18. 稲取宿泊2
「はぁ~気持ちよかったぁ~」
お風呂から出てもまだ幸せ気分だよ。体も心もぽっかぽか。みんな部屋でぐだぐだな感じでだらけちゃってる。真面目な根古ちゃんもとろけるような表情で床に寝そべってる。今くらいは行儀悪くても良いよねぇ~
「失礼します。夕飯の準備を致します」
あ、夕飯の時間だね。たくさん歩いたしお風呂でたっぷり汗かいたし、お腹減ったよ~
仲居さんがテキパキと部屋に夕飯のセッティングをしてくれている。みんなゾンビみたいなノロノロ動きで席に向かう。
「お飲み物はいかが致しましょうか」
こういう場合の飲み物ってお酒のことだよね。飲めるのは2人だけかな。
「俺はビールで」
「私もビールをお願い致します」
わたしも飲めるようになりたいなぁ。後2年!
「それではお飲み物をお持ちいたしますので、それまで食前酒で乾杯して前菜をお召し上がりください」
目の前には美味しそうな前菜が並んでいる。そしてその横には鮑の酒蒸しが一人一匹丸々!早く食べたいっ早く乾杯しようっ!
「そ、それじゃあみんな乾杯するよ。食前酒手にもって。あ、異世界組はわたしが乾杯って言ったら乾杯って叫んでからこれ飲むの。由来は聞かないで、さあやろう早くやろう、いい?行くよ?」
早く食べたいんだってば、さっさと小さなグラス持って!
「それじゃあ、みんな、アイドル活動めっちゃ楽しもうっ!かんぱ~い!」
「「「かんぱ~い!」」」
わぁ、ライチ酒がさっぱりしてて美味しい。さて、鮑はまだ蒸してる最中なので前菜を食べようっと。真ん中にあるのは色が着いてるけどうずらの卵かな。う~ん!濃厚!ほんのり何かの香りもついてる。おっいしぃ~
小さな穴子寿司やグラタンも薄味だけど口当たりが良くて美味しいなぁ。これはこの先も期待できそう。
「そういえばすみれさんはこういうの見て勉強しないの?」
「ん?ああ、写真に撮った。勉強もしたいけど、今はそんなことより味わいてぇじゃん!」
そうだよね!何も考えず食べたいよね!味わいたいよね!だってこんなにも美味しいんだもん!
「お飲み物をお持ち致しました。鮑もお皿に移しますね」
黄金色のビールを持った成人2人はもう一度乾杯してからゴクゴクと喉に流し込んだ。
「くっは~うめぇええええええ。さいっこうだああああああ!」
「ん~~~!美味しいです!」
ああ、いいなぁ。早くわたしもあんな気分味わいたいよぉ。
「鮑はバターかお塩でどうぞ。すぐに次の料理を持ってきますね」
鮑かぁ、食べたことないんだよね。どんな味がするんだろう。まずはナイフで切ってそのまま食べてみよう。
「え……これが鮑……ですの?前に食べたのは一体……」
横石さんって前に鮑食べたことあったんだね。でも前とあまりにも違っていて絶句しているみたい。それもそのはず、何この濃厚な味!歯ごたえがプリップリで、身がとてつもなくぎゅって詰まってるから、噛めば噛むほど甘みが口の中に溶けだして来る。鮑ってこんなに美味しかったんだぁ。バターとお塩も良いなぁ。鮑の味がしっかりしてるから、バターや塩の味しかしない、みたいなことにはならなくて鮑の旨味をひきだしてくれるんだよ。幸せぇ~
「プラム、この世界に来て本当に良かったでござるな」
「はい、はい、そうですね……」
「こんなシンプルな料理なのにこんなに美味しいなんて不思議~」
異世界組が前菜と鮑の美味しさに感動していたその時、それはやってきた。
「お刺身の船盛りをお持ちいたしました」
なにこれでかい!全長2~3メートルはありそうなほど大きな船の上に色とりどりのお刺身が乗ってる。
「御影丸?だって、み~ちゃんの名前だ!」
ちょっとこれは恥ずかしいかも。ううん、気にしないで食べる!
「こちら本わさびをお好みですりおろしてお使いください」
「やらせてやらせて~!」
ミカンこういうの好きだよね。わさびも好きだし、任せよっか。ん~お刺身も甘くて美味しい!
