34. 横山展望台
石神さんでお願いした後はパールロードに戻って南下する。しばらく進み、大きな橋を渡ると右手に志摩スペイン村が見えてくる。ここまで来ると三重県の大きな観光地、志摩地方の入り口だ。今回はスペイン村は通過して、そのまま鵜方駅方面へ進む。伊勢神宮から観光しながらここまで移動して来たので、夏で昼が長いとはいえ夕暮れ時が近くなっている。
鵜方駅までたどり着いたらもう少し。進路を西にとって標高200メートル程度の小さな山にそのまま登る。空が赤みがかってきたから急がないと。
『横山展望台』
三重県志摩地方にある小さな山、横山。この山の中腹よりやや上側に位置する展望台。標高は低いものの、ここから眺める英虞湾の景色はまさに絶景。複雑に入り組んだ入り江と大小様々な緑豊かな島々が浮かぶ英虞湾。その眺めは松島にも劣らないとも言われている。
「これって、海?川?」
「島……だよね?陸地と繋がってないよね?」
「どこからが海なのでしょうか」
「夏の時期の眺めも良いねぇ、力強い緑色が映えてるわ」
海なのか、川なのか、湖なのか。無数の島が浮かんでいるというだけではなく、陸地側からも数多くの突起があるため、ぐちゃぐちゃに入り組んでいて自分が何を見ているのかが良く分からない。そのくらい『複雑』と言う言葉が似合う地形だ。そのほとんどが緑に覆われているから海との色の境がくっきりとしている。
「こういうのが『趣がある』っていうのかな」
「どこから撮っても絵になりますね」
そういって写真を沢山撮りまくっている根古ちゃん。その気持ち分かるなぁ。
「あれって何~?」
「ミカン何か見つけたの?」
ミカンが指さすところは比較的島が少なく海が多い方面だ。この展望台は見晴らせる角度が非常に広く、各々の場所で違った風景を見ることができる。
「何だろうね?板と列状に並べた浮き?かな」
大きな白い板のようなものと、列状に何列も並んだ正体不明の何かが海に浮いている。漁業の何かなのは間違いないと思うんだけど。
「あれは真珠養殖筏だわ」
「真珠!?」
そういえばこのあたりって養殖真珠が有名だったっけ。へぇ~あれが真珠の養殖なんだぁ。あれはあれで景色に溶け込んでて面白いなぁ。
「真珠って宝石ですか?」
「うん、そうだけど、プラムは宝石に興味あるの?」
「向こうの世界だって綺麗なアクセに興味のない女の子はいません」
「出会った時はボロボロの服ですごい臭いだったのに……」
「そ、それは忘れてくださいっ!」
向こうの世界でも宝石で着飾るって概念あるんだな。あれ?でも異世界で想像すると宝石って装備品のイメージもあるぞ。
「向こうの世界で旅人が宝石で着飾ったら盗賊に狙ってくださいって主張しているようなものです。煌びやかな世界はお金持ちの特権なんですよ。こっちの世界でのオシャレに慣れちゃったらもう元の生活には戻れません……」
「あはは、ごめんごめん。でも向こうの世界では宝石は装備品だったりしないの?」
「漫画の読み過ぎです」
「うぐっ、プラムがそれを言う?」
「宝石なんてただの色がついた石っころですよ」
夢が無いなぁ。宝石を媒体に魔法を発動とか出来ないのかな。
……確かに漫画の読み過ぎな気がしてきた。
「興味あるなら後で買いに行きましょう」
「はい!」
「お、良い感じに陽が沈んできたぜ」
「わ~島々が赤く照らされてて綺麗だねぇ」
海の向こうは陽が沈む方向ではないけれど、空が焼けるように赤いだけで目の前の景色がこれまでとは全く別の存在になったように感じる。180度以上の大パノラマだからこそ、変化を存分に堪能することが出来ている。
全員で横並びになって幻想的な景色を無言で眺めている。隣に立つゆ~ちゃんと横石さんと手が触れ合い、なんとなく手を繋いだ。今この瞬間の幸せが、これから何度も味わえますように。ああ、石神さんにこの願いをすれば良かった。
……なんで横石さん、恋人つなぎなの?
チラっと横目でみた横石さんの顔が赤く見えたのは夕陽のせいなのか……
少し上の見晴展望台に移動して、陽が沈みきるまで鑑賞することにした。引き続き島々の景色を眺める人、横山の自然を鑑賞する人、遊歩道に散歩に行く人、写真を沢山撮る人など様々だ。わたしは何となく他の方向も含めて景色を鑑賞することにした。
「あ、あああ、あれはああああああああ!?」
「ゆ~ちゃんどうしたの?」
「そんなに驚くものがあったのかしら?」
一緒に着いてきているゆ~ちゃんと横石さんが冷静に聞いてくる。いやいや、冷静になんてなってられませんよ!
「あ、あれ!あの遠くに見えるのって!」
「……あ~」
「……ここから見えるとは思いもよらなかったですわ」
見えるよ、見えるよおおおお!
愛しの富士山が!
ああ、君と離れてどれくらい経っただろうか。
外に出て君が見えないことに落胆する日々。
どれだけ美しい景色に心奪われても、君のことを忘れたことは一度だって無かった。
再会する時を心待ちにする日々。
その想いが今、君に届いたのだろうか。
安心してください、わたしは無事に旅しています。
お互いに幸せな毎日を過ごせていることを祈りましょう。
君の元へ戻るその日まで。
「それを歌詞にすれば良いんじゃない?」
「こんな歌詞恥ずかしくて歌いたくありませんわ!」
あれ?わたし口にしてたのかな?横石さん何気に辛辣だよ……
「久しぶりに暴走したね~」
「まぁ御影朋らしくて良いと思うわ?」
ふんだ、この気持ちは誰にも分からないもん。まさかこんな遠くから富士山が見えるなんて。やっぱり君の存在感はこれだけ離れていても隠し切れないんだね。
「こらこら、またポエムりそうになってるわよ」
「み~ちゃんの黒歴史だ~」
「黒くないもん!」
失礼だなぁもう。
英虞湾って地図で見るとギザギザでグチャグチャなんですよね。ほとんどが自然豊かな島々だからこそ景色映えするのだと思います。
富士山って相当遠くからでも見えるので、こんなところからも見えるんだ!って驚いたことが何回かあります。
長かった旅路も終わりが近いです。




