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冬の雨  作者: 津那
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第2話 合宿

 更科田高校陸上部とバレー部の合同合宿が、梅沢岳稲復自然館という研修センターで行われていた。学力重視でスポーツに力を注いでいない校風の更科田高校にあって、3連休中に冬季合宿を試みるような熱血部活動は、この2つしかないのだが。

 以前は、陸上部だけのクロスカントリー強化鍛錬を目的に行われていたのだが、2年前に赴任した荒木教諭が女子バレー部を率いることになり、陸上部顧問の体育教師の寺尾が、夏休みの合同合宿に続き、今回の合宿を誘った形になっている。

 男子の多い更科田高校では、陸上部員も18人が男子、女子は4人。女子バレー部は11人。女子バレー部の合宿参加は、陸上部員とって嬉しいことだった。夏の大会を最後に3年が引退した冬は、少人数での合宿になる。

 クラスメイトの桧垣由紀は一際目を引く美少女で、大人しい篤朗には高嶺の花のような存在。その他大勢に隠れて篤朗は密かに由紀を想っていた。明るく活動的で少し天然っぽい由紀は、美貌の割に晩熟らしく、浮いた噂の殆どが真実味のないものばかりだった。由紀の親友であり同じ部活、同じクラスの湯浅美保子が同じく美少女ながらかなり奔放なだけに、由紀は美保子と一緒に男子とも気さくに話す。由紀が少しでも仲良くした男が噂になったりするだけだ。

 夏の合宿では、何度も由紀に話しかけるチャンスがあったのに、篤朗はドキドキするばかりで何もできなかった。

 冬の合宿に、由紀が来るというだけで、浮ついた気分になったのは、厚朗だけではない。3年がいなくなり、厚朗たち2年がリーダーになっている。夏よりも、由紀に話しかけることが容易なのだ。


 女子と男子が別れて、早朝から配布された弁当を持って鍛錬色濃いオリエンテーリングを行う。男子のコースが長く険しく、女子のコースは比較的緩やかだった。男子は3人6組。女子は4人2組、3人3組となり同時にスタートした。

 昨夜降り続いた雨でぬかるんでいる場所が多いが、休憩込み7時間で優に回れるコース。夏にも同じコースを回っていて馴染がある。点在する15箇所に書いてあるクイズを解き、頭文字をキーワードとするゲーム性が高いもので、皆、楽しみ間隔で出発した。

 天気の変わりやすい山特有、昼食休憩をとっている時に、雨が降り出した。雪が所々に残っているような山で、雨に打たれることは危険である。センターの位置から、黄色い発炎筒があがり、引き上げの合図を受けた。

 篤朗がリーダーを務めていたチームは、11個のクイズを解いていて時間的に圧勝することが出来ると踏んでいただけに、少し残念な気がしながら、下山に向かっていた。

 いくつものコースに分かれて散らばっていた仲間達と、彼方此方で合流しながら、下ると、女子達のグループと出逢った。

 雨脚が強まり、かなり大粒の雨が降っている。

 駆け足状態でぬかるんだ山を下っていた。

「田中君。」

 声を掛けられて、篤朗が振向くと、美保子がいた。

「田中君。お願いがあるの。あたしと一緒に由紀を探してくれない?」

 美保子が、篤朗の耳元で囁くように言う。篤朗が見ると、美保子は6人の1年生を連れていた。3人が泣きそうな顔をしている。

「探すって?」

「H地点で、朱美が大崎君とこっそり落ち合うために抜け出して、それを知らなかった由紀が、この子達を先に行かせて朱美を探しに行ったの。朱美は戻って来たんだけど、由紀だけがいないのよ。」

「大崎は?」

 篤朗が見回して聞く。上の方から下っているこの中に大崎の姿はない。

「大崎先輩は、あたしと別れた後、チームに戻っているはずなんです。」

「この子達が、朱美を手引きしながら、由紀を止めなかったのよ。」

 美保子にキツイ口調で言われて、3人の女子は涙ぐんだ。

「言う前に、桧垣先輩が飛び出して行かれて・・・ごめんなさい。」

「あたしがこの子達から聞いたのは、下山の合図の後、この子達がG地点でウロウロしていた時よ。」

「桧垣先輩を探してたんですけど・・・見つからなくて。」

「田中君、お願いよ。あたしと一緒に来て。」

 篤朗はクロスカントリーを得意とする長距離ランナーでもある。美保子が他の男子ではなく、篤朗を選ぶようにして助けを求めた理由はそれだ。生真面目で、冷静沈着な篤朗に、美保子は縋るような目を向けた。

「湯浅は、この子たちを引率して下山しろよ。桧垣は、僕が探す。・・・桧垣は、大崎とその子の関係を知っていたの?」

「はい・・・多分、知っていたと思います。あたしたちに口止めして、桧垣先輩、コースを外れて行っちゃったから。」

「どうして、H地点を選んだの?」

 篤朗が朱美に聞く。

「あそこの傍に、防空壕があるんです。大崎先輩から、あたし、聞いていて、それで・・・。」

「あたしが行ってみたときは、由紀、いなかったの。」

 美保子が言う。

「わかった。あの発炎筒は、桧垣も見たはずだ。僕が探しに行くけど、桧垣が戻ったら、赤い発炎筒を上げてくれるように先生に言ってくれ。」

「お願いよ。田中君。由紀を、お願い。」

 美保子に頷いて、篤朗は、雨の中、踵を返した。


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