53. アルの黒歴史
不死鳥の心臓についての議論が一段落すると、マックスボーンが疾風に近づき、真剣な顔で尋ねた。
「そういえばさっき、スカーレッタと戦ってる時、また『ガッチャマン』って叫んでたよな? やっぱり、疾風も前世はガッチャマンだったんだろ?」
「は?」
「前に、ガッチャマンは白いマントを羽織った戦士だって言ってたじゃん。だからお前も、あのガッチャマン。」
疾風は慌ててマックスボーンの言葉を遮った。
「違う違う、全然そんなのじゃない! ピッチリしたコスチュームとか、そういうの僕の趣味じゃないし。ただ、なんか、聞いたことある歌だっただけで。」
実際は、テレビのバラエティ番組かYouTubeかで聞いたことがあるだけで、特に好きでも詳しくもなかったのだが、二度も熱唱してしまった手前、そう言うしかなかった。
疾風が必死に〈ガッチャマン説〉を否定していると、ユニスが通りすがりにひと言、言った。
「ガッチャマンたちが、その歌を歌いながら戦場を駆け抜けていたんじゃないかしら。」
「ええっ?」
あまりのことに、疾風がユニスを見つめると、マックスボーンはすでに一人で納得していた。
「やっぱり。」
「違うってば!」
疾風の必死の否定にもまったくお構いなしに、マックスボーンは疾風に向かって親指をピッと立てた。
「ガッチャマン!」
「おい、マックスボーン?」
背を向けて歩き出したマックスボーンの襟首を掴みたかったが、手ではなく前足では無理だった。かといって体当たりするわけにもいかず、疾風はその場でじたばたと足踏みするしかなかった。
*** ***
一行は井戸の近くに野営地を作った。
アルは適当に手足の汚れを落とし、新しいローブを取り出して羽織った。
「くそっ、下着姿で走り回ってたせいで寒い。風邪ひきそうだ。」
アルは鼻をすすり、ぶつぶつ文句を言った。そんな彼をじっと見つめていたレオンが、くすくすと笑い出した。
「なんだよ?」
アルがムッとした表情で聞くと、レオンはアルの頭を指さした。
「その頭、どうしたんだよ?」
アルの髪は、火の鳥の攻撃を受けた際に、熱をまともに浴びたせいか、爆発したようにボサボサに膨れ上がり、ひどくチリチリになっていた。
ようやく彼の髪に気づいたフローラとキアンも、笑いをこらえきれなかった。
フローラが声を上げて笑った。
「アル、どうしたら、そんな髪型になりますの? 私たちだけで見るのはもったいないですわね。」
すると、ユニスが得意げな笑みを浮かべて、黒い瞳が埋め込まれた片目鳥の目を取り出した。
「そんなこともあろうかと、ここにちゃんと収めておいたわ。」
「何なの、それ?」
フローラが興味を示すと、ユニスは魔石を手に握りながら呪文を唱えた。
「汝の記憶を、我に示せ。」
魔石の瞳が赤く光り、光線を放ち、立体映像のようなものが浮かび上がった。
袖なしのシャツに破れた半ズボン姿のアルが、爆発したような髪のまま魔法を詠唱していた。視線は遥か遠くの空に向けられ、足を大きく開いて両腕をゆらゆらと動かしつつ、魔法を発動する姿だった。とても真剣な場面だったが―アルの格好がすべてを台無しにしていた。
「ブハッ!」
マックスボーンが思わず吹き出し、爆笑した。
レオンとキアン、疾風もこみ上げる笑いをこらえきれず、フローラは手を叩きながら大笑いした。
「っ!!」
アルは目を見開いてユニスを睨みつけた。
「なんだ、これ! こっちは命がけで大魔法を準備してたのに、こんなの撮ってたのか!?」
「こんな名場面をそのまま流すなんて、もったいないでしょ?」
ユニスはまったく悪びれる様子もなく、澄ました顔で答えた。
「今すぐよこせ!!」
アルはひどく怒って、ユニスに飛びかかった。
ユニスはケラケラ笑いながら、魔石を手に持ったまま軽々とかわした。
「そんなに怒らないでよ。私、これから落ち込んだり悲しいことがあったら、これを見て、失った笑顔を取り戻すつもりだから♪」
「うるさい! 誰を道化扱いしてんだ!? 俺にも守るべき社会的地位と威厳ってものがあるんだぞ!」
アルは大声を張り上げ、ユニスを追いかけた。
ユニスは捕まりそうで捕まらない、絶妙な距離を保ちつつ、アルの手をすり抜け、楽しそうに笑いながらからかった。
「捕まえてごら〜ん!」
「こ、こら!そこ止まれ!」
レオンや疾風たちは、アプロヘアの魔法使いが喉が裂けんばかりに叫びながら草原を全力で駆け、エルフの少女を追い回すという珍妙な光景を見て、腹を抱えて大笑いした。




