5. 始動
「というわけで、十ツ木 すみれさんです」
「どうも、よろしく頼むよ」
うんうん、みんなポカーンとしてるね。特にシェルフ達やゆーちゃんにとっては2日連続で人を連れてきた上に話が大きく動いてるんだからびっくりだよね。
「あと何人増えるのかしら」
「ちょっと玲菜、怖いこと言わないでよ」
横石さんとゆーちゃんがコソコソ話してる。いつの間に仲良くなったんだろう。
「御影朋は根っからの人たらしですからね。今までは表舞台に出てこなかったから何事も無かったものの、あのライブで周知された今、何が起こってもおかしくないですわ」
「そんなっ、それじゃあみーちゃんが変な人にひっかかるかもしれないってことよね。危ないじゃない」
「そういう意味では問題ないですわ。あの子の人を見る目は間違いないですわ」
「ううーなんかみーちゃんの理解者って感じでずるい~」
「ずるくなんかないですわ。そもそもしばらくあの子の傍に居なかったのはあなたの自業自得でしょ」
「それを言わないでよ~」
「それに私達は目指す場所が違うのですから、嫉妬する必要も無いでしょうに」
「分かってても何か納得できないの~やっぱり弓弦はあんた苦手~」
流石にすごい小声だから何を話しているのか分からないな。すみれさんを受け入れてもらえると良いけど。ちなみにすみれさんについての紹介はもう済んでいるし、シェルフたちもバンドとしてアイドル活動に参加してもらいたい旨も伝えてある。
「シェルフ達はどうかな。バンドメンバーとして一緒に演奏してもらうことになるんだけど」
すみれさんはキーボードとしての参加だから、主に関係するシェルフたちの意見が重要になる。
「どうと言われても急なのでなんとも言えないでござる。朋殿が連れてきたお方だからきっと良い人だとは思うでござるが」
「ああ、その点は気にしないで良いぜ。ちょっと時間もらえれば直ぐに仲良くなってみせるからさ」
そういってすみれさんはシェルフ達を連れて部屋を出ていった。数分後、隣の部屋から楽しそうに談笑する声が聞こえてきた。すみれさんのコミュ力すごすぎでしょ。
「みーちゃんは、一緒にアイドル活動やってくれるんだよね?」
「うん、やるよ」
「私も一緒ですわ」
「玲菜は要らない~」
「ふふふ、私も御影朋も素人ですからちゃんとレクチャーしてくださいね」
「ふんっ、すごいスパルタだからねっ」
「望むところですわ」
「2人ともすごい仲良くなってるね」
「仲良くなんてなってないっ!」
「ええ、大の仲良しですわ」
「ちょっと、何言ってるのよ。わたしはまだ玲菜のこと認めたわけじゃないんだからねっ」
「そんな悲しいこと言わないでくださる。2人で誓ったじゃないですか、御影朋の」
「わーーー何言おうとしてんのよ、ばかーーーーーー」
ホント、すごい仲良くなってるなぁ。ゆーちゃんがわたし以外にこんなに素で感情あらわにしてるのはじめて見た。楽しそう。横石さんはゆーちゃんと友達になるためにわざとやってるんだろうな。やっぱり横石さんはすごい人だ。
そうこうしてるうちにすみれさん達が肩を組んで戻ってきた。仲良くなりすぎじゃないの、これ。
全員揃ったところで改めて伝えておこう。
「みんな、アイドル活動に誘ってくれて本当にありがとう。本当はやりたかったんだ。みんなが、そしてすみれさんが背中を押してくれたおかげで踏ん切りがついたよ」
みんなが嬉しそうな顔でわたしを見ている。わたしもみんなの想いが嬉しくて、これからがすごい楽しみだ。
アイドル活動をはじめるにあたって、肝心なことを話しておかないとね。
まずはボランティアとして活動したいという話を伝えた。
「ボランティアですか」
マネージャーさんは、自分の事務所に入って活躍してくれるものと思っていただろうから、この提案をするのは少し心苦しい。
「お誘い頂いたのに申し訳ありません。でもどうしても事務所に所属するわけには行かないんです。あくまでもボランティアと言いますか、無償で自分たちの力で活動したいんです」
「そうですか……」
マネージャーさんは席を外し少しの間電話をしてから戻ってきた。
「それでも私共がみなさんを支援致しましょう」
「え?良いのですか?」
「はい、会社として得られるものが沢山あると判断致しました。例えばこの活動で弓弦が技術面と精神面で大きく成長することができれば、今後のソロ活動にも良い影響があるでしょう」
「すごい有難いですけど、なるべくなら自分たちの力でやりたいのですが」
「ふふふ、アイドル活動は思ったよりも大変ですよ。会社の力が必要な時はきっとあります。例えばライブ場所の交渉までやるのは大変でしょう。こういう簡単でない裏方の部分に関しては私共に丸投げして頂いて構いません」
「うう~そこまでしてもらうのは本当に申し訳ないですよ」
「さっきお伝えしたように、会社としてかなり大きいものが得られるんですよ。絶対このメンバーの活動は大人気になります。そうなったとき、バックに私たちがついているということが知られれば、会社としてかなり大きなアピールができますしね」
