1/9
第1話 迷い
垂れ込める雲と霧で天と地の境目も定かでなくなってしまった。
うっそうと茂る雑木林、降り続いた雨で湿った落葉が靴底を沈める。全身、汗と霧で着ていたジャージがじとりと濡れ、ブナの葉から滴り落ちる水滴が首筋からタラリと肌を伝って流れ落ちる。
どこかに、雨露を凌げる乾いた場所を探さねば・・・
2月の寒さは、歩き回っていても体の芯まで貫き、体力ばかりを奪って行く。
田中篤朗は、真後ろを震えながら黙ってついて来る桧垣由紀の存在を確かめながら、山をゆるゆると下っていた。
多分・・・もうすぐ日が暮れる。
雨と霧のせいで、午後3時の森は暗く、日暮の早い訪れを予告する。