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ニューロウクラフト(NEW LAW CRAFT)  作者: 莎道


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第3章 3話 アニミズム

第3話 アニミズム


「それでは、私はここで一度失礼いたします」


アディはそう言って、俺たちの前から離れていった。


そして俺たちは、教会内にある「教理室」と呼ばれる場所へ案内された。


教会の人間が、ここで信仰や、それに由来する教えについて学ぶ場所らしい。


部屋の中には、いくつかの資料と古びた書物が並んでいる。


しばらくすると、先ほどの司教――アサノが俺たちの前に座った。


「ルーカスさん、ハルカさん。お疲れ様です。それでは早速ですが、ルーカスさんのご依頼通り、ここで私が実際に教えていることについて、詳しくお伝えしましょう」


正直に言う。


俺は何も聞かされていない。


ルーカスさんが手紙を送っていたことも、二十五歳になってからよく分からない宗教の勉強をすることも、今初めて知った。


「最初にお話しするのは、この団体の根幹についてです」


その言葉を聞いた瞬間だった。


『司教アサノの発言をデータとしてバックアップしますか?』


「ん?」


突然、アクティビティスキルが反応した。


「どうしたんだ、急に?」


『これから話される内容は、そのほとんどが真実である可能性があります。バックアップしますか?』


「なんか分からんけど……頼む」


『了解しました』


ここ最近、自分の意思とは関係なく、アクティビティスキルが反応することがある。


一体、俺の中で何が起こっているんだ?