そこまで期待されるとプレッシャーが半端ないです。まぁでも本当にありがたいことだし、この申し出は受けておこう。相談できる人がいるだけでも心強いからね。
そしてもう一つ伝えておかなければならないことがある。シェルフ達のことだ。彼女たちのことをちゃんと説明しないと。でも信じてくれるかなぁ。
「シェルフ、楽器を出して」
「良いのでござるか?」
「うん、みんなに知ってもらうべきだと思うんだ」
「分かったでござる」
時空魔法で何もないところから楽器が出てくる。うんうん、みんなまたしても呆然としてるね。ここ数日で何回呆然としたのかな。
「シェルフ、ライトの魔法、明るさ弱めでね」
「ライトでござる」
シェルフの手の平の上にほんのりと明るい光の球が生まれた。
「みんな、実はシェルフたちは……」
シェルフたちが異世界からやってきたこと、黒いもやの浄化が目的であること、歌で浄化できること、などなどわたしが知っていることを包み隠さず説明した。わたしは黒いもやを実際に見たりシェルフたちが聞いたこともない言葉で話をしているのを聞いたりしたから納得できたけど、果たしてみんなはどうかな。
話が終わってから誰一人と声を発しない気まずい雰囲気だ。どうしよう、否定でも良いから何か言ってよー
「はははははは!」
突然すみれさんが豪快に笑いだした。
「こんなファンタジーみたいなことあるんだねぇ。あー面白れぇ、これだから旅は止められねぇな」
「すみれさんは信じてくれるんですか?」
「ん?さあどうかな。ぶっちゃけどっちだって良いさ。本当だったら面白い、それだけで十分さ」
考え方も豪快だなぁ。懐が深いっていうか。でも横石さんとゆーちゃんとマネージャーさんもすみれさんの言葉が胸にストンと落ちたかのように納得した表情になってる。
「この可愛らしい3人が異世界人ねぇ。変なござるがいるなぁとは思ってたけど異世界は想定外だわ。そういえば御影朋は高校時代、異世界モノにはまってた時期があったわよね」
「え?何それ弓弦聞いてないよ。面白いのあるなら教えてよー」
いつもの2人の雰囲気だ。ホントわたしは良い人達に恵まれてるな。
弛緩した空気になったので、改めてわたしたちの活動方針をまとめる。
「バンドメンバーとしてシェルフたち3人とすみれさん。歌とダンスがわたしと横石さんとゆーちゃん。黒いもやの浄化もついでだからやりたいな」
「前にも言ったでござるが、放置しておけば自然と消えるから気にしなくて良いでござるよ」
「うん、そうなんだけどね。でも、もやを消して回れば日本全国を旅することが出来るかなぁって思って」
「みーちゃんそれ良いと思う!旅行しながらアイドルやろう!」
「あら、面白そうですわね。私も良いと思いますわ」
「俺も旅が続けられるのでありがてぇ」
良かった、みんなも乗ってくれた。旅するアイドル、面白そう!
「ちなみに黒いもやを消すには自作の歌が必要なんだよね」
「そうでござる。だから曲は私たちが作るでござる」
「俺も作れるぜ」
「じゃあバンド組は曲作りお願いね」
あと必要なのは……
「ダンスは弓弦が考える、ですわね」
「なんでよ!弓弦だってダンスを自分で考えたことほとんど無いわよ!3人で考えるの!」
「う~ん、わたしも横石さんも初心者だから上手くできるかなぁ。ゆーちゃんが引っ張ってくれると嬉しいな」
「ま、任せなさい!」
「ちょろい」
「玲菜ああああ」
歌詞はわたしと横石さんで考えてみんなで叩くってところかな。よし、メンバーの役割が決まって段々と方向性が定まってきた感じがする。
「最初はどこに行こうかなぁ」
そもそも黒いもやのある場所って現地に行かないと分からないのかな。
「魔法で場所分かるよー」
「そんな魔法あるの?」
「うん、ひと月かけてサーチしたんだよー」
ミカンが両手をひらいて、手のひらを上に向ける。するとその上にホログラムが浮かび上がってきた。何これ格好良い!
「すごっ、今はじめて異世界人だって理解した気がする」
「地図持ってきてー縮尺合わせるからー」
家にあった巨大な日本地図を持ってくる。小さいころに地図を見て地理に興味を持ってもらうようにと両親が買ってきたものだ。その上にホログラムが重なる。ところどころ黒い塊があるのがあの黒いもやってことかな。
「最初だから近場でこのもやが溜まっているところにしよっか」
富士宮に近くてもやがある程度溜まっているところは……
「ここが近いでござる。富士山の反対側のここ。ええと、山な」
「あ゛!?」
シェルフは何を言ってるんだろう。よく聞こえなかったなぁ。山?富士山は山だよ、うん。シェルフたちやゆーちゃんは怯えた目をしてどうしたの。横石さんはヤレヤレって感じだし、すみれさんは楽しそうにニヤニヤしてる。みんなおかしいよ?さあ、早く行く場所決めようよ。
「ぢがいのは、ごっぢでござるな」
「うん、そこなら良い感じで近場だね。そこにしよっか」
シェルフたちが安堵してる。そんなにその場所が気になってたのかな。行きたいところがあるなら言ってくれれば良かったのになぁもう。
何はともあれ最初の目的地が決まったね。
いざ『下田』へ!
ということで、伊豆編開始です。




