第15話「魔導人形、完成。そして」
第15話「魔導人形、完成。そして」
バライトストーンを動力コアに組み込む作業は、二日かかった。
大学の工房で、あたしはアシスタントとしてがんばった。カルロさんは緊張した顔で、コアの取り付けを進めた。細かい作業のたびに手を止めて、設計図を確認してから続ける。仕事に関してはホントに手を抜かない。見た目にもこのくらい気を使えばいいのにね。
「ここで少し固定が甘いと、戦闘中に外れる可能性があって」
「じゃあしっかり固定すればいいんじゃないですか?」
「そうもいかないんですよ。固定が強すぎると、コアの魔力放出が制限されて——」
「バランスが難しいんですね」
「ええ。難しいんです。最初のプロトタイプを十二回作り直して、ようやく今の設計になって」
「十二回も……」
あたしは素直に驚いた。
「農村の人たちのためです。僕も田舎育ちですからね。あの人たちが本当に困ってるのを見て、なんとかしたくて。でも僕、剣は全然ダメだし魔法も使えないし、できることが研究しかないから」
カルロさんは少し照れたように言った。
「すごいと思います」とあたしは言った。お世辞じゃなく、本当にそう思ったから。
「自分ができることを一生懸命やるって、とってもかっこいいことです」
カルロさんが少し目を丸くした。
「……ありがとうございます」
照れ隠しするように設計図に目を戻して、また作業を続けた。
二日目の夕方、魔導人形が完成した。
腕の関節が直って、コアが新しくなった人形は、工房の中で静かに起動した。
青いクリスタルの目が光って、頭がゆっくりと動いた。手を前に出して、カルロさんの指示に従って拳を握り、開いた。
「……動いてる」
カルロさんが小さい声で言った。
「動いてます。ちゃんと動いてる」
「やったぁ!」
あたしは思わず手を叩いた。カルロさんもつられて笑った。いつもよりずっと柔らかい笑顔だった。
『まあまあ、面白いものだな』
アルディラが静かに言った。
「アルディラが他人を褒めるなんて珍しいじゃん」
『俺は三百年生きてるんだ。いろんなものを見てきた。魔力で動く人形も初めてじゃない。でも、あれはちゃんと目的があって作られてる。ネズミに苦しむ村人を助けるためだろ。そういう道具は、悪くない』
カルロさんには聞こえない言葉だったけど、あたしはそのまま彼に伝える。「伝説の魔剣にそう言ってもらえるとは思わなかったな」と彼は嬉しそうな顔をした。
何日かして、カルロさんから「大学の審査で優秀な評価をもらえた」という報告が届いた。
一緒に宿まで来てくれたカルロさんは、普段の落ち着いた様子と少し違って、うっすら興奮しているのがわかった。
「農村での実地テストも認められて、来年度から正式に研究費がもらえることになりました」
「やったじゃないですか!!」
あたしは本当に嬉しくなって、声が大きくなった。自分のことみたいに、誇らしい。
「アプリさんが手伝ってくれたおかげです。本当に」
「カルロさんが十二回も作り直したからですよ」
「でも、あの深層バライトストーンがなければ完成しなかったですから」
「じゃあ、お互いさまだね」
ふたりで少し笑った。
その夜、あたしたちは次の街へ旅立つ準備をした。
翌朝には出発する。カルロさんにそれを伝えると、彼は少し残念そうな顔をした。
「そうですか。……気をつけて行ってください。アプリさんは強いから大丈夫だと思うけど」
「強くないです、あたしなんてまだまだ」
「いや、強いです。鉱山でのあの動き、普通のFランクの冒険者じゃできませんよ」
あたしは少し黙ってから、言った。
「カルロさんも、立派な魔導博士になってください」
「なります。絶対に」
「約束ですよ。また絶対来るから。そしたらまた一緒に冒険しよっ」
カルロは少し驚いたような顔をした。それから、柔らかく笑った。
「はい。約束しましょう」
握手をした。カルロさんの手は、何度も火傷をしたり、硬い金属を握りしめたりしてきた証拠に、ゴツゴツとして硬かった。勉強ばかりしている学生の手じゃない、それは、立派な「職人の手」だった。
宿に戻る道を、あたしはひとりで歩いた。
ボローネンの夜は、ポルティコのランタンがアーチを照らしていた。石畳に灯の影が重なって、遠くから歌声が聞こえてきた。
胸のあたりが、なんとなく、ふわっとした。
なんだろう、これ。
もちろんお別れは寂しい。でもそれだけじゃない。楽しかった余韻。でもそうじゃない。もっとなんか、ちょっと変な感じだった。
「うーん。何か変な気分がする」あたしは小さく呟いた。「さっき食べたボローネン・ソーセージが胃もたれしてるのかな」
『……鈍感だな、お前』
アルディラが珍しく、一言だけ言った。
「鈍感って、何よ」
『お子様にはわからんか』
「だから、何なのよ」
アルディラはそれ以上答えなかった。宝玉がゆらゆらと、おだやかに光っていた。