そんなことを考える間もなく、アサノ司教は話を続けた。


「まず、この団体はアニミズムという、精霊信仰を行っております」


「精霊信仰……」


「はい。一般的な宗教では、神や人、あるいは特定の個人を崇め、その者の教えや方針に従って行動します」


アサノは一度言葉を切った。


「ですが、我々が信仰しているのは、それよりもさらに抽象的なものです。特定の個人ではなく、もっと大きな何かを対象としています」


「抽象的なものにすることに、何か意味があるんでしょうか?」


ルーカスが尋ねる。


「ええ、もちろんです」


アサノは頷いた。


「言葉にすれば精霊信仰。しかし、それだけでは少し浅い表現になってしまいます。我々が本当に信仰しているものは、もっと深いところにある」


「それって……魔力、ですか?」


俺が尋ねると、アサノは少しだけ目を細めた。


「その通りです」


「我々は、魔力そのものを信仰しています。そして、その力を得ることを目的としているのです」


アサノの話は、そこから一気に複雑になっていった。


「教祖様の教えでは、魔力には大きく分けて二種類あります」


アサノは指を二本立てた。


「一つは、一般的な魔力。つまり、今を生きている我々が持っている魔力です」


そして、もう一つの指を立てる。


「もう一つが、亡き者の魔力です」


「亡き者の……魔力?」


「はい。そして、その魔力には、それぞれの持ち主が生前に持っていた記憶が宿っています」


アサノはそれを、


「我々はこれを『生前魔力』と呼称しています」


と説明した。


「そして、この生前魔力を持つのは――旧神スキルだけです」


「……旧神スキル」


その言葉を聞いた瞬間、俺は少しだけ反応した。


エジプトで聞いた言葉だ。


「現在、この世界に存在する多くの教会や宗教団体は、生前魔力を信仰し、それを継承することを大きな目的としています」


「なるほど」


ルーカスが頷く。


「では、その力を継承した者が、大司教になれるという考えですか?」


「概ね、その通りですね」


「でも……」


俺は疑問に思った。


「スキルを引き継ぐことに、何か目的があるんですか?」


「もちろんです」


アサノは少しだけ笑った。


「お二人は、『神』という存在定義についてご存じですか?」


俺とルーカスは顔を見合わせる。


そして、ほぼ同時に答えた。


「聞いたことありません」


「そうですか」


アサノは驚く様子もなく頷いた。


「では、一から順に説明しましょう」


そう言うと、アサノは教理室に置かれていた資料を一枚手に取った。


「まず、この世界には神がほとんど現存していません」


「ほとんど?」


「はい。現在、この世界に存在するのは、基本的には人間や動物。そして、ごく稀に――半神と呼ばれる存在がいます」


「半神?」


「ええ」


アサノは淡々と説明を続ける。


「半神とは、旧神スキルを一つ。そして、臨界、特異、現神。この三つのクラスのうち、いずれか一つのスキルを持つ人間のことです」


「……つまり、スキルを二つ持っている人間?」


「そういうことです」


「じゃあ、神は?」


ルーカスが尋ねた。


「神は、旧神スキルを一つ持った上で、さらに二つ以上のスキルを持つ存在です」


「つまり、最低でも三つ……」


「はい」


アサノは頷いた。


「そして、旧神スキルは一人の神につき一つしか存在できません。いわば、神という存在の根幹です」


「だから、生前の記憶もその旧神スキルに宿る……」


ルーカスが呟く。


「その通りです」


アサノは肯定した。


「そして、この考え方からすると――おそらく、この教会を含め、多くの教会が抱える大司教は半神であると考えていいでしょう」


「でも、普通の人間は生まれたときに固有スキルを一つしか持ってないですよね?」


俺が尋ねる。


「はい」


「そこに旧神スキルを一つ継承すれば、スキルが二つになる」


「その通りです」


「じゃあ……」


俺はそこで一つの答えに辿り着いた。


「教会の目的って、それだけじゃないんじゃないですか?」


アサノの表情が僅かに変わった。


「……ええ」


そして、静かに答えた。


「もう一つあります」


「それは?」


「教祖様の復活です」


「復活……?」


その言葉に、俺は思わず聞き返した。


しかし、ルーカスの方が先に疑問を口にした。


「ですが、それだと神の定義である『旧神スキルを含めた三つ以上のスキル』という条件を満たせないのでは?」


「ええ」


アサノは苦笑した。


「そこが問題なのです」


「問題?」


「未だに、三つ目のスキルを獲得する方法が分かっていません」


アサノは机の上に資料を置いた。


「我々も毎日、信仰を怠らずに行っています。縁のある土地へ赴き、調査も続けています」


そこで一度、言葉を止める。


「ですが、未だに明確な答えは出ていません」


「……」


俺は黙って話を聞いていた。


けれど、一つだけ引っかかる。


そもそも、大司教が旧神スキルを信仰しているのなら――。


信仰者はいったい、誰を信仰しているんだ?


