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包み

この12年間で3人の家族を亡くした初老の男は長めの白髪に

うつろな瞳、心持猫背で12年前のあの時とは別人のようだった。


「よく来てくれました。あなたが若林治君でしょう」

老人は治の前に歩み寄ると手に持った包みを差し出した。


「これを渡さないかんかったのです。娘の形見ではありますが

この日記帳と手紙だけはあなたに渡します。受け取ってください」

その包みはずしりと重かった。


「娘は小学校5年生の頃から日記をつけ始めました。ちょうど息子が

亡くなってからのことだと思います。日記はほとんど毎日、死の直前

まで書かれています。私も娘が死んでから何回となく読み返しました。

特にあなたに関する記述のところには赤い糸紐が目印になっています。


12年間のの日記ですが後半かなりあなたのことが増えてきています。

急性骨髄性白血病が発症してからの3か月間は狂おしいまでにあなた

のことがつづられています。私もあとわずかの命ですからこの日記を

持ってても仕様がありません。どうか必ず一読なさって、用が亡くなれば

焼却してください。よろしくお願いします」


と言って深々と頭を下げる。治は厳粛な気持ちになって神妙に答えた。

「はいかしこまりました。必ず最後までじっくりと読ませていただきます」

それを聞いて老人は初めて笑みを浮かべた。


3人の墓にもう一度線香を立てて4人で祈った。冥福を祈る。冥福って

何だ?柴山杏子の追憶が次から次へと巡る。健康そのものだったのに。


今にも消え入りそうな真冬の日差しの中で杏子の墓石が治に何かを語り

かけてくるように思えた。墓石に杏子の顔が浮かんで笑みを残してふっ

と消えた。『来てくれたのね、ありがとう』耳元でそう聞こえた気がした。



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