13. 田貫湖
車の中で3人は滝をべた褒めしてる。もう十分満足してもらえたと思うけど、まだ15時を過ぎたところなのでもう一か所案内するつもり。白糸の滝よりも更に北上する。
「トモさん。滝って生で見るとあんなに迫力があるんですね」
「プラムは滝のこと知ってたの?」
「はい、漫画で時々出てきますので。読んでいても水が落ちてるだけなのに何が凄いのか分からなかったのですが、実際に見て分かりました」
滝を知らない人に滝の凄さを絵で伝えきることができなかったのね。プラムの読んだ漫画を描いた人、もうひと頑張りです。
「漫画に出てくる他の風景も、滝みたいに凄いのかなぁ」
漫画が入り口でもこうやってこの世界について興味持ってもらえるとうれしいな。次の目的地も生で体験することの素晴らしさを味わってもらえたらいいな。
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そんなこんなで本日最後の観光地に到着。
『田貫湖』
白糸の滝より北側。
住宅がかなり少なく森や田畑が広がる場所を通ってたどり着くこの湖は、ある風景がとても有名で場所は知らなくても写真だけは見たことがあるっていう人がたくさんいるはず。
湖としてはそれほど広い方ではないけれど、左右に大きく見渡せる程度の広さはある。湖の周囲は遊歩道になっていて、レンタサイクルで散策することもできる。ボートに乗ったり、ヘラブナ釣りをすることもできるらしいけど、やったこと無いなぁ。
「ここは湖なんだけど、流石にそっちの世界にも湖はあるんじゃない?」
「あるでござる。湖の近くに町を作るのは一般的でござるな」
「へぇ~、それじゃあその街は観光スポットなのかな」
「うーん、確かに湖は綺麗らしいでござるが、魔物が住んでいることも多いでござるし、眺めの良いところは貴族の所有地となっているでござる。一般人が気軽に見られる景色が良いところってのは無いでござる。それに湖は神聖なものとして扱われている街も多くて、気軽に近づくことができないでござる」
「あらら、それじゃあここの湖の景色も満足してくれるかな」
「でも海を見たことがあるでござるから、大きな水たまり程度では先ほどの滝みたいに感動することはないと思うでござる」
あれ?これはフラグかな?
といっても、田貫湖は湖としてはそんなに大きい方じゃないし、確かに感動的かどうかと言われるといまいちかもね。個人的にはのどかな風景と市民の憩いの場として使われてる空気感が最高なんだけど。
さて、車を下りて、早速湖岸へ向かおう。
「太陽の光が反射してて綺麗です」
「この静けさは確かに中々に癒されるでござるな。滝の力強さとはまた違った良さがあるでござる」
「あ、自転車で走ってるー乗りたいー」
ミカンは自転車大好きだもんね。
せっかくだからみんなでレンタサイクルで湖を1周してみよっか。
「狭いからスピード出しちゃだめだよー歩いてる人に気をつけてねー」
「分かってるー」
ふふふ、ミカン楽しそう。どんどん先に進んでる。
わたしはシェルフとプラムと一緒にゆっくり周ろう。
「綺麗な花が咲いてます。湖と花の組み合わせも良いですね」
「ツツジだね、もう咲いてるんだ」
プラムは気になったのか、自転車から降りてツツジを鑑賞している。北岸には多くのツツジが植えられていて、4月中旬くらいから咲いている。わたしもここのツツジの景色は綺麗で好きだな。
「朋殿、湖の上で船に乗っている人達は何をしているでござるか?」
「何ってボートに乗って遊んでるだけだよ」
「遊んで……そうか、こちらの世界では湖に魔物は住んでいないでござるな。しかし船、いやボートでござるか、に乗ってるだけで何が楽しいのでござるか」
「風景を楽しんだり、水に浮いていること自体を楽しんだり、かなぁ。後はまぁ、その、デートとか」
