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畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅲ 混沌の地
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54. 割るか、割らないか

 スカーレッタを倒した後、数日間の旅を経て、レオン一行は夜遅くに、バイアフへと到着した。


 翌朝、彼らは〈火の鳥の心臓〉の相場を調べるために、バイアフの宝石店街を訪れた。


 最初に訪れた宝石店の店主は、一行が差し出した〈火の鳥の心臓〉を見るなり、目を見開いた。

「大きさも輝きも、実に素晴らしいですね。これほどのものなら、キベレ大金貨200枚以上にはなるでしょう。」


「もし割って共鳴したら、値段はどのくらいになりますの?」

 ユニスが目を輝かせて尋ねると、店主はごくりと唾を飲み込んで答えた。


「共鳴すれば、最低でもキベレ大金貨2000枚以上ですね。あくまで〈最低〉というだけで、場合によっては値がつけられないほどの価値になります。〈恋人の心臓〉は市場にほとんど出回りませんから。」


「どうしてですか? そんなに貴重ですか?」

 マックスボーンが尋ねると、店主は言った。


「貴重なのもありますが、他の宝石とは違い、〈恋人の心臓〉は一度持ち主が決まると、家宝として代々受け継がれるか、あるいは持ち主と共に墓まで持っていかれることが多いのです。

 共鳴した瞬間、愛する人との最も美しい思い出や、その時の感情が鮮やかに蘇ると言われています。それだけ持ち主にとって格別な意味を持つんですよ。」


 今度はアルが尋ねた。

「じゃあ、共鳴しなかった場合は?」


「その場合は、キベレ大金貨20枚ほどでしょう。」

 店主の答えを聞き、マックスボーンは悩ましげに顎をさすった。

「本当に、とんでもない価格差だな。」


 その後、一行はさらに五軒の宝石店を回って相場を調べた。

 大まかに言って、割らずに売る場合は、キベレ大金貨200〜250枚、割って共鳴すれば最低でも2000〜2800枚以上、割って共鳴しなければ20〜30枚程度の値がつくと分かった。



 宿へ戻る道すがら、どうするか話し合ったものの、意見は以前と同じく真っ二つに分かれた。レオン、ユニス、フローラは〈割ってみよう〉派で、アル、マックスボーン、キアンは〈割らずに売ろう〉派だった。


 彼らは馬小屋へ向かい、疾風に意見を求めた。

「その時言ってた通り、ゲームで決めるのはどうだ?」

 自分で結論を出す負担を背負いたくない疾風は、ゲームを提案した。


 ユニスが真っ先に賛成した。

「ゲーム?楽しそう! 何をやる?」


「うーん、ダーツみたいなのはどうかな?点数が書かれた円形の的を壁に掛けて、短い矢を手で投げて点数を競うゲームなんだけど。」


 疾風の説明が終わる前に、アルとマックスボーン、キアンがユニスを指さて、同時に叫んだ。

「ダメだ!」


「じゃあ、あみだくじは?」

「それって何?」

 アルが尋ねた。


 疾風は言葉で説明するのが難しいと感じ、マックスボーンに羊皮紙を広げさせ、書き方を教えた。疾風の隣でしゃがんでいるマックスボーンが一生懸命線を引いていると、レオンが疾風の耳元で囁いた。

「これもダメそうだ。あいつらの目を見ろ。」


 疾風がちらっと視線を上げると、アル、フローラ、ユニスの目が素早く線を追いかけているのが見えた。パターンを読んでいるのは明らかだった。


(まったく、頭の回転が速い連中だな。)

