8. 横石玲菜の場合
「あれ?横石さんもう食べないの?」
「ええ、もう十分ですわ」
横石さんは小食だ。一緒に外食に行っても量が少ないものしか注文しないし、家で夕飯誘っても少ししか食べない。最初は遠慮しているのかなぁと思ったけど、高校時代を考えると横石さんのお弁当は小さかった気がするので、普段からあまり食べないのかもしれない。
「横石さんってたくさん食べられない人なんだね」
「いいえ、違いますわ」
「え?でもいつもほとんど食べてないよね」
「意識的に食べないように心がけているだけですわ」
腹八分目ってやつなのかな。
「健康に気を使ってるってことなのかな。流石横石さんだね」
褒めたはずなのに横石さんにジロって睨まれた。解せぬ。
「私は太りやすい体質なので日ごろから食事や生活態度を気を付けているのですわ。あんたのように何も気にせずガツガツ食べても体形維持できるような体じゃな~い~の~で~す~わ~」
「いたひいたひ~やめへ~」
頬っぺたつねらないで~
「まったくもう、あなただけじゃないわよ。他の人もあんなに食べててぐうたらしてどうして太らないのよ!理不尽ですわ!特にミカンなんて毎回山盛りの白米食べてるのにどうしてっ!」
「横石さん全然太ってないよ。むしろすごいプロポーションだよ、気にすることないと思うけどな」
すみれさん程じゃないけど、胸がたわわでお腹まわりもへこんでて、羨ましいって思っちゃうレベルなんだけど。
「そりゃあそうですわ。生活習慣に気を付けて理想の体型を維持できるよう毎日欠かさず努力してますもの。今のこの体は私の努力の結晶、自慢の一品なのですわ。でも少しでも気を抜くとお腹周りから順にどんどんお肉がついてしまうのですわ」
「う~ん、でもこの先激しい体力づくりやダンスレッスンが待ってるから、今までよりも食べた方が良いんじゃない?」
「あなたにそんな心配されなくてもちゃんと自分で考えてますわ。そもそも今回のアイドル活動は自分をより輝かせる大チャンスなんですもの。自分の理想の体を作るためにできることはなんでもしますわ」
そこまで自分の体のこと考えてるなんてすごいなぁ。う~ん、わたしももう少しお腹引き締めようかな。少しぷにぷにしすぎてる気がする。
「横石さんのそのモチベーションがすごすぎだよぉ」
「だって、恥ずかしい姿見せられないじゃない……」
か細い声で俯いて恥ずかしそうにつぶやく横石さんにドキドキ。確かに応援してくれる人には良い自分を見せたいもんね。うん、やっぱりわたしも気にしよう。
なんでもそつなくこなし、色々なことを知っている横石さんは、ミカンたちのサブカル会話にもついていけるみたい。守備範囲はわたしより遥かに広いんじゃないかな。
「あらミカン、今度はアクションゲームですの?」
「うん~結構難しいよ~」
「随分と古いゲームをやっているのね。あ、そのボスは違う武器で攻撃すると楽に倒せるわよ」
「知ってるよ~でもそれだと簡単なので使わないようにしてるんだ~」
「へぇ縛りプレイできるくらい上手なのね。今度何かのゲームで対戦しましょうか」
「今すぐやりたい!!」
おっとミカンが嬉しそうだ。今まで簡単なゲームでしか相手してあげること出来なかったからな。横石さんが上手いならこれから何度かミカンの相手してもらおうかしら。
「じゃあこれやろ、これ!」
ミカンのテンションが上がっていつもの伸びのある声じゃなくなってるよ。こんなにも対戦したかったのか。もっとゲームでも構ってあげられれば良かったんだけど。
「あら、これもまた懐かしい格闘ゲームですわね」
「ずっとだれかと対戦してみたかったんだー」
「ふ~ん、ところでミカン、『フレーム』ってご存知?」
「ふれえむ?」
横石さんがミカンの反応にがっかりした表情になってるけどどういうこと?ふれえむって何?……うっそ、ミカンがフルボッコにされてる。
