11. 準備
「これから旅の準備をするわ」
今日は珍しく玲菜が主催のファミレストークだ。わたしの家の居間だと8人もいると流石に狭いんだよね。わたしはみんなと密着できるからうれし。
「御影朋が不穏な事を考える前に話をはじめるわ」
なんで分かったし。
「私と御影朋は無事に免許を取得して、歌もダンスも完成したわ。この曲を下田で歌うことも決まっているわね」
免許は結局同じタイミングで取得できたので、どっちが先に取得できるか競争は引き分けだった。お互いあんまり苦労しなかったけど、玲菜は運転よりも試験問題の分かりにくさにイライラしてたみたいだった。あんなのは気にしたら負けって感じでやらないとストレス溜まっちゃうよ。
「移動手段としてすでに御影朋がでかい車を購入してるわね……」
「8人全員乗れるよ!」
「よく免許取り立てであんなでかいの運転する気になるわね」
「運転したけど問題なかったよ?」
教習所で学んだことを応用すれば良いだけだもん、簡単だよね。
「まぁどちらにしろ、根古が車を出してくれるそうなので2台で行きましょう」
「なんでー!みんな一緒の車で行こうよー!」
「定員ギリギリまで乗ったらギュウギュウじゃないの、長時間乗るんだし疲れちゃうわよ」
「えー大丈夫だよー」
みんなでわいわい言いながら行くのが良いじゃんよー
「あ、悪いな。俺も別行動だ。折角のドライブなんだ、愛車に乗っていくぜ」
「えーすみれさんもなのー」
しょんぼり。今度は電車で行けるところにしよう、そうしよう。
「これで移動手段と目的が決まったわ。なので他のことを決めましょう」
「他のことって何よ。あ、み~ちゃんの車には弓弦が乗るからね」
「良いわよ。私が助手席に乗ることが決まってますけど」
「何よそれ!勝手に決めないでよ!」
「弓弦じゃなければ他の人でも良いわよ」
「むっきーー!」
また横石さんはゆ~ちゃんからかって~
「決めるのはそういう細かいことじゃなくて、どこに行くかよ」
「どこにって下田だよねー」
「そういえばミカンたちは観光で旅することって無かったらしいわね」
「うんー。見て面白いところはあんまりなかったからねー」
「こっちの世界には面白いところが沢山あるわよ。例えば……前に御影朋に白糸の滝に連れて行ってもらって感動したって言ってたわよね。伊豆にも有名な滝があるわ」
「行ってみたいー!」
伊豆の有名な滝って、浄蓮の滝とか河津七滝かな。
「折角伊豆に行くんだから、色々と見て回りたいじゃない。そこで、何処に行くかの予定を今日決めようと思うのよ」
「でも私たちは行きたいところが何も分からないです」
「なんとなくで良いのよ、例えばプラムが普段好きなことって何がある?あ、漫画以外でね」
「う~ん、私は温かいのが好きです。日向ぼっことか、あとお風呂とか」
プラムはお風呂が大好きで結構長湯する。いつか漫画を持ち込むんじゃないかと不安なんだけどまだ無いね。というか、もしお風呂で漫画読めるようになったらプラムは延々とお風呂に入っているんじゃないかしら。
「お風呂、それなら伊豆はうってつけじゃないの。温泉に入りましょう」
「温泉ですか?」
「そう、温泉。体に良い成分が含まれたお湯が広々とした浴槽にたっぷり入っていて、かなり気持ち良いんだから」
「ふわああっ、気になります」
温泉良いなぁ。確かにせっかく伊豆に行くんだから温泉には入りたいよね。
「ミカンとシェルフはどうかしら、何か見たいものとか体験したいものとかある?」
「私は滝のような自然の景色がもっとみたいでござる」
「ローラー滑り台みたいな体を動かして遊べるところに行きたいー」
伊豆は自然の宝庫だから色々と行く場所あるけど、体を動かせる場所って遊園地とかかな。伊豆に何かあったかなぁ。
「温泉、自然、遊園地、と。それじゃあすみれさんはいかがかしら?」
「俺か?そうだなぁ俺は基本的に現地の人と話をしたいんだが……まぁ現地の名所を巡ってくれれば良いぜ」
「あら、下町とかには寄らなくても大丈夫かしら?」
「下町になんか寄ってたら時間がいくらあっても足りねぇよ。名所にいる地元の人と話をするだけで色々なことが分かるから十分だぜ」