『会話の内容から推測すると、これは先ほど司教が説明した精霊信仰に該当すると思われます』


「ん?」


俺は小声で尋ねた。


「でも、さっき生前魔力を信仰してるって言ってたけど?」


『おそらく、ブラフです』


「なんで、わざわざブラフなんて噛ますんだ?」


『司教アサノが行っている儀式そのものに、何らかの隠匿が存在する可能性があります』


「そんなヤバめの儀式をしてるってことなのか?」


『それは分かりません』


「……分からないのかよ」


思わず心の中でツッコんでしまう。


とはいえ、聞かないわけにもいかない。


俺は改めてアサノに尋ねた。


「えっと……大司教が旧神スキルを持っているなら、信仰者の人たちは誰を信仰してるんですか?」


「それは――」


アサノは一切迷うことなく答えた。


「大司教様、そのものです」


「……え?」


「我々は精霊信仰も行います。しかし、それはあくまで旧神スキルを物に宿すための行為」


アサノは静かに続けた。


「そして、我々が本当に信仰しているのは――」


一瞬だけ、アサノの視線がこちらに向いた。


「大司教様、その人です」


「……あぁ」


俺はようやく理解した。


「なるほど」


俺はようやく理解した。


教会の人間が信仰しているのは、魔力そのものでもなければ、どこかに宿った精霊でもない。


大司教、その人自身。


つまり、この教会における信仰の中心は、旧神スキルを持つ大司教ということになる。


「なるほど……」


そのとき、俺のスマートフォンが鳴った。


画面を見ると、ソフィーさんからだった。


「もしもし?」


『ハルカ君、そっちはもう終わった?』


「はい。こっちは一通り話を聞いたところです」


『こっちもだよ。そろそろ一度合流して、情報を整理しよう』


「分かりました。すぐ戻ります。」


通話を切る。


「では、私たちも移動しましょうか」


アサノ司教が立ち上がった。


俺たちは教理室を出て、ソフィーさんたちとの合流地点へ向かう。


その背中を見送りながら、アディがぽつりと呟いた。


「……ハルカさんって、やっぱり鋭いですね」


「ええ」


アサノは小さく笑った。


「思っていた以上に、よく見ています」


「気をつけた方がいいですか?」


「いいえ」


アサノは首を横に振る。


「むしろ、あのくらいでなければ困ります」


二人はそう言って、ハルカたちの後を追った。


「それではルーカスさん、ハルカさん。お気をつけてお帰りください」


「ありがとうございます。また明日、よろしくお願いします」


教会を出て、二人は帰路についた。


「まぁ、それにしてもかなりの情報量だったな。これが三日ほど続くってなると、とんでもなさそうだ」


「えっ! あと三日もあるんですか!? それ先に言ってくださいよ〜。勉強というか、こういう話を聞くなんて、さっきここで初めて聞いたんですから」


「ははっ、悪かったな。お前が準備段階の時、一人でブツブツ喋ってたから悪いんだぞ。それに、なんでソフィーは俺じゃなくてお前に話を聞かせたんだよ」


「そんなの僕に分かるわけないじゃないですか! ……なんですか? ソフィーさんのこと、好きなんですか?」


「そんなんじゃねぇーよ。単純に気になっただけだ」


「ほんとですか?」


「うるさいやつだな。なんでもいいだろ」


その時、ルーカスの端末が鳴った。


「お、ソフィーか。もしもし?」


「かかってきたじゃないですか〜。良かったですね!」


「うるさい!」


「あぁ、悪い。どしたんだ?」


『今日の宿泊場所が決まりました! えっと、場所を送っとくのでバーベキューの買い出しよろしくです! では!』


急に電話が切れた。


「……たく、アイツは自由だな。俺らでバーベキューの買い出しだとよ」


「おぉ! バーベキューですか! 良いですね〜」


「って言うか、僕がエジプト行った時、全部ご飯持ってきてたんですけど? やっぱり旅行してるじゃないですか!」


「局長が厳しいだけだよ。1秒たりとも無駄にしたくない人だから。あの人と行く時はしんどいんだよ」


「あ、そうなんですね……。じゃあ、意外とこれが普通だったりするんですかね?」


「まぁそうだな。あと、エジプトじゃ何もないだろ」


「まぁ、たしかに」


「とりあえず、俺らは買い出しだ」


「はい!」


二人はそのまま買い出しへ向かった。


――――


買い出しを終え、ソフィーから送られてきた宿泊先を確認する。


「場所ってどこですか?」


「えっと……サモシール島らしいな。えらい豪華なリゾートホテルだな」


「うわぁ……やっぱり旅行じゃないですか」


「ソフィーは偉いところ出身だからな。こればかりは局長もなぜか目を瞑ってる」


「ソフィーさん、お嬢様だったんですか。初めて知りました」


「お前、あいつのこと何も知らないんだな」


「いや、だって会ったの今日がほぼ初めてですし……」


「それもそうか」


二人はタクシーに乗り込み、宿泊先へと向かった。


――――


ホテルへ到着すると、すでにソフィーたちが待っていた。


「遅いですよー! 私たち、もうお酒飲んでるんで早くしてくださいね〜」


「くそ、ほんとに自由なやつだな」


「ですね。さっさと準備しちゃいましょう」


「おかえりなさい。買い出しありがとうございます」


「いえいえ。ルーナさんも飲んでるんですか?」


「私はまだ少しだけですよ。……お姉ちゃんが飲みすぎてるだけで」


「ちょっとルーナ! 余計なこと言わないでください!」


