出会い
早速、人の気配がします。
こちらの様子を探っているみたいですね。
僕も、付与術は落ちこぼれでしたが、それ以外の精霊術はそれなりに修めています。
気配もかくさずに探知をするあたり、油断しているか、玄人ではないようです。
問題なさそうなので、こちらから近づいてみます。
僕の服装は、普通の街の人のものなので、普通の子どものようにふるまってみましょう。
キョロキョロしながら無造作に歩いていくと、声をかけられました。
「止まれ。お前は何者だ。」
中年のおじさんです。
ひょっとしたら、もう少し若いかもしれません。
地味ですが、丈夫そうな服を着ています。
「僕はコーダといいます。あなたはどなたですか。」
「……」
これで名乗ってくるようなら苦労はないですね。
「事情があって、家を出なければなりませんでした。暮らせる場所を探しています。どこか、町か集落はありませんでしょうか。」
「家出か?」
「父さまも母さまも大好きでしたが、もう会えません。家にも、帰れないんです。」
男は、腕を組んで、考え込んでいます。
あと少しですね。
「父さまは、犯罪者として捕まってしまいました。母さまも、どこかへ連れて行かれてしまいました。僕だけが、逃がされたんです。もう、戻る場所はありません。はたらいて、食べていく方法を探さないと、僕は、僕は……」
「分かった。とりあえず、ついてこい。」
油断は禁物です。むしろ、たたみかけましょう。
コーダは、ふらりと足元にくずれ落ちる。
とさ、と小さな音がして横になるコーダ。
まだ十歳、しかもコーダは年の割に小柄だ。
男は、その華奢な体を抱きかかえて歩き始める。
「ありがとう、ございます……」
コーダは、呟く。
「ここは、夢魔の島だ。」
男が、小さな声で言う。
男の足取りから、迷いが消えていた。