ふ~ん、お土産屋の店員さんとかガイドさんってことかな。どんなことが分かるのか気になるなぁ。一度話についていってみようかな。
「じゃあ次は『弓弦は現地のお土産が買えるところに行ければ良いわ』……御影朋で」
「なんでよー!このままじゃ無視されそうだから割り込んだんじゃない!」
こんなやりとりしてても、2人とも楽しそうだから止められないんだよね。
「はぁ、分かったわよ。で、弓弦は油揚げを買いたいんだっけ?お稲荷さんでも作るの?」
「そうそう、甘く下味つけて中に酢飯を入れて……ってなんでよ!なんでわざわざ伊豆まで行って油揚げを買ってくる必要があるのよ!」
「え?知らないの?伊豆では油揚げが有名……」
「そうなの?あ、失礼なこと言っちゃったかも」
「だったら良いわね。ププッ」
「~~~!!!」
顔が真っ赤になって笑顔のまま怒ってる。ゆ~ちゃん器用だなぁ。
「で、お土産が買えればどこでも良いのかしら」
「聞こえてたじゃない!」
「名所めぐりするならお土産どこでも買えるから特に気にしなくて良いわね」
「その通りなんだけどなんかおざなりな感じの扱いが悔しい」
ゆ~ちゃんはお土産が気になるんだ。会社の人とかに買うのかな。
「じゃあ次は根古で」
「私でしょうか。私のことはお気になさらないでください。皆様方のお世話が出来ればそれだけでじゅうぶ……」
「ダメですわ。みんなの行きたいところをすり合わせるのが『私の仕事』です。この仕事を取り上げないでくださる?ちゃんと根古のやりたいことを言いなさい」
うっわ、横石さん上手いなぁ。仕事大好き人間の根古ちゃんが『仕事を取り上げる』なんて残酷なことできるわけがないもんね。この言い方なら根古ちゃんに仕事振らなくて良さそう。根古ちゃん青ざめて泣きそうになっちゃってるのがちょっと可哀想だけど。
「え……ええと……私のやりたいこと……仕事」
「もちろん仕事以外ですわ」
横石さん鬼だなぁ。でも根古ちゃんが仕事以外で何が好きなのか気になる。
「…………あの……旅館に泊まりたいです」
「旅館?」
「はい、旅館でしたら接客業を見学、じゃなくて日頃の疲れを癒すことができるかと考えました」
根古ちゃん絶対旅館で休む気ないでしょ。むしろ旅館の人に無理行って仕事はじめそうだよ。
「……一つ『仕事』を与えるわ」
「なんでございましょうか!」
「旅館では全力で休みなさい。休むことがあなたの仕事よ」
「……」
「あら?いつもの返事はないのかしら」
「はい、喜んで!」
横石さんの人を動かす能力は本当にすごいな。高校時代から上手かったんだよね。流石わたしの憧れの人だよ。
「さて、最後は御影朋ですわね」
「ううん、最後は横石さんだよ」
仕切ってる人が自分のこと入れ忘れるってよくあるよね。
「いいえ、私の確認は不要ですわ」
「え?何で?行きたいところとかないの?」
「私でしたら、気になるところがあればすぐに提案していますし、そもそもこの準備している時間が一番楽しいですわ」
準備が楽しいってのは分かる気がする。どこに行こうかなって現地について調べてる時間ってワクワクするよね。
「それで、御影朋はどこか行きたいところがあるのかしら?」
行きたいところかぁ。今のところまだピンと来ないな。
「これから横石さんが観光地を調べて観光ルートの案を出すんだよね。一緒に調べても良いかな。一緒に決めたいんだ」
2人で、あるいはみんなでワイワイお話しながら決めるのって楽しそう。
「一緒に……肩を並べて……パソコンの画面を眺めて……」
「横石さん?」
「はっ……ええ!それで構いませんわ!」
「ちょっとー!弓弦も一緒に調べる!」
「あ、弓弦は買い出しお願いしますわ」
「なんでよー!」
ふふふ、楽しい旅行になりそうだなぁ。
「でも、御影朋は今の時点で行きたいところが本当にないのかしら?」
本当に思いつかないんだよね。有名どころくらいは行ってみたい程度かな。
「場所とかじゃないけど、やっぱり全員で楽しめるところが良いかな。好みに合わせて別行動とかじゃなくて、みんなで一緒に旅行したいな」
「御影朋らしいわね」
ありゃ、そうなのかな。
「ちなみに、富士山が見えるスポットは……」
「選考外ですわ。行きたい場合はご自分でどうぞ」
しょぼん。
伊豆で油揚げが有名だったらごめんなさい。