「でえと、でござるか?」
「あとでネットで調べてね」
お、シェルフ相手にはこの逃げ方が使えそうだ。
デートについて説明とかできないよ。経験無いのに。繰り返すけど経験無いのに。
「もう一つ聞きたいでござるが、先端に糸のようなものがついた棒を持ってる人達は何をしているでござるか?」
「釣りのこと?」
「そうですね、あれは釣りです」
あれ?花を見ていたはずのプラムが食いついてきたぞ。
「あの糸の先には魚のエサ付きの針がついていて、ぱくっと食いついたところを引っ張りあげるという魚視点ではなんともえぐい漁の方法なんです。漫画でよく出てくるので知ってます。そして釣りをしている彼らは恐らく湖のヌシを狙っているんです。しかし残念ながらヌシに出会えるのは物語の主人公だけなんですよ。長年毎日欠かさずに休まず通い続け、ヌシとの出会いを求めて戦い続けているのに、フラっとやってきた主人公がなんとなく垂らした釣り糸にヌシがひっかかってしまう。悪戦苦闘しつつもヌシを釣り上げた主人公、そしてそれを横目になんとも言えない表情で祝福する彼らの姿が。ああ、なんという切ない未来なのでしょう」
「あ、それまだ続く?」
脳天チョップの素振りをしながら聞いたら止まった。
三分の二くらい走ったところで、待っていてくれたミカンと合流した。遅いーと顔を膨らませたミカンがやっぱり可愛い。
ゴールに向かって再度出発しようと思ったら、プラムがまた質問して来た。
「そういえばトモさん、この湖にはやっぱり"いる"んですか?」
「いるって何が?」
「そりゃあもちろんタヌッシーとかそんな感じのですよ」
「そんなことまで覚えちゃったの……聞いたこと無いよ」
「そうですか……それじゃあ湖の地下には秘密基地が」
「無い」
「ですよねー」
本気で気にしているのか、ネタで言ってるのか分からないので反応にちょっと困る。フィクションって分かってるよね……分かってるよね?
「秘密基地があるなら自転車でグルグル回ると出てくるかもしれないよー」
「ミカンは何かアイデアあるのですか?」
「1周目は時計回り、2周目は反時計回りとか。スタート地点が大事だったりもするねー。きっとどこかにヒントが書かれてるはずだからそれを探さないとー」
「そのヒント通りにするとどうなるのですか?」
「ピロリンって音がした後に、ゴゴゴゴって何かが動く音がするんだよー。そうすると分かりやすいところに地下へ進む階段が出てくるんだよー」
「やってみるです!」
「やらなくてよろしい」
プラムに脳天チョップをすることになるとは。ってあれ?チョップ喰らってなんか嬉しそう。もしかして、じゃれたかっただけなのかな?
「ふむ、ゲームや漫画系のまとめサイトものぞいておくべきか……」
話に加われなくて寂しいのは分かるけど、あなたの場合は悪い予感しかしないんだよ、シェルフ。
そんな感じでじゃれ合いながら楽しく田貫湖散策。最後はキャンプ場のそばを走り抜ければちょうど一周。このあたりからは是非とも富士山を見てほしい。
「ほら、みんなここから富士山をみてごらん」
「湖と富士山が綺麗に……ってうわっ富士山が湖面に映っているでござる」
そう、田貫湖は逆さ富士が綺麗に見られる場所として有名なところ。今日は晴れているのでくっきりと富士山が映っているね。ちなみにここからはダイヤモンド富士って呼ばれる、太陽が富士山の頂上に重なる姿も見られる。しかもそのダイヤモンドすらも湖面に映るんだ。ここの逆さ富士やダイヤモンド富士の写真は有名なので見たことある人多いんじゃないかな。
「今日は色々な富士山を見ることができたー。どれも綺麗で格好良かったよー」
3人とも笑顔が弾けていた。連れてきて本当に良かったな。
幸せな気分に満たされた中、ふと振り返るとキャンプ場の中に見つけてしまった。
あの黒いもやを。




