コーディウスの記憶
リュシーナは、思う。
私は忘れてない。
八歳のときのコーディウスを。
久しぶりに見た彼は、グラスに封じられた氷精霊と、話をしていた。
ほかの人なら気付かないような、ちょっとしたそぶりだったけれど、私には分かった。
前にも、そんな姿を見たことがあったから。
初めて見たのは、四歳くらい。
その時は、もっと無防備に、宮殿の部屋の精霊窓に話しかけていて。
誰かが外にいるのかと思ってた。
少しあとにその窓の前を通りかかったら、外にはテラスも人が立てるような場所もなくて。
あの子、幽霊でも見えるのかな、でも、それにしては、楽しそうだったな、って。
魔道具に封じられた精霊と話ができるなんて、とても珍しい術。
どの書物にも、書いてなかった。
私と一緒で、きっと秘密の術なのだ。
それで、彼と、話してみたいと思ってた。
私が近づいて行ったら、コーディウスは、グラスから、ひょいって氷の精霊石を取り出してみせた。
面白い手品ね。思わずクスクス笑ってしまう。
内緒だよとささやく彼から、精霊石を受け取って、自分の持っていたグラスに氷の精霊を重ねて封じてみせた。
でも、微笑んでるだけで、驚きもしない。
この人は、私の秘密の術に気づいてる。
そうね。
他の家の人間が気づいてるってこと、秘密にしておくわ。
でも、こんな使いみちもあるって、想像してたかしら?
グラスにキラキラと霜が降りて、中の果実水が凍っていく。
出来上がった甘い果実氷を、二人で分け合ってコッソリ食べたの。
そしたら、グラスの中の氷精霊が、くるくる笑ってるよって。
そんなこと言う人、初めてだったから、忘れるはずがない。
十歳になって、加護の儀が行われて。
私の加護は、「重付ノ術」。
精霊を封じられている品物に、もう一柱の精霊を重ねて封じられる、ものすごく稀な能力。
もちろん、私にはその力の中身は分かっていた。
ただ、私は、初めて公にされたこの力が、どれほどたくさんの人間を巻き込むものかを、分かってなかった。
そして、ひと月後。
コーディウスが、加護の儀の翌日に死んだと、聞かされた。
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