「事実じゃん」


「ほらな。これがいつもの光景だ」


「なるほど……」


二人は食材を並べ、黙々と準備を始める。


しばらくして――


「おいルーナ! お前つまみ食いするな!」


「バレた!」


「お前なぁ……」


「逃げろ〜!」


「待て!」


ルーナが笑いながら逃げていく。


「終わってるな、この姉妹……」


「なんか、ルーカスさんいいように使われてますね……」


「そうなんだよ。これが毎日だ。ほんと呆れる」


「ルーカスさん、諦めたら楽ですよ?」


「お前が言うな!」


「ご苦労様です……」


「お前まで他人事みたいに言うな!」


しばらくして、料理が完成する。


「よーし、おーい、できたぞー!」


「はーい! じゃあ食べましょう!」


「やっとですね。お腹空きました」


「もぉ、遅いですよー。もうお酒だいぶ飲んじゃいましたよ」


「それはお前がフライングするから悪い」


「ソフィーさん、お酒強いんですか?」


「私ですか? 私は別に普通ですよ。人並みに飲むぐらいです」


「ハルカ、聞き入れるなよ。あれは全部嘘だ。アイツはめちゃくちゃ飲む。絡まない方がいい」


「ちょ! ルーカスなんてこと吹き込んでるんですか! 私は別に呑んだくれたりしないですよ! きっちり真面目なレディです!」


「ダウト」


「ダウトですね」


「ルーナまで!?」


「ははは……」


ハルカは三人のやり取りを眺めながら、少しだけ安心したように笑った。


「なんか、みんな仲良いですね。エジプトの時は詰め詰めだったんで、今回もそうなのかなと思ってました……」


「いつもこんな感じですよ!」


「局長がいる時だけ、ちょっと違いますけどね」


「そうそう! 局長がいる時は何かが起こる可能性が限りなく100パーセントに近いだけです!」


「確かに。あの人、変なものを引き寄せますからね」


「あの人は絶対なにか呼び込んでますよ」


「まぁまぁ、そういうな。とりあえず飯にしよう」


そして四人は、仲良く食事を楽しんだ。


――――


「ふぅ、ご馳走様でした。だいぶお腹いっぱいになりました」


「そうだな」


「さてと、そうも言ってられずに俺ら二人は片付けだな」


「あ、やっぱ片付けまで僕らなんですね」


「まぁしょうがない」


「ごめんなさい。私も手伝いますよ?」


「いや、お前はいい。どうせ途中でまたつまみ食いするだろ」


「しませんよ!」


「さっきしただろ」


「……一回だけじゃないですか」


「一回だけだったんですね」


「そこは信じてくださいよ!」


「ほらな。余計なこと言うからこうなる」


「じゃあ、僕らでやりましょうか」


二人は食器を片付け始めた。


しばらくして――


「ソフィー、終わったぞー」


「はーい。じゃあ皆さん、一旦私たちの部屋に集合です!」


「え、ここから更に二次会とかある系ですか?」


「バカ言うな、そんなことやったらソフィーがどう暴走するかわからん。今日得た情報を共有するだけだ」


「あ、仕事なんですね」


「そりゃ当たり前だ。酒飲まないと仕事なんてやってられないからな」


「たしかに!」


「それ、仕事中に言うことじゃないですよ」


「お前も飲んでただろ」


「私は付き合いです」


「はいはい」


そして4人が部屋に入る。


――――


「さて! 切り替えて行きましょう」


ソフィーはテーブルの上に資料を並べる。


「まずは、私とルーナが得た情報を共有しますね」


「今回の石棺、祭壇の調査で大きな疑問は3つほどありました」


「一つ目が、石棺そのものではなく、何かの影響によって内部が純金に変わっていました」


「二つ目。ルーナが結合《ボンディング》した際、三角錐の柱が出てきました」


「しかも、あれは普通の構造物じゃないと思います。結合した時の反応が、周囲の物質と明らかに違いました」


「そして3つ目。色々掃除していたところ、石棺のあった場所そのものが大きな魔法陣になっていました」


「この3つですね」


「それと、もう一つ気になることがあります」


「なんですか?」


「私が結合《ボンディング》を使った時、明らかに元素が足りなかったんです」


「足りなかった?」


「はい。石棺を構成していた物質だけでは、あの形状を作ることができない。何か別の物質が使われていたはずです」


「私の見立てだと、おそらく錬金術だと思います」


「それに不思議だったのが、血痕を隠蔽する魔法もかかってたことです」


「血痕の隠蔽……」


「はい。意図的なのは間違いないと思います」


「それに、最近まで儀式を行っている痕跡が出てきた以上、長く調査するのは良くないと思います」


ソフィーが続ける。


「一応、私が還元《レダクツィオン》した際に出たのが、血球やタンパク質、それから石を構成していた元素たちでした」


「血球が出てきた時点で、何か良くないものが絡んでそうです」


「そうですね。あとは――」


ルーナが口を開く。


「おそらく、儀式が現在進行形で行われている可能性もあります」


「なるほどな」


「こっちは3日ほどで完結すると思うが、そっちはどうだ?」


「こちらもおそらくそのぐらいで終えると思います」


「儀式の周期がおそらく月1回か、週1の頻度。週1だと仮定して動いた方が確実だと思います」


「そうか、じゃあ3日で切りを付けよう」


「じゃあ次にこっちの情報だな」


ルーカスがハルカを見る。


「よし、ハルカ。お前が報告してやれ」


「了解です!」


ハルカは一度資料を確認してから、口を開いた。


