仕事場へ
「朝飯を食ったら、早速仕事の中身を説明してやるよ。」
アラクレイが、口に食べ物を入れたまましゃべっています。
「仕事の中身を聞いたら、もう逃げられないとか、そういうことはありますか?」
「仕事の中身が犯罪や悪事でないことは、私が保証しますよ。」
イーオットが脇から口をはさんできます。
「アラクレイは、ひどい言い方していましたけれど、精霊達をなぐさめて、鎮めるお仕事です。世の中の役に立っているんですよ。」
ムクチウスも、うんうんと、うなずいています。
「つまり、見てしまったら、戻れないんですね。」
イーオットとムクチウスはちらっと顔を見合わせ、何とも言えない表情をしています。
「分かりました。それでも、よろしくお願いします。」
多少のことには目をつむりますとも。
ここのご飯を食べた後では、ひもじい暮らしから始める気にもなりませんでしたし。
アラクレイは、僕の様子は気にしていないようです。
「ああ、一つだけ確認だが、お前、付与術は使えないよな?」
「ええ、使えませんよ。それが何か?」
「付与術が使える奴の場合、夢魔の島じゃ、とんでもない目に逢うことが有るんでな。」
「そうなんですか。」
嘘ではないので、大丈夫でしょう。やっぱり、術の類が使えるか、探っていたのでしょうか。
「さて、喰い終わったか? それじゃ、出発するとしよう」
あわただしさに、イーオットがムクチウスに、両手を上げて見せています。
いつものことのようですね。
この建物は、管理棟、と呼ばれているそうです。
今は、六人だけが暮らしていて、その中には僕も入っていました。
あとの二人は、もう「げんば」にいると言います。
騒がしくイーオットやムクチウスに話しかけるアラクレイに続いて、歩いていきます。
建物から畑を抜けて、森に入り、もう少し歩くと、地面に、大きな穴がありました。
さし渡しは、五メートルくらいでしょうか。
ほんの少しだけ働かせている探知にかかるくらい、強烈な魔力を秘めた仕組みがあるようですが、中は真っ黒い煙で満たしてあるかのように、なにも見えません。
蓋のような結界でしょうか。
「この穴は、何ですか? なんとなく、おかしな気配がするんですが」
なんとなく、というレベルでは全然ないのですが、一応。
「この穴は、『風穴』って呼ばれていてな、中が魔道具の捨て場になってるってわけだ」
「捨て場じゃありませんよ、安置所です」
イーオットが訂正します。
「どっちだって、変わりゃしないさ」