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三回忌3

治はここでまたすぐ歩みを止めた。そのまま行こう

とする宮本の前に立ち、


「ちょっとまってくれ。それじゃまるでこの俺が、

丸っきりの悪者みたいじゃないか?」


「そうよ、女の気持ちもわからない、無神経で

わがままなあなたが彼女を不幸にしたのよ」


「そりゃあひどいよ。どうしてそういうことがわかるんだよ。

かってに決めつけると、俺だっておこるよ」


宮本は黙ってゆっくりと歩きだした。治と児玉もそれに続く。


「私の勝手な決めつけじゃないわ。杏子が入院したとき、お父様から

何度も若林君の居所わかりませんか?連絡つきませんか?って尋ねら

れたの。あなたの実家にも2度電話したわ。夏の終わりに海外へ飛び

出したっきり一度も手紙も来てません、全く連絡つきません、ていう

返事だったわ。ねえ児玉君」


「ああそうだったよな。杏子はそんなに若林に会いたがっていたのか」

「そうよ。ほんとに会いたがっていたのよ」


どうも分が悪い降参した方がよさそうだと治は、

「わかった。どうも俺が悪かったような気がしてきた。それでなにかな、

杏子は何を言おうとしたのだろうか?」


「若林君。あなたってホントに馬鹿ね。言うんじゃなくて言って欲し

かったのよ。たった一言」

「ひとこと?」

「そうよ、好きだって」


「え、そんなこと」

治は気を取り直し、

「そんなことならいくらだって言えるよ。好きだ、好きだ、好きだ。ほら」


「そうじゃなくて、心を込めて、一言でよかったのよ」

「よくわからないなあ」

「だから男は鈍感ていうのよ」


向こうに寺が見えてきた。児玉がこっちだと先導する。境内の入り口で

線香と仏花、手桶に水をくんで墓石へと向かう。奥まった一隅に三基の

小さな墓石が建っていた。治は真新しい墓石を見て、


「この新しいの違うみたいだ?」

児玉が線香に火をつけながら、

「その新しいのは去年亡くなったお母さんのだ。真ん中が杏子の墓、

こちらが杏子のお兄さんの墓だろうな」


仏花を差しながら宮本が、

「そうよ、今はもうお父さんおひとり。お店は閉めておひとりで・・」


あの流川町の洋装店がよみがえってきた。そうか、あの時は息子を亡く

したばかりで、お父さんと杏子の気持ちが今少し分かりかけてきた。


さぞかし相当落胆していただろう父の心、跡取り息子の死、それを何とか

元気づけようと杏子なりに努力した。あの時の大声で笑った親父さんの顔

は今でもはっきりと覚えている。


墓石に水をかけ3人は静かに祈った。


「こんにちわ」

3人の後ろで小さく男の人の声がした。3人同時に振り返り揃って、

「こんにちわ」

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