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異世界人の友達と日本を旅しよう  作者: マノイ
1章 富士宮「出会いと再会」
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14. 浄化チャレンジ

――――――数日前、御影家の居間にて


「3人ともあの黒いもやを消しにこっちの世界に来たんだよね。探しに行かなくてもいいの?」


 それがこっちの世界に来た目的だったはずだよね。


「別に何もしなくても大丈夫でござる」

「え?」

「あの黒いもやは放っておけばそのまま消えてなくなるから、無理に消さなくても良いのでござる」

「でもそれが仕事じゃないの?」

「私たちの仕事は、あれがあることでこの世界に何か悪い影響があった場合に排除することでござる。この世界は大きな争いもなさそうでござるし、今のところ急いで何かをする必要は無いでござる」


 あのもやは結構嫌な感じがしたけど、実害は無いのね。


「ただ、アレが沢山集まっているとその場で争い事が起こりやすくなるので、集合してるのを見つけたら浄化することに3人で決めたでござる」


 あのもやが沢山集まるところって見たくないなぁ。


「そういえば、浄化ってどうやるの?」

「歌でござる」

「歌?」

「アレは歌を聞かせることで消えてなくなるのでござる」

「それって魔力が込められた歌とかってことかな」

「魔力はまったく関係無いでござる。明るく楽しい気持ちで歌えば子供が適当に口ずさんだ歌でも浄化できるでござる」

「そんな単純なの?それじゃあ誰でもできるんだ」

「普段はそうでござるな」


 平和な世界に沸いた少数のもや程度なら、誰でも簡単に消すことが出来る。でも、戦時中だともやが大量に発生することに加え、明るく楽しい気持ちで歌うこと自体が難しいため、普通の人では浄化できないそうだ。そんな世界で重宝されるのが吟遊詩人や旅芸人。どんな時でも明るく歌って踊る彼らの姿は、もやを振り払うと同時に人々の重苦しい気分をスッキリさせることができる。


「3人とも立派な仕事をしてたんだね」


 ニートのわたしとは大違いだ。


「浄化するにはもう一つだけ条件があります」


 プラムがわたしをチラチラ見ながら言い辛そうにしている。なんだろう。


「あのもやを見ることができる人です」

「見る?」

「はい、向こうの世界ではほとんどの人がアレを見えていたのですが、稀にいる見えてない人がどれだけ楽しく明るく歌っても効果が無かったそうです」


 ふーん、見えていることが条件ねぇ。


「……」

「……」


 そうか、最初の日のお風呂でのプラムの確認はそういうことだったのか。歌わないよ?だって怖いもん。そんなジーっと見つめられても歌わないよ?可愛いけど歌わないよ?




――――――現在


 目の前には田貫湖のキャンプ場に蠢く十数体の黒いもや。実はこれまで白尾山公園や白糸の滝にも居たけど多くて2体程度だった。ここは明らかに多い。


「お願いがあるでござる」


 シェルフが真面目な顔でわたしに話しかけてくるけど、嫌な予感が。


「朋殿の歌が聞きたいでござる」


 やっぱりー

 なんでわたしなの。


「いやいやいや、なんでなの。わたしじゃなくてもいいでしょ」

「そうでござるが……」


 シェルフはどうも歯切れが悪い


「トモちんの歌をすんごい聞いてみたいのー!」


 無邪気にミカンに言われたけど。


「いやいやいやいや、やだよこんなところで、怖いよ恥ずかしいよ」


 キャンプ場に客がいないとはいえ、近くにはそこそこ人がいる。

 そんな中で突然歌うとか、勘弁してよ。


「大丈夫です。魔法で歌が遠くまで伝わらないようにします」

「そ、そんなことできるんだ……」


 それはそれで、口パクしてる変な人にしか見えないけど。


「頼むでござる!朋殿の歌を聞いてみたいでござる。効果なくても大丈夫でござるから」

「だーめーでーすー。もう、早くシェルフがなんとかしてよ、帰るよ」


 自分でなんとかできるんだったらなんとかしてよね。

 これ以上粘られたくないので話を切り上げよう、と思ったんだけど。


「歌ってくれたら着せ替えで私を弄んだのを許すでござる」

「じゃあ私は最初の日にお風呂でさわさわされたの許すねー!」

「私は体のことで弄られたの……許します……」

「ああ、私もそれはあったでござるな、許しがたいが……くっ……許そうじゃないかでござる」


 はい、自業自得でした。




「いい、ちゃんと魔法で歌が遠くまで聞こえないようにしてよね!」

「大丈夫でござる、我々とアレの付近までしか聞こえないでござる」

「うー、これ仕返しとかじゃないよねー実は魔法なんてないとかー」

「大丈夫ですよ。…………たぶん」

「うわーん、やっぱ止めるー!」

「冗談です」

「うー、ホント、こんな恥ずかしいの今回だけだからね!」

「それは困るでござる」

「困らないでよ!」

「まぁそれはそれとしてー」

「なんで否定しないの!」


 嫌な予感しかないけど、自業自得なのでこのくらいで済むなら。


 とはいえ、やるからには中途半端に歌うなんてそんな格好悪いことはできない。

 全力でやろう。


 歌はどれにしようかな。童謡とかじゃつまらないよね。

 そうだ、ゆーちゃんの新曲にしよう。



 アイドル「星乃弓弦(ゆーちゃん)」の最新作「流れ星に願いを」


 学校で嫌なことがあって凹んでた女の子が、夜に窓から夜空を眺めると流れ星が1つ2つ。

 願い事を何にしようか考えてたら流れ星が一気に降ってきて慌てて必死に願って、気がついたら眠っていて朝になっていた。


 歌詞はおおまかにこんな可愛らしい感じ。


 まだライブでは歌ったことが無いけれど、フルバージョンの振付が公開されてファンは戦々恐々としている。


 流れ星をワイパー(両手を上にあげて車のワイパーのように左右に行き来させる)で表現しているのだけど、ワイパーの速度が徐々に高速になってゆく。1番は流れ星が1個2個だからゆっくりだけど、2番で増えて高速になり、オチサビで流星群が来て超高速に。


 可愛らしい歌詞からは想像できない、ゆーちゃんの「耐久チャレンジシリーズ」の新作であったため、ファンは鍛えて準備してる。


 わたし?もちろん準備完ぺきだよ。


 ということで、歌ってみようかな。




 歌うことは楽しい。

 近くには怖いものがあって、恥ずかしさもあるけれども、一度歌いだしたら止まらない。

 幼い子供が星へと願う純粋な気持ちを思い描き、全力で振りコピして歌って踊る。

 あーこの感覚久しぶりだなぁ、口から言葉が流れ出るたびに体が芯から震える。

 肺の空気を沢山押し出すと体の中が浄化された気分になる。

 リズム良く踊ることで、歌に勢いと力が加わってゆく。

 ああ、気持ち良い……




 ふぅ。なんだかんだ言って全力で歌っちゃった。思い返すと恥ずかしいから気にしない。

 さて、もやはどうなってるかな……え?







 増えてる!?


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