 疾風は短くため息をつくと、羊皮紙を片付けさせ、3つ目の案を出した。


「サイコロ勝負はどう? サイコロを2つ振って、大きい数字を出したほうが勝ち、っていうルールで。」


「いいね! じゃあ、全員が振るのか、代表を決めるのか、どこでやるのか、ルールを決めよう。」

 アルが腕をまくり、やる気満々になった。


 疾風は話が長くなりそうな予感がして、マックスボーンが桶に入れてくれた穀物をもぐもぐ食べながら言った。

「それを決めるだけでも、結構時間がかかりそうだな。じっくり決めて、決まったら教えてくれ。」

 こうして一行は昼食を兼ねて宿の食堂へ向かった。


 フローラが食前の祈りを終えるのを待ち、食事をしながら話し合いが始まった。

 全員がサイコロを振るのではなく、それぞれの陣営から代表を一人ずつ決めることでまずは合意した。次に決めるべきは、その代表を誰にするか、だった。


 ユニスが言った。

「魔法使いはダメ。魔法でズルをするかもしれないし。」

 もっともな意見だったので、アルとフローラは除外された。


 次にアルが言った。

「妖精族もダメだ。トリックを使うのが得意だからな。」


「エルフをバカにしてるの?」

 ユニスがムッとしたが、アルは一歩も引かなかった。

「面白いことなら、水も火も選ばず飛び込むじゃないか。」


 これももっともな意見だったので、ユニスも除外され、残るメンバーはレオン、キアン、マックスボーンの3人になった。


 マックスボーンが手を挙げた。

「お2人の騎士が勝負されるのはいかがでしょうか? 私は後ろで応援する方が性に合っていますので。」


 こうして、サイコロを振るのはレオンとキアンに決まった。次に問題になったのは、いつ、どこで勝負をするか、だった。


 その時、不意に聞き慣れない声が彼らの会話に割って入った。

「失礼します。あなた方が〈火の鳥の心臓〉を手に入れた方々ですね?」


 見知らぬ男が一行のテーブルに近づいてきた。レオンたちが視線を向けると、男は続けた。

「キベレ大金貨250枚で、私が買い取らせていただきたいのですが。」

 いくつかの宝石店を回ったことで、噂が広まったのは間違いなかった。


 レオンが答えた。

「まだどうするか、決まっていません。」


「割る可能性もあるということですか?」

 男が驚いた様子で尋ねた。


「ええ。とにかく今は取引に応じることができませんので、ご理解ください。」

「いつ頃、結論が出るのでしょうか?」


「すぐには決められません。意見が真っ二つに分かれているので。」

 男は残念そうな顔をして引き下がると、別のテーブルに座り、食事を注文した。


 食堂にいる人々が、レオンたちをちらちら見ながらひそひそ話し始めた。


 その時、一人の女性が食堂に入ってきて、周囲を見渡すと、レオンとユニスを見つけて近づいてきた。

「もしかして、〈火の鳥のの心臓〉を。」


 彼女の言葉が終わる前に、さっきの男が代わりに答えた。

「まだ分けるかどうか、決まっていないそうですよ。」

 女性はその言葉を聞くと、残念そうな表情で去っていった。


 アルがレオンに言った。

「これじゃあ、ここで話し合うのも難しくなるな。」


 レオンも同意した。

「だな。具体的にどうするかは、部屋に戻ってから話した方が良さそうだ。」

 一行は気まずい沈黙の中、食事を終えた。


 食事が終わる頃、宿の主人がそっと近づいてきて尋ねた。

「すみません、先ほど、ちらっと聞こえてしまったのですが、もしかして勝負で決めようとお考えですか?」


「そのつもりですが。」

 レオンが答えると、主人は興奮した様子で提案した。

「でしたら、私がここに場を設けましょう。こういうことは、むしろ公の場で人たちの前でやってしまう方が、後々問題になりません。そうでないと、かえって仲間内にしこりが残るかもしれませんよ。」


