16. すみれさんとわたし
「すみれさん、今回はバイクじゃなくて良かったんですか?」
「ん?ああ、三重県は何回か走ったことがあるから良いのさ」
「そういえば良く渋滞する場所だって言ってましたね」
「四日市の辺りを車で通過したいなら時間を考えないとダメだな」
すみれさんの話はあまり聞いたことがないから新鮮だ。日本全国を旅していたって聞いたことがあるけど、その旅についての話をしたこともほとんどないんだよね。
「すみれさんって、これまでどこを旅したことがあるんですか?」
「ん~…………秘密」
「ええ~教えてくださいよお~」
「いんやダメだ。だってお前旅の行先決めるときに、『そこはすみれさんが行ったことがあるから後回しにしよう』とかって言うだろ」
うっ、確かに言っちゃうかも。
「そ~いう気遣いはいらないの。だから言わねぇ」
こっちを見てにやりと笑うすみれさん。もしかしてわたしってすみれさんに結構気を使わせちゃってる?
「でもすみれさんについてもっと知りたいなぁ」
「ほうほう、俺について何を知りたいって?」
「例えば、出身地とか」
「秘密」
「好きな食べ物とか」
「秘密」
「バ、バイクについての話とか」
「秘密」
「なんで全部秘密なんですか!」
ニヤニヤと笑っている姿を見るからに弄られてるんだろうなぁってのは分かるんだけど、ちょっと意地が悪すぎないですか。
「まぁその辺りの話が知りたいなら弓弦や玲菜に聞いてみな。あっちの異世界組でも答えられるぜ」
「え?なんで?」
隣の横石さんとゆ~ちゃんを見たら不思議そうな顔をしてる。
「むしろ御影朋が知らないことにびっくりだわ」
「み~ちゃん知らなかったの?」
ええ!なんでわたしだけ知らないの!?
「くっくっく、自分だけ何も知らないのが不思議か?」
「うん、わたしが居ないときに皆に話をする機会でもあったの?」
「はっはっはっは!」
え?何?どういうこと?
「ゆ~ちゃんはいつ聞いたの?」
「いつって、覚えてないよ。普通に話してたら話題になっただけだと思うけど」
「横石さんは?」
「私も同じだわ」
「え?一緒に聞いたんじゃないの?」
「「いいえ」」」
わたしだけのけ者だった~とか、そういうわけでもないんだ。でもおっかしいなぁ。
「おっかしいなぁ、とか思ってんだろ?くっくっく」
「もう、何が面白いんですか!」
「いやぁすまんすまん、あれだけ周りの事が見えている朋が気付いてなかったのかと思うとおかしくってな」
「気付いてなかった?」
何の事だろう。横石さんもゆ~ちゃんも普通の会話ですみれさんのこと知っただけみたいだし、そこに特別な何かがあるとは思えないんだけど。
ひとしきり笑い終わったすみれさんは、普段はあまり見せない少しだけ真面目な顔になって私を見た。
「はっきり言うが、この中で俺のこと一番知らないのは朋、お前だ。最後に加入したシャモアたちよりも知らないだろうな」
「…………え?」
「誤解するなよ。俺が意地悪してるとか、他のやつらには特別に話す機会があったとか、そういうことじゃないからな」
それじゃあなんでみんなとわたしでこんなに差があるんだろう。
「理由は単純なことだぜ。話をする機会が朋より他のやつらの方が圧倒的に多いってことだ。話って言ってもどうでも良い世間話な」
「機会が無い?」
そうだっけ?すみれさんにも積極的に話をしてるような。
「お前の話はどうも事務的というか、俺に対して壁があるんだよ」
「ええ!?壁!?無いですよ!」
「気付かないもんかねぇ……そうだ、お前が俺のことどう思ってるか当ててやろうか」
「どう思ってる、ですか?」
「ああ、お前にとって俺は『憧れのお姉さん』だろ」
街で最初に見かけたとき、透き通るような綺麗な歌声で楽しそうに歌うすみれさんを見て感動した。
背が高くてスタイルも良くて地元のお爺ちゃんお婆ちゃんや子供たちと話をする表情が優しくて大好きだ。
素のすみれさんが男勝りな発言や言動が多いことを知ったけれども、それも頼りがいがある感じがして気に入っている。
確かにわたしにとってすみれさんは『憧れのお姉さん』だった。
「そうか、だからわたし……」
新しく出会ったミカンたちだけでなく、根古ちゃんにも自然と裸の心で踏み込んでいるのに、すみれさんにだけは『憧れ』が勝っていて踏み込めてなかったんだ。だからなんでもない普通の世間話が出来ていなかったのかもしれない。
「俺はそう思ってくれてることが小恥ずかしくもあったが、同時にちょっと嬉しくてな。だって素の自分を見せても憧れ続けてくれるんだぜ。最高じゃね~か。だからよ、朋の憧れのお姉さんのままで良いかなって思ってたんだ」
「うう、改めてそう言われると段々恥ずかしくなってきました……」
「おう、照れろ照れろ。俺も恥ずかしいんだ、お前も恥ずかしがれ」
そういうすみれさんの顔は、わずかだけど紅潮しているように見えた。これ、レアな表情だよね。こっちも恥ずかしくてまともに顔を見られないのが悔しい。
「とまぁそんなこんなで現状維持で良いかなって思ってたんだが、他の奴らがかなり気さくで面白れぇ奴ばかりだから直ぐに打ち解けちまってな。気付いたらお前だけ俺のことを全く知らないっていう歪な状態になっちまった」
「そ、それじゃあ今教えてください!」
「だ~め、他の奴らと同じように自然な世間話で情報を入手すること。これ、この旅での課題な」
「厳しい~!」
でもその課題、絶対クリアしてやる!
憧れだけじゃダメだ。
だって今は仲間なんだもん。
憧れの気持ち以上に友達として何もかも一緒に楽しみたいんだもん!
「ねぇねぇみ~ちゃん、弓弦が教えてあげよっか?」
「うん、教えて!」
「っておいおい、それじゃあ意味無いだろ~が!」
「いいもん、どうせ今更聞こうとしても不自然な会話にしかならないだろうし、みんなが知らないこと聞き出すから」
「お、おう。まぁそれもそっか」
ぐふふ、この旅は移動中も一緒の時間が多いからね。聞き出す機会はたっぷりあるぞ。最大の目標はスタイルの良さの秘密を聞き出すことだ!
「ちなみにこいつが俺と話をする機会が少ないの、弓弦と玲菜にも原因があるんだぞ」
「「え?」」
「お前らいつもこいつにくっついてるだろ。だからこいつが世間話をする相手はどうしても傍にいるお前らになっちまう。そうじゃなきゃもっと俺と会話する機会が多くなって話しやすくなってただろうに」
「横石さん?ゆ~ちゃん?」
「あ、玲菜これ食べる?最近コンビニで発売されたポテチだけど美味しいのよ」
「そ、そうね。たまにはそういうものも食べてみるのも良いかもしれないわ」
話聞いてないフリしてる!
いつも一緒にいてくれてありがとう、って言いたかっただけだよ?




