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異世界人の友達と日本を旅しよう  作者: マノイ
1章 富士宮「出会いと再会」
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17. わたしのきもち

 マネージャーさんとお話をしてから3日が経過した。


 結局あの後、マネージャーさんはわたしにお礼を言って何事もなく帰っていった。


「お話頂きありがとうございます。後は会社の仲間と弓弦のために何ができるか考えます。これからもどうか弓弦のことを応援してあげてください」


 帰り際に、ゆーちゃんのこと大切に想ってくださってるんですね、なんて思わず言ってしまったら、


「はい、私たちはもう家族ですから」


 と照れながら言ってくれたマネージャーさんのことが、少しだけうらやましかった。


 ゆーちゃんがまだわたしとのことを引きずっていたのは残念だけど、わたしから何かすることもできないしこれまで通り過ごすと決めていた。


 大丈夫、わたしはいつも通りに過ごせてる。




「あれ?またミカン達どっかいっちゃったのかな?お母さんもいない」


 いつの間にかミカン達の様子が変だ。毎日お母さんに車で連れられてどこかに行ってるようで、夜遅くに戻ってきたらクタクタに疲れててご飯、お風呂、即就寝。何しているのか聞いてもはぐらかされるし、気になるなぁ


 まだ案内してない富士宮の名所を案内してあげたかったんだけど。富士宮にはまだまだ名所がたくさんあるんだから。


 仕方ないので、一人でブラブラお出かけしたり、家でパソコンいじったりゲームやったり。ニート生活まっしぐらで最高!な気分にはやっぱりなれない。うーん、どうにもできないって思ってても、やっぱり気になっちゃうよね。気分転換に散歩してこようかな。


 わたしが通っていた小学校では、子供たちが校庭で元気にサッカーをやって走り回っている。ここの校庭の隅の方でゆーちゃんと一緒に、ううん、ゆーちゃんにわたしの歌を聞いてもらったな。


---------------------


「御影様が作った、ですか?」

「はい、『大好き』はわたしが適当に作ってゆーちゃんに歌って聞いてもらっていた曲なんです」


 わたしもゆーちゃんも歌が好きだった。でも一緒に歌っていたわけではなくて、わたしが歌ってゆーちゃんが聞いている、そんな関係だった。一緒に歌おうって言ってもゆーちゃんは恥ずかしがっちゃって歌ってくれないのが幼いながら少し不満だった。


 ある時TVでアイドルライブの特集をしていて『コール&レスポンス』っていうのを知った。これならゆーちゃんも一緒に声出して楽しめるって、そう思った。


 それで作った曲が『大好き』

 わたしが歌って、曲の途中でコールしてゆーちゃんがレスポンスする。


 最初は恥ずかしがってたゆーちゃんも、慣れてくると楽しそうに返してくれてすごくすごく嬉しかった。


「みーちゃん、アイドルみたいだね」


 なんてゆーちゃんに言われるとむずがゆくて、


「えへへー、ありがと。ゆーちゃんもかわいいし、アイドルになれるよ」

「わ、私がアイドルなんてむりだよー」


 これがいつものお約束の掛け合いだった。


 ゆーちゃんにどんな心境の変化があってアイドルオーディションに応募したのかは今でも分からない。けど、アイドルとして頑張るゆーちゃんのことを心底尊敬しているし応援している。


 その気持ちは本当の本当。


 なぜか離れて行ったゆーちゃん。その理由についてこれまで長い間考えた結果、デビュー曲に関係しているのかもと思うようになった。


 デビュー曲『大好き』


 オーディションの時にゆーちゃんが披露した自作ソング、というキャッチ付き。もしかして、わたしが作った曲をゆーちゃんの曲として売り出されたことに負い目を感じているのではないか、と。


 ただ、中学校でのあの日、ゆーちゃんはわたしに曲を使ったことをちゃんと謝ってきたんだ。


「みーちゃんごめん、オーディションで勝手にあの曲を使っちゃった。しかもあの曲を私が作ったって話題にして売り出すことになっちゃったの」

「そうなの?いいよいいよ気にしないで。むしろあの曲使ってくれるなんて嬉しいな。あの曲をゆーちゃんがアイドルとして歌うのかぁ。楽しみだな」


 当時のわたしは全く気にしていないどころか、自分の歌がゆーちゃんがアイドルになるきっかけになったと知ってむしろかなり嬉しかった。


 だから、満面の笑顔で喜んだんだ。


「それでもゆーちゃんはわたしに負い目を感じているのではないかと思うのです。もう原因はそれしか考えられないのです」

「それでは、御影様がもう一度『気にしていない』と伝えることで少しは弓弦の気持ちは軽くなるのでしょうか。いや、確か最初のファンレターには『大好き』の話も書いてあったような……」