 レオンが仲間の顔を見渡すと、ユニスがすかさず言った。

「面白そうね!私は賛成!」


 続いてフローラも言った。

「宿の主人の言う通りかもしれません。見ている人がいたほうが安全な場合もあります。」


「そうでしょう?」

 主人も同意した。

「先延ばしにせず、明日の午前中にやってはどうでしょう?鉄は熱いうちに打てと言いますし、引き延ばしても結果は変わりませんよ。」


 特に反対する者もいなかったため、一行は宿の主人の提案を受け入れ、翌朝に勝負をすることに決めた。


 *** ****


 翌朝の朝食は、宿の主人の息子と娘が直接部屋まで運んできた。

「食堂は今片付けている最中なので。」


 朝食を済ませて食堂へ降りた一行は、思いがけない光景に驚いた。

 食堂のテーブルや椅子はすべて片側に寄せられ、広々とした空間が作られており、一方の壁にはすでに多くの人々が押し寄せていた。


 〈火の鳥の心臓〉の噂が広まったことで、これを見物しに来た人々だった。

 出入り口の正面には大きなテーブルが二つ置かれ、一方には青い旗、もう一方には赤い旗が乗せられていた。


「思ったより大事になったな。」

 アルは呆然とその光景を見回したあと、染料を取り出して中央へ進み、床に魔法陣を描き始めた。不正が起きないように対魔法陣を描き、その中でサイコロを振る予定だった。


 レオンとマックスボーンは、事前に主人の許可を得て、馬小屋から疾風を連れてきた。


 疾風が仲間たちの後ろに立つと、赤と青の入り混じった華やかな衣装をまとった男が人々の前に進み、大声で叫んだ。

「さあ、間もなく勝負が始まります! まだ賭けていない方は急いでください! 火の鳥の心臓を割るなら赤い旗、割らないなら青い旗です!」


 人々はざわめき、思い思いに金を賭け、賭けた額に応じて色分けされた印と交換していた。


(何だこれ? 完全に賭場じゃないか?)

 疾風は呆れつつも、生まれ変わる前も後も一度も見たことのない光景に、妙な興奮を覚えた。


 その間に対魔法陣が完成した。フローラが魔法陣に異常がないかを確認して下がると、次はサイコロと、それを入れて振る大きなカップが盆に載せられて運ばれてきた。


 アルとフローラがそれぞれの代表として、サイコロとカップに細工がないかを慎重に調べた。


 サイコロを振る役目を担ったレオンとキアンは、不正がないことを示すために、上着を脱ぐことを求められた。2人の若き騎士が上着を脱ぐと、鍛え抜かれた引き締まりつつもしなやかな筋肉質の身体が露わになった。


 それを見た女性たちから歓声が上がった。

「キャー!かっこいい!」

「目の保養になるわ!」


 熱狂的な歓声の中、顔を赤らめ、視線のやり場に困った顔で立っているレオンとキアンを、マックスボーンとユニスが交差チェックした。


 勝負のルールは、それぞれ2つのサイコロを振り、その合計値が大きい方が勝つというものだった。これを3回行い、2勝した方が勝者となる。


 コインを投げて順番を決め、最初のゲームはレオンが先に振り、2回目はキアンが先に振ることになった。そして3回目は、2回目の勝者が先攻となる仕組みだった。


 レオンが、カップに2つのサイコロを入れ、抗魔法陣の中央に立つと、その場にいる全員が息をのんで見守った。人々の熱い視線を感じつつ、レオンは何度もカップを振り、勢いよくひっくり返した。


 カップを持ち上げると、緊張した視線が一点に集まった。結果は〈4と5〉だった。


 続いてキアンが前に出てサイコロを振った。結果は〈2と6〉。

 〈割る〉方に賭けた人々が歓声を上げた。


 ユニスはパチパチと拍手をしながらレオンに声をかけた。

「よくやったわ! このまま勝って決めちゃえ!」


 次は、キアンの番だった。結果は〈3と5〉。続いてレオンが振った結果は、〈1と3〉だった。

 今度は〈割らない〉方に賭けた人々のほうから歓声が上がった。


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