「直感と反応速度は優れていますが、まだまだ技術が追い付いていませんね。もっと努力が必要ですわ」
「はい!ししょー!」
なんだこれ。
「あらプラム、今日はその漫画を読んでいるのね」
「この作者さんの前の作品が面白かったので、これも読んでみたかったんです」
「その漫画なら特別篇が発売されてるけど、それも持っているのかしら」
「え、なんですかそれ。読みたいです!」
「いいわ、私が持っているのを貸してあげる。それ読み終わるころになったら言いなさい、持ってきてあげるから」
漫画にも詳しいんだね。って横石さんに話したら、『私の知識は広く浅い知識があるだけですわ。あの漫画だって特別篇があることは知ってるけど話の内容自体はもうほとんど覚えてないもの。漫画の内容で語り合ってあげられないのが申し訳ないですわ』って言ってたけどそれでも十分すごいと思うんだけどな。
「あと、その漫画は原作者が別にいますわ。原作はライトノベルなのですが、話が気に入ったなら一度読んでみることをお勧めしますわ」
「ライトノベル、ですか?」
「あら、まだ読んだことないのかしら。若者向けの読みやすい小説のことですわ。絵にこだわりがあるのでなければ、一度読んでみてはいかがかしら」
ああっ、ラノベの存在教えちゃダメっ!プラムの中毒が悪化しちゃう!
「シェルフは飽きもせずスマホ見てるのね。今日は何を見ているのかしら」
「今日はコレでござる」
「こ、これはっ!!!」
あれ?横石さんが固まった。と思ったら自分のスマホ取り出してブツブツ言いながら画面食い入るように見てる。どうしたんだろう、何してるか聞いてみようと思い近づく。
「ほぞんっほぞんっこれもっこれもっほぞんよっほぞんするのよっああっほぞんっほぞん~~~~っはぁはぁ保存よっ全部っ全部ほぞんするのよっ!」
え?横石さんが壊れてる。
「ちょっとシェルフ、横石さんに何見せたのよ」
「これでござる」
映っていたのは可愛いワンちゃんの画像をまとめたサイト。なんだもっと気持ち悪い何かかと思ったけど普通の可愛いサイトだったのね。でもそれじゃあなんで横石さんこんなに壊れてるんだろう。ってまずいよ目が血走ってて鼻息も荒くなってる。
「ちょっと横石さんっ横石さーーーんっ!」
肩を大きく揺すって正気に戻す。
「はっ……な、何かしら?」
いや、そんな辺り見回して急いで取り繕っても無駄だよ。
「様子が変だったからどうしたのかと思って」
少しずつ横石さんの顔が赤く染まって行く。
「べ、別に何も変なことなどありませんでしたでござるわ」
こんなに動揺する横石さん見るのはじめてだよ、新鮮。
「いやいや、明らかに変だったって。本当にどうしたの?保存がどうとかってつぶやいてたみたいだけど」
心配でじっと横石さんを見つめると、耐えられなくなったかのように顔を両手で覆ってうずくまった。
「私のこと嫌いにならないでっ!」
ええ~なんでいきなりそんな話になるの?
「ちょっとどうしちゃったの?大丈夫だから、嫌いになんてならないから。だいす…………き……だからっ」
なんでかこっちも恥ずかしくなってきちゃったじゃない。
「ほんとぉ?ほんとに嫌いにならない?」
「うんうん、大丈夫だから落ち着いて」
抱きしめて背中をさすってあげると徐々に落ち着いてきた。
「そのっ、私は犬や猫が大好きでして、ちょっとばかりはしゃいでしまうのですわ。お恥ずかしい限りですが先ほどの痴態は忘れていただけるとうれしいですわ」
「え~可愛かったから別に問題ないと」
「忘れなさい」
あれ、なんか肌寒い。ナイフが喉にあてられてるかのような緊張感がある。
「さて、今日の夕飯は何にしよっかなぁ~」
いのち大事に。
「一体何だったでござるか?」




