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いちいち登場人物に会話なんかさせてられないので、この回は会話の内容を思いっきり要約してます。
大混乱は百年前と言われているが、正しくは、更に五十年前の月との途絶から始まった。
月から浮揚船がやってこなくなり、送り出した浮揚船も、それっきり帰ってこない。五十年の間に、二百を超える浮揚船が月へ行ったきり帰ってこなくなった。
そもそも、この賢者の塔は、地上から、その原因を調べるために造られたのだ。
浮揚船に頼らない交信手段もあったが、一切使えなくなった。それに変わる新しい交信手段を構築しようとしたが、全て徒労に終わった。
唯一、成果を出したのが、天体望遠鏡による月の観測だったのだ。
そして、月の人々が死に絶えたらしいと結論に達した。
疫病が原因かも知れないが、腑に落ちない点もあった。初期はともかく、月の人々が死に絶えたらしいとわかってからも、月に向かって飛び立った浮揚船が帰ってこなかったのだ。
疫病ならば空気で感染する。ならば、浮揚船を月に送り出しても、船の中に閉じこもっていれば問題ないはずなのだ。
だが、帰ってこなかった。
地上から、観測可能な範囲で浮揚船を月へ送ったにも関わらず、原因はわからない。
様々な試行錯誤か繰り返されたが、結局、月で何が起こったか、わからないまま五十年が過ぎ、そして大混乱が起こった。
地上に残った僅かな浮揚船、そのカーボライトが力を失った。
そして多くの錬金術師たちも。
錬金術師が技を使う際、素材の他に賢者の石と月の砂を用いる。
賢者の石の力を用い、月の砂を活性化させ物質を変化させるのだが、一度力を出し切っても、短期間で力を取り戻すはずの賢者の石が、力を取り戻さなくなったのだ。
結果、多くの錬金術師たちが技を行使できなくなり、ただの調合師に成り下がった。
だが、ごく一握りの錬金術師たちは、賢者の石に頼らない方法で月の砂を活性化させる方法を編み出し、なんとか、その立場を保つ事に成功した。
そして、時間はかかる物の、賢者の石の力を取り戻す手段を完成させたのだ。
月との繋がりは絶たれたが、この地の錬金術師は新たなる方向へ進もうとした時、月の錬金術師集団を名乗る環の教団が現れた。
最初、教団は、全ての錬金術師を直接の管理下に置こうとしたが、統連を筆頭に多くの反発を受け断念。そして月で産出される錬金術の素材を独占管理する事で、錬金術師たち支配下に置こうとし、今日に至る。
恐らくカーボライトや賢者の石が力を失ったのには、教団が一枚、噛んでいるのだろう。
それが、かつての賢者の塔、その導師たちが出した結論だった。五十年の途絶はともかく、大混乱に関しては教団が意図して起こした物なのだと。
教団が月の錬金術師集団というのは事実だろう。
だが、その数は、せいぜい数十人で、彼らは、まず地上には降りてこない。浮揚船で地上まで降りてくるのは、教団に属する月の民で、彼らは詳しい事は何も知らない。
昨日、投降した二人も詳しい事は何も知らなかった。恐らく、情報を制限された環境で教団の手足となるべく教育されたのだろう。
教団は、この地で影響力を行使するため自らの息がかかった者たちに、直接、指示を出せるよう通信器をバラ撒いたそうだ。ラセルの工房にやってきた錬金術師たちも、その通信器で指示を受けたらしい。
賢者の塔にも教団と繋がる通信器があり、シルバがラセルを殺さぬよう教団に掛け合ったのだそうだ。おかげで、ラセルは工房を壊されただけで済んだ。
つまり、統連はおろか、この賢者の塔の導師にも、教団の息がかかった錬金術師がいるかも知れない、というわけだ。
だが、一昨日の騒ぎで、統連の風向きが変わってきた。
まだ油断は、できないが、賢者の塔としても、汽械式浮揚船の開発に協力できる。
何より、月で一体、何があったのか?
その真相を知りたい。
――これが、総導師とシルバの、大まかな話の内容だった。
今回、語ってませんが、月の砂は錬金術で使うと飛び散ってどこか飛んでってしまいますが、再利用が可能です。
海流の流れ等で月の砂が集まりやすい場所。そこが統連だったりします。
月との往来が途絶えたあと、統連に錬金術師が集まった理由ですね。
書き始めた時は錬金術のまともな設定なんて無かったんですが、執筆再開後、少ししてから錬金術の設定が固まりました。
ファンタジー設定ではなくSF設定として錬金術を使ってます。
ちなみにエンナもヒスイも賢者の石無しで、比較的、高度な技が使えます。