人が。
「レイからシャルルの近況を聞けるのも今日が最後かー」
「学園は身分関係なく交流が持てる場です。明日からはシャルル様と直接、たくさん話せば良いではありませんか」
「無理だよ……アランが許してくれない。今日だってシャルルと二人で向かうはずだったのに、アランに邪魔されたんだよ」
「ああ、そう言えば迎えに来ると仰ってましたね」
「本当、あいつはいつも僕の邪魔ばかりする」
ドアから響いた声に反応し振り返る。
「シャルル!」
会えたことに嬉しくなり近くまで駆け寄る。
「久しぶりだなユウ。と言っても一週間ぶりだが」
「一週間は長いよ。少し前までは三日置きに会えてたのに……でも、会えて嬉しいよ」
「すまない。最近は少し事業と外交が忙しかったからね。僕も会いたかったよ」
抱き合って互いの温度と鼓動を感じる。良かった今日もちゃんとシャルルが生きてる。それだけ俺は幸せで、クソみたいな現実を生きることができる。
「あ、シャルルこの後のことなんだけど……」
「昨夜レイから聞いた」
「断れなくてごめん……」
「ユウが気にすることじゃない。僕の方こそごめん。……もう少し上手くいってれば、間に合ったのに」
「なんの事?」
「なんでもない、こっちの話だ」
次期跡取りとしての後継者教育で大変なのはもちろん。ここ数年は公爵家の領地経営にも関わっていた。その上、俺がアランと婚約を交わした頃から始めた事業と貴族との交流もある。
俺も忙しい方だけど、シャルルはマジでいつ寝てんだってレベルでスケジュールが詰まってる。とは言え、これはレイから教えてもらった部分だから、本当はもっと大変なのかもしれない。
「ねぇ、それって最近シャルルが忙しそうにしている事と関係ある?」
「関係ある。そうだな、あと一年……長くても僕たちが卒業するまでに必ず」
「話が見えないんだけど」
「ユウにサプライズがあるって事だよ」
「サプライズって?」
「教えたら意味ないだろ」
「ヒントだけでもダメ?」
「……一つだけ言うなら、ユウを幸せにすることだよ」
「ヒントじゃない気がするも俺のことを考えてくれてるのは嬉しいよ。でもシャルルも必ず幸せになってくれなきゃ俺は嫌だよ」
そもそも婚約だって、シャルルが幸せになるための身代わりなんだ。俺だけ幸せになっても、なにも嬉しくない。
「大丈夫、ちゃんとユウと僕が幸せになれる未来しか考えていないから」
「ならいいけど……」
「さて、久しぶりの邂逅に話が弾むのも分かりますが、ユウ様お時間です」
「もう?まだ早いと思うんだけど」
「気のせいです。ほら、王子殿下がこちらに向かってるのが見えますよ」
そう言われ窓の外を見ると、アランが屋敷に向かってくるのが見えた。約束の時間より少し早い。
シャルルとの時間を盗られたことにゲンナリしていると、俺に気づいたアランが満面の笑みで手を振ってきた。かなり距離あるのによく気づいたな。
「あーあシャルルともっと話したかったのに……」
「今は仕方ない。大丈夫、もう少しの我慢だ」
「分かった。学園でまた話そう」
「ああ、ゆっくり語れる秘密の場所を用意しておく」
「秘密の場所って作れるの?」
「ユウのためなら。少し時間はいるけど、必ず二人で過ごせる場所を作るよ」
「シャルルが言うなら信じる!じゃあまた学園で」
「ああ」
シャルルに別れを告げ、アランが待っているであろう玄関に向かう。
昨日の憂鬱が嘘のように今は心が軽い。サプライズの意味は分からなかったけど、シャルルがいいことって言うなら間違いない。
さて、俺もシャルルの足を引っ張らないよう頑張って破滅を回避しないと。