「横石さん、すごい旅館見つけたね。出てくる料理が全部とんでもなく美味しいよ」
「たまたまネットで調べてたら料理の評判が高い旅館を見つけたのですわ。少しお高いところでしたが思い切って選んでみて大正解でしたわね」
本当に大正解だよ。大満足だ~
「み~ちゃん、もう満足しているところ申し訳ないんだけど……」
「ゆ~ちゃんどうしたの?」
「ここにある献立表を見ちゃったの、まだ1/3も終わってないんだけど……」
「へ?」
まっさかぁ……この美味しさの料理がまだ3倍近く出てくるの?嘘でしょ?
「和牛ロースト彩野菜、アンチョビソースでございます」
はうっ!
「冷製アスパラポタージュでございます」
ぐはっ!
「そして当旅館一番の名物、金目鯛姿煮でございます」
あ、金目鯛の煮つけは食べたことあるから知ってる。おいしいんだよね。流石にこれは食べたことあるから感動はしないと思うけど。
「………………」
「…………………み……ん」
「…………………み………ちゃん」
「み~ちゃん!」
「あ、あれ?ゆ~ちゃん?」
何この美味しさ!一瞬意識が飛びかけたよ!?
口に入れた時はふわっとした優しい感触なのに噛んでみるとしっかりと弾力があって白身なのに濃厚な甘い身の味がする。これだけならやや淡泊なんだけど、そこに超濃厚な金目鯛の脂がしみ込んだ甘いタレが加わると口の中が旨味で溢れておかしくなりそう。箸が止まらないよぉ~
「よろしければ白ご飯をお持ちいたしましょうか?」
悪魔だ!この旅館には悪魔がいるよ!それじゃあ根古ちゃん、みんなを代表してどうぞ。
「はい、喜んで!」
美味死するかと思った。
その後も煮物、〆肴、鯛ご飯にデザートまで、全てが美味しいものだらけだった。温泉だけじゃなくてご飯もこんなに美味しいなんて、この旅館すごすぎるよ!
ご飯の後はみんな幸せをかみしめるかのようにぼぉ~っとした時間を過ごしていた。仲居さんが敷いてくれたお布団の上でゴロゴロする人もいれば、気を取り直してもう一度お風呂に入る人もいる。わたしはゆ~ちゃんや横石さんと窓際で波の音を聞きながらゆったりとおしゃべり。つい先日まで高校を卒業して一人だったわたしが、たった2か月でこんなに沢山の人と一緒に幸せを噛みしめているなんて、想像できなかったな。ホント、人生何が起こるかわからない、だよ。これでこの宿から富士山が見えれば完璧だったのに。
夜も更けてきて、全員部屋に戻ってきたので寝る準備。ではなくて、お布団の上で横になってお話だ。
「やっぱり旅行の夜は女子トークよね」
ゆ~ちゃん楽しそう。アイドル活動が忙しくて高校の修学旅行に行けてないから、やりたかったのかな。
「女子トークって言っても何を話すのかしら」
「そりゃあもちろん、こ・い・ば・なでしょ!」
鉄板ネタだね。修学旅行の時もやったやった。
「恋バナねぇ……」
「何よ、何か不満でもあるわけ?」
「仕事場では同年代の出会いがなく、休日は1人牛丼かひきこもってる寂しい生活をしてそうな誰かさんが、恋バナねぇって思っただけだわ」
「はうっ!」
相変わらず横石さんきっついなぁ。でもアイドルやってると出会いがあっても困るだろうね。
「それで、誰の恋バナを聞きたいのかしら?」
「まずは人生の先輩方の話を聞きたい!仕事中毒は何かないの?沢山バイトしてたなら出会いも沢山あったんじゃない?」
あ、それ気になる!
「出会いはありましたが、恋バナと言われますと……あ、1つだけ」
「「「あるの!?」」」
わぁ、大人の恋愛の話かな、気になる気になる!
「東京のコンビニでバイトをしてた時の先輩なんですが、いつも開始時間より1時間前には来て仕事を開始していて、終わった後も1時間以上は残ってその日の反省をしたり忙しい仕事を手伝ってくれました。ある時『どうしてそんなに早く来て遅くまで仕事をなされているのですか?』って聞いてみたのですが、『俺は仕事が大好きだからだ』って眩しいで顔で仰られまして、ああ、仕事ってこんなにも人を輝かせてくれるんだなぁって感じた出来事でした」
「「「・・・」」」
「あ、弓弦、異世界のお話聞きた~い!」
「お、いいねぇ俺も聞いてみてぇな」
「私も興味がありますわ」
「あれ?みなさん?」
料理が具体的なのは行ったことがあるからです。食べてる途中、今死ねたら最高に幸せなのに、と思ってしまうくらい美味しい料理の連発でした。熱海の旅館は当たり外れが結構大きいですが、稲取や下田までくれば比較的当たりが多いと感じます。