「えっと、まずはウガモ・マリルという教会に訪れました」


「そこで司教のアサノさんという方から色々お話を聞きました」


「アサノって? それ日本人じゃないの?」


「そうなんですよ! びっくりして、インドネシアにまさか日本人がいるなんて――」


「脱線してるぞー」


「あ、すみません」


「ふふっ。ハルカさん、そういうところありますよね」


「すみません……」


「えっと話を続けますが、そのアサノさんから、信仰理由、対象、そして神の定義の話をお聞きしました」


「ほぉ、神の定義ですか。気になりますね!」


「はい」


「アサノさんが言ってたのは、今この世界で現存する神はほとんどいないと言っていました」


「今いるのは、動物や人間、そのほか生物。そして、まれに半神がいるそうです」


「まず、半神の定義は旧神スキルを持ち、臨界、特異、現神、このうちどれか1つ、合計2つのスキルを持つ者が半神という定義になるそうです」


「次に神ですが、神はその半神の条件プラス、固有スキルを1つ以上持っている者が神という定義になるそうです」


「なるほど。では、旧神スキルを含めた3つ以上の固有スキルを持っている者が神になるってことですか?」


「はい。その通りです」


「人間が与えられる固有スキルが1つだけなのは変わらないと。ただ、信仰を行うことで旧神スキルを手に入れると」


「ということは、旧神スキルが信仰対象ってことですか?」


「えっと、それが少し難しくて」


「教会は表向きには、魔力を信仰していると言っていました」


「魔力そのものを……?」


「はい」


「あと、もう一つが生前魔力です」


「生前魔力?」


「生前魔力とは、旧神スキルのみに有る物で、元々の持ち主……神の記憶が残っているということらしいです」


「……記憶が?」


「はい」


「それと、元々固有スキルとは、神の御業。神が人に力を与えたものが、今で言う固有スキルになってます」


「なるほど……」


「なので言うなれば、スキルクラスの臨界、特異、現神は旧神スキルの派生です」


「ということは、今のスキル体系そのものが神から派生したもの……ということですか?」


「そうです」


「神になるためには、その派生スキルを返還してもらい、条件を満たす」


「神によって合計保有スキルがバラバラです。3つの神もいれば、10個以上持っている神もいます」


「そんなに……?」


「はい」


「教会の目的は、信仰対象である神、教祖を復活させることが目的だそうです」


「教祖を復活……?」


「そして魔力にも2種類、生きている我々が持っている魔力と、亡き者の魔力の2種類」


「もちろん、生前魔力があるのは亡き神の魔力です」


「ちょっと待ってください」


ソフィーがハルカを見る。


「その辺りは、アサノさんから聞いたんですか?」


「……はい」


一瞬、間が空く。


「世界には固有スキルの上限が決まっていて……旧神スキルもその範疇です」


「そこから縁の土地で信仰を行い、旧神スキルを縛ります」


「そこから信仰力を高め、選ばれたものが旧神スキルを手に入れます」


「それにはいくつかの儀式がありますが、それも神によってバラバラです」


「血肉を捧げる儀式もあれば、厳格な手順や試練を乗り越えて得る方法もあります」


ルーナが少し不思議そうにハルカを見る。


「……ハルカさん?」


ハルカはその声に反応しない。


「そして、生まれながらにして旧神スキルを持っている人間は……その時点で神に成り得ます」


「持っている旧神スキルが生前魔力から……今どこに御業があるかを探して……持ち主を見つければ……」


「その場で返還が行えます」


ルーカスの表情が変わる。


「ハルカ?」


ハルカはそれでも止まらない。


「この法則が絶対の世界で……」


「神が行いたいことは1つ」


「自身の力を取り戻し……」


「神代へと戻ること……」


その瞬間。


ハルカの身体から力が抜けた。


「――――」


ドサッ。


「ハルカ!」


「ハルカさん!?」


「しっかりしてください!」


三人が一斉に駆け寄る。


ソフィーがハルカの様子を確認する。


「ルーカスさん! 今ハルカ君が言ったことは、全部事実ですか!?」


「いや……途中までは正しい」


「だが、それも最初の2割程度の話だ!」


「それ以降は俺は何も知らないし、聞いてすらない!」


「何が起こってるんだ……?」


「とりあえず、ハルカ君は部屋に運んであげましょう。ルーナ、お願い」


「分かった」


ルーナがハルカを抱き上げる。


「……軽い」


「何か言ったか?」


「いえ、何でもありません」


ソフィーが二人を見る。


「とりあえず、その後は3人ですり合わせを行います」


「ルーカスさんが知っている事実の部分だけで良いです」


「ここで不安定要素を入れてしまっては、3日じゃ到底終わらないです」


「分かった」


ルーナはハルカを抱えたまま、部屋を出ていった。


残された二人は、しばらく無言でその背中を見つめていた。


やがて、ルーカスが小さく口を開く。


「……なぁ、ソフィー」


「はい」


「さっきのハルカ……本当に、何だったんだ?」


ソフィーはすぐには答えなかった。


「……分かりません」


「だからこそ、今は余計なことを考えない方がいいです」


「まずは、事実だけを整理しましょう」


「……そうだな」


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