12. 白糸の滝
次は来た道を戻って浅間さんへ、と思ってたんだけど、白尾山公園で少しはしゃぎすぎて時間を使いすぎちゃったので、今日はスルーで。これから何回か行く機会ありそうだからいいよね。黒いもやがちょっと怖いし。
少し遅めのお昼はイオンの和食屋さんで定食を。
いつかはラーメン屋とかお寿司屋に連れていってあげたいけど、何が苦手なのかまだ分からないから専門店には行ってない。そろそろ家でお刺身やカレーに挑戦してもらおうかなって思ってる。みんなでいろいろなもの食べに行きたいもんね。
あ、この鱒の西京焼き美味しいっ
そしてこれからは一気に北上。県道414号線をどんどん駆け上がる。途中左手に私が通ってた高校の入り口があるんだよね。流石に卒業したてなので感慨深くもなんともないけど。
窓の外を流れる様々なお店をキラキラした目で見つめる三人がほほえま。ちなみに助手席にはシェルフ、後ろ座席の中央に私で左がプラム、右がミカン。後ろの中央座席は狭いじゃないかって?何を言いますか、天国ですよ。
しばらく北上すると徐々にお店は減ってきて、住宅や木々が増えて閑散としてくる。車の数は多くはないものの結構走っているのは主要道路である国道139号線の裏道にもなっているから。帰る頃は夕方になりそうだけど平日でも渋滞になってるんだよね、仕方ないけど。
そのまま進み、信号機の数が減ってくると徐々に次の目的地に近づいてくる。そして、この目的地は手前に大渋滞を生み出す信号機が待っている。といっても、流石に平日お昼は空いてるけどね。土日のお昼前後とかすごいことになってるんだよ。
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ついたー
「白糸の滝」
富士宮の観光名所と言えばここが必ず挙がるね。私も何回も来たことがあるんだけど、最近工事しててそれが終わってから来るのは初めてだ。
「ここはどういうところでござるか?」
「ここはね、滝を見るところだよ」
「滝?大量の水がまとまって落ちてくる、のが滝だったでござるか」
あれ?もしかして滝も知らないの?
「山の方はモンスターだらけなので行かないでござるから。冒険者が噂話するのを少し聞いたことがあるくらいで、全くイメージが沸かないでござる」
町中に滝なんてないだろうしね。じゃあびっくりするかも。
駐車場から降りてみんなで入口へ向かうが、少し距離がある。
「なんかすごい音が聞こえてくるよー」
すぐに轟々と鳴り響く重低音が聞こえてくる。
実は観光地『白糸の滝』の敷地内にはもう1つ迫力のある滝があって、先にそっちを見ることができる。
「ほら、そこの左側の川の方を見てごらん」
『『『!!!』』』
あ、3人とも固まった。
『音止めの滝』
落差約25メートルでかなりの水量を誇る滝で、その激しさが奏でる轟音で近づくと会話がし辛いくらい。白糸の滝よりもこっちの滝の方が好きって人も結構いるらしい。
「あ、あれはなんでござるか、確かに水が落ちているでござるが、なんでござるかこの水量と迫力は!」
「かっこいいです……」
「(パタパタ)」
ミカンのイヌ耳がパタパタしてる、可愛い。
3人とも呆然として正気に戻ってまた呆然とするって感じを繰り返してて反応が良いなぁ。喜んでくれたようで何よりだね。
ちょっと時間かかりそうだからしばらくここで休憩してようかな。座るところもあるし。
音止めの滝は周りが森に囲まれているので、緑と滝の白が映えるのが良いんだよね。今朝、山の方で雨が降ったらしいので、今日は水量が多くて当たりの日だ。白糸の滝の方も見ごたえありそうな予感。
「いやぁ、すばらしいものを見せてもらったでござる。たかが水が落ちるだけだろうなんて思っていた自分が恥ずかしいでござる。こんなすごい景色があるとは、なるほどあながちあの冒険者達が言っていたことも嘘ではなかったでござるな」
「最 高でした」
「(ぽけーっ)」
あら、ミカンだけはまだぼーっとしてる、もっと騒ぎ立てるかと思ったけど、感動しすぎると静かになるタイプだったんだ。
ふふふ、かわいい。
「それじゃあ本命の白糸の滝へ向かおう」
音止めの滝を過ぎてしばらく歩くと左右に多くの露店が見えてくる。試食したり店のおばちゃんとお話したりしながらゆっくりと進む。こういうところでのお店の人との会話が楽しいんだよね。シェルフ、買うのは帰る時だって、今買っても荷物になっちゃうよ。
そして遠目ながら右手に白糸の滝が見えてくる。
さっきとは全然形の違う滝を見てまたしても驚く3人。
滝に近づくには急な階段を下りて、小さな橋を渡り、通路を進む。
「な、なんでござるかこれは!さっきのと全然違うでござる!」
『白糸の滝』
白い糸が垂れる様を表現しているのだろうけど、実際はそんな優雅だけなものではない。左右に大きく広がる岸壁から数多の"白糸"が垂れていて、迫力満点。
音止めの滝が一極集中型なら、白糸の滝は範囲型。視界を埋め尽くす絹のような白い線の集まりが優雅でかつ迫力のある風景を生み出している。
白糸の滝は水量によって全然違う景色を見せてくれるので、何度も楽しめる名瀑だ。
「きれいでござる」
「きれいです……」
「(ぼけーっ)」
ああもうミカンを抱きしめちゃいたいっ
おっと、心の声が。
あっ
「3人ともちょっとこっちきてー」
ここは人気なので写真を撮りたい人が多い。なので、順番を譲ることが大事。ぽけーっとずっと突っ立ってると邪魔になっちゃうんだよね。ゆっくり見たいけど観光地だからそれはしょうがないかな。
「素晴らしいものを見たでござる。この世界はこんなにも力強くて美しいものがあるでござるか」
「うーん、そっちの世界でもあったんじゃないかな。普通の人が見れない場所に、だけど」
「そう思うと向こうの世界を離れたのが少し惜しい気もするでござるな」
帰り途中、シェルフはまだ興奮が冷めない様子で素晴らしかったと連呼してくる。嬉しい反面、なんかちょっぴりこそばゆいな。
「すごいです……」
プラムはうっとりしながらまだ夢見心地な気分らしく、ふわふわゆったりと歩いている。
そしてミカンは突然、
「わーーーー!あははははははははー!」
叫んだり笑ったりしながら駆け出した。それはもう最高の笑顔で、犬耳をパタパタさせながら。
「トモちん!トモちん!この国ってすごいねー!滑り台楽しかったし、滝は格好良くて綺麗だったし、すっごいワクワクしたー。こんなにワクワクしたの、生まれて初めてだよー!よかったー!この世界に来てほんっとうによかったー!」
良かった。うん、良かったよ。ここに連れてきて、みんなと友達になれて本当に良かった。
だって、こんなにも素敵な笑顔で満足してくれたんだから。