 あの曲を歌っているゆーちゃんは輝いていて素敵。

 そんな感じのことを書いた覚えがある。

 それを読んで青ざめていたということは、わたしの声が届かないということだ。


「となると、御影様からの言葉は効果がないどころか、出会うだけで悪化する可能性があるということですか……」


 わたしは大事な人のことを全て知っていると思い込んでいて、ちゃんと見ることができていなかった。


 ゆーちゃんが何を考え、何を悩んでいたのか。


 距離を置かれたときに強引にでも聞き出していれば、何かできていたかもしれない。


 オーディションの話をされたとき、ゆーちゃんの言葉をもっとしっかりと受け止めていれば大事なことが見えていたかもしれない。


 中学を卒業し、ゆーちゃんと完全に離れ離れになった時、わたしは周りの人をちゃんと見て関われる人になろうって決意し、変わろうと努力をはじめた。


---------------------


 とはいっても、ホント、どうしたらいいんだろう。


 近所をフラフラと散歩すると、どこもかしこもゆーちゃんとの思い出だらけ。


 歌って帰った畑脇の細い道。

 公会堂に寄り道して歌ったり裏の小川で遊んだり、学校近くの駄菓子屋に寄ったこともあったっけ。

 田んぼのあぜ道を一緒に歩いたり、墓地の中を通ったこともあったなぁ。


「あ、帰ってきちゃった」


 そういえばわたしの家の近くでも良く一緒に歌ったな。

 まだ家に帰りたくなくて歌ったり話をしたり、そうやって時間をつぶしてた。

 家の近くは富士山がはっきり見えるところだからわたしが好きだったってのもある。


「富士山、か」


 悩んだり失敗して凹んだときは富士山を見ながら物思いにふけることが多い。

 雄大な姿の富士山を見てると、励まされた気分になるんだ。


 ゆーちゃんはわたしに負い目を感じている。

 わたしが気にしてないって言ってもゆーちゃんの心には届かない。


 なんで?わたしの言葉に嘘があるから?


 ううん、そんなこと無い。

 わたしが気にしていないのは本当のホント。


 じゃあ伝え方が悪いのかな。

 もっと強く強く気にしてないって叫べば伝わるかな。


 ……

 …………ちがう


 わたしの知ってるゆーちゃんは、真摯な気持ちを疑うような女の子じゃない。


 楽しそうにアイドルやってるゆーちゃんには、昔の純粋な子供の頃のゆーちゃんの面影が残ってる。

 だから、ゆーちゃんの根本はあのころとは変わってないと思う。

 わたしが気にしてないってことは心から理解しているんじゃないかな。


 それなら何を気にしてるのかな。


 わたしがゆーちゃんだったらって考えるんだ。


 ずっと一緒だったんだから、そのくらい分かれよわたし!


 当時とは違うんだ。高校で色々なことを経験して、人を知ることができるようになった今なら、きっと本当の理由にたどり着くことが出来ると信じるんだ。







 ……

 …………

 ……………………そうか。


 思わずため息が零れる。


 ゆーちゃんはきっと、自分が許せないんだ。

 わたしが許しても、他の誰もが許しても、自分が許せないんだ。


 ゆーちゃんはそういう女の子だった。

 悪いことをしたと思っているのに、誰も叱ってくれない、責めてくれない。


 それがとてつもない重荷になっているのかも。

 わたしを見るたびに、思い出すたびに、その自責の念が湧いてきて苦しくなる。


 だからわたしから距離を置いた。


 あのときわたしがゆーちゃんを叱ってケンカして、そのあと仲直りすればこんなことにはならなかったかもしれない。


 でもそれは怒ってないのに怒ったフリをするって嘘をつくこと。

 嘘をついたら、ゆーちゃんはそれに気付いて今よりもさらに苦しんでいたと思う。


 わたしはあの時本当にゆーちゃんを祝福していた。


 だからこれはきっと、仕方ないこと。


 でも、だからってこのままで良いはずがない。

 ゆーちゃんが苦しんでいるなら力になってあげたい。

 この想いも本物なんだから。


 じゃあわたしはどうすれば良いのかな。

 わたしがゆーちゃんにしてあげたいこと。


 富士山は何も言わない、けれどわたしを見守っていてくれる。

 その安心感を胸にゆっくり考える。


 わたしがゆーちゃんにしてあげたいこと、じゃなくて、わたしが何をしたいか、そしてどうなりたいか、が重要なのかも。


 そうだよ、どうしてこんな当たり前のことにすら気付かなかったんだろう。

 一番大切なこと、まだ伝えてないじゃん。


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