1. プロローグ
私たちはとても大事にされて育った。
衣食住すべてが満たされた何不自由ない生活の中、私たち姉妹は両親と仲睦まじく生活していた。
姉妹の仲も良く、私はお母さんに、妹はお父さんに懐いていた。
お母さんから家事を教えてもらい、家事をしながら一緒にお話しする時間が好きだった。
妹はお父さんから珍しいものを見せてもらうのが好きだった。
不思議な仕掛けのおもちゃ、見たこともない魔法、聞いたことのない斬新な物語。
お父さんは何処かからこれらを入手し、家族に自慢げに紹介していたものだ。
妹は目を輝かせながらそれらを楽しんでいた。
街はずれの一軒家に住む妖精族の仲良し親子、世間ではそう評判だったらしい。
「お父さん、これどうなってるの!?お姉ちゃんこれすごいよ!ほら!」
「あらあら、パステルは本当にお父さんからもらったおもちゃが大好きね」
「むー子ども扱いしないでよーだってこれ本当にすごいんだもん」
「おもちゃだけじゃなくてお父さんも好きだと嬉しいんだけどな」
「もちろんお父さんも大好きだよ!」
「あらあらまぁまぁ、おもちゃの次にだよね?」
「うん!」
「そんなぁ~」
「物で釣ろうとばかりしているからですよ、あなた。偶には一緒に遊びに行ったらどうですか」
「よしっそれなら明日はみんなで一緒にでかけようか。珍しい魔法を見せてあげよう」
「「やったー!」」
「結局珍しいモノで釣ってるじゃないですか。シャモアまで一緒になって喜んじゃって。それじゃあお母さんは何か外で食べられるモノでも作りましょうか」
「お母さん、私も一緒に作るね」
そんな幸せな家庭も、あの戦争で壊れてしまった。
両親は優れた魔法使いだったため戦争へと駆り出され、他の大多数の人と同じように亡くなった。
悲しかったけれど、戦争がはじまった時点で覚悟していたこと。
そういう意味では、この世界の人は大切な人が亡くなるということに耐性がついてしまっていたのだと思う。私も妹も、両親の死を知った後、一晩悲しんだ後は気持ちを切り替えて今後どうやって暮らしていくか前向きに考えられるようになっていた。
幸いにも私はお母さんから教えてもらった家事全般が出来るので、炊き出しなどで復興の手伝いをしながら後々メイドとしてどこかに雇ってもらうことが出来るだろう。
妹は頭が良いので私と一緒に復興の手伝いをしながら家にある本で勉強をすれば、学者として国に雇ってもらえるかもしれないし、お父さんから色々な珍しいものを見せてもらいある程度目利きが出来るので商人としてもやっていけるかもしれない。
しかし、私達に大きな問題が降りかかってしまった。
戦争が終わってから数日後、突然妹から感情が消え去ったのだ。
何を話しかけても淡々と返事が来るだけで元々の明るさが綺麗さっぱりと消えていた。
妹が言うには、お父さんからもらった珍しいおもちゃを見ていたら、ふと何にも興味が沸かなくなった、とのこと。
自分でも何が起きたかわからず困っている、と無関心そうに話す妹を見て胸が締め付けられた。
何か珍しいものがあれば妹の気持ちも元に戻るかもしれない。そう思った私が復興のお手伝いで街に出ているとき、掲示板の前に人だかりができていることに気づいた。
「異世界への旅人募集のお知らせ?」
『異世界』
そこにはきっと見たことも無いような物がたくさんあるはずだ。
それを見れば妹は元に戻るかもしれない。
そう思った私は城へ走り、受付の人に旅人に立候補する旨を伝えたが、あっさりと断られてしまった。
当然のことだ。
条件を全く満たしていないどころか、そもそも2人だけで生きていく力が全くないのだから。
自暴自棄になって異世界に行きたがる人が何人もいるらしく受付の人も困っているようだ。
生き残った人には国が出来るだけフォローするから苦しいけど頑張ってこの世界で生きましょう、と慰められてしまった。
勢いだけで突っ走ってしまった私は断られた帰り道にようやく正気に戻ることができた。
何があるかわからない異世界に妹を連れて行くなんて、そんな危険なことをどうしてやろうとしてしまったのか。
今はこの世界で生き抜くことが大事だと言うのに。
家に帰ると妹が私に話しかけてきた。
自分から積極的に話しかけてくることすら珍しい。
何か心境の変化があったのかしら。
「お姉ちゃん。家の奥、音が鳴ってる」
家の奥?音?なんのことだろう。
妹に連れられて家の奥の物置となっている部屋に向かうと、確かにピシッピシッと何かが割れるような音が聞こえてくる。
不審者でも入ったのかと思ったけど、生き物が潜んでいるような音ではない。
誕生日にお父さんからもらった魔法の杖を手に、速攻魔法の詠唱準備をして部屋の中にそっと入る。
「何……これ……」
「お姉ちゃん……」
妹がわたしの服の裾をキュッと握ってくる。
物置の奥には、右上から左下へ斜めに切られた刀傷のような形で空間に隙間が空いている。
隙間の向こうは漆黒の闇が広がっていて何も見えない。
これは危ない。すぐに衛兵さんを呼ばないと!
そうやって部屋を出ようと後ろを振り向いたその時、ぐぐっと引っ張られるような感じがしたかと思うと急激に空間の隙間に吸い込まれそうになる。
「な……何……」
「お姉ちゃーーーーん!」
妹が隙間に吸い込まれそうになり、こちらに伸ばした手を必死で掴む。
「パステルーーーー!!!」
とてつもない吸引力。もうダメ、踏ん張りが効かない、耐えきれない!
やだ、やだ、やだ!
助けて、誰か助けて!
お父さんお母さん!
必死の抵抗もむなしく、私たちは謎の空間の隙間に吸い込まれてしまった。
気が付くと私たちは手をつないだ状態で道端に立っていた。
「どこ……ここ……?」
「おねえ……ちゃん……」
見たこともない建物、見たことのない乗り物、見たことのない服を着てこちらを怪訝な目で見ながら歩いている人々。
そこは紛れもなく、私が望んだ『珍しいもの』だらけが存在する異世界だった。




