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畜生脱出〜後は異世界冒険  作者: 星を数える
Ⅲ 混沌の地
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52. 火の鳥の心臓

 スカーレッタの最期を確認した後、レオン、キアン、マックスボーンはその場にへたり込み、荒い息を吐きながらしばらく動けなかった。アルに至っては、大の字に倒れ込んでいた。

 フローラはレオンたちに近づき、火傷薬を塗り、回復魔法で治療を施した。


「うぅ、のど、渇いて死にそう。水ない?」

 ようやく体を起こしたアルが、四つん這いのままフラフラとフローラの方へ這い寄り、虚ろな目で尋ねた。


 フローラは首を横に振った。

「ありません。飲み水を2つ残しておきましたけど、結局全部使ってしまいました。」


「水がない?」

 レオンが乾ききった唇を舌で濡らして聞いた。


「ありません。」

「一滴も?」

 アルが哀れっぽく尋ねたが、返答は同じだった。

「本当に、もうないです。」


「でも、めちゃくちゃ喉が渇いた。今、俺、喉の渇きで死にそうなんだけど。」

 力なくつぶやくアルに、フローラが言った。

「こういう時の応急処置なら、一応ありますよ。」


「何?」

「ご自分の尿を飲むことです。」

 その瞬間、アルは今にも吐きそうな顔になり、口を押さえた。


 そんな様子を見て、マックスボーンが気まずそうに口を開いた。

「それが嫌なら、馬の尿や血を飲む方法もありますよ。」


 アルは顔を引きつらせた。

「それって結局同じじゃないですか!? 何が違うんです?」


 冗談ではないらしく、マックスボーンはいかにも真面目だった。

「馬の尿の方が、量がずっと多いですね。匂いは強烈ですが。」


「うっ!」

 アルが本気で吐きそうになると、フローラがアイテム袋から見覚えのある道具を取り出した。

「それなら、井戸を掘るしかないですね。」


 スコップとツルハシを見つめる男たちの表情が歪んだ。そんなことはお構いなしにフローラは立ち上がり、周辺を見渡すと、一か所を指さした。

「ここを掘ってみてください。」


「喉が渇いて死にそうなのに、いつ掘ってる暇があるんだよ?」

 アルが文句を言ったが、フローラは仕方ないと言わんばかりの表情だった。

「水がないので、仕方ありません。井戸を掘るのが嫌でしたら、ご自分の尿か馬の尿でも飲むしかありません。」


 結局、〈尿を飲むか、井戸を掘るか〉という選択を迫られた男たちは、渋々立ち上がり、スコップを引きずりながらフローラが示した地点へと向かった。


 その間、フローラとユニスは当たりに燃え広がらないように残った火を消し、スカーレッタの死骸を処理する作業をしていた。


「水を使い切ったのは、一体誰だ?」

 滅多に不満を口にしないレオンが、アルとマックスボーンを見つめて、恨みがましい声で尋ねた。


「俺じゃないぞ。魔法で攻撃する役割だったからな。水袋を投げたのはマックスボーンだ。」

 アルがマックスボーンを指さすと、マックスボーンは納得がいかない様子で反論した。


「水を早く投げろって、息をつく暇もないくらい急かしたのは、ピートランド卿ですよ! 最後の時なんて、本当に死にそうな勢いで叫んでたじゃないですか! そんな余裕なんてありませんでした!」


「責任の押し付け合いをしても、状況は変わりませんよ。さっさと井戸を掘りましょう。」

 地面に突き刺したスコップを片手で支えながら、キアンが冷静に言い放った。その一言に、3人は暗い顔で地面を見つめた。


「はぁ、もう喉が渇いて限界だ。さっさと掘るぞ。」

 アルが勢いよくスコップを振り下ろし、掘り始めた。


 しばらく無言で黙々と掘り続けた結果、約2メートルほど掘ったところで、水が湧き出てきた。

「水だぁー!!」

 器で汲み取る余裕もなく、男たちはそれぞれ水の湧き出る穴に口をつけ、夢中で喉を潤した。


*** ***


 井戸水で喉の渇きを潤し、ようやく落ち着いた男たちは、井戸のそばに座って一息ついていた。

 そこへ、フローラとユニスがやってきた。ユニスは両手を後ろに隠しながら、満面の笑みを浮かべていた。


「フローラと私が、何を見つけたと思う?」

 ユニスが問いかけた。まさかと思って、彼女を見ると、ユニスは背中に隠していた手を前に差し出した。


「じゃじゃーん!〈恋人の心臓〉よ!」

 ユニスの手には、赤子の拳ほどの大きさの赤く輝く魔石があった。鮮やかな深紅に煌めくそれは、まるで小さな心臓のようにも見えた。


「うわっ!」

 アルがバネのように跳ね上がり、それを覗き込んだ。


「まじかよ! こんなに大きいのが出たのか?」

 レオン、キアン、そしてマックスボーンも立ち上がり、近くに寄ってきた。


 フローラが言った。

「厳密に言えば、まだ〈恋人の心臓〉ではありません。割ったときに共鳴して初めて〈恋人の心臓〉と呼ばれるので、今の時点では〈炎の鳥の心臓〉と呼ぶのが正しいですね。」


「まあ、確かにな。」

 アルが納得した。


「今すぐ割ってみようか?」

 ユニスが興奮気味に提案すると、アルは真剣な表情で反対した。

「何言ってんだ。割って共鳴しなかったら、価値がガタ落ちするんだぞ。割らずに売るのが正解だ。」


「そのまま売るですって? 割らずに? ありえない! こんなロマンチックな体験をお金に変えちゃうの?」

 ユニスは納得できない様子だった。


「ただの運任せの賭けにするより、確実に価値を保証するほうが百倍マシだろ。どんだけ苦労して手に入れたと思ってんだ。」

「ただの賭けと一緒にしないでよ!」

 2人の議論は平行線をたどった。


 疾風とマックスボーンは、この状況を理解できず、交互にアルとユニスを見ていて、疾風がフローラに説明を求めた。


「スカーレッタから採れる魔石自体は〈炎の鳥の心臓〉と呼ばれるの。これを半分に割って、互いに共鳴すれば〈恋人の心臓〉と呼ばれるのよ。」

「共鳴するって、具体的にどういうこと?」


「私も話でしか聞いたことがないわ。共鳴する〈恋人の心臓〉は、2つを近づけると、魔石の中から赤い光を放って、不思議な音を奏でるらしいの。水晶の破片がぶつかるような音とも、澄んだ鐘の音とも言われているわ。

 そして、それを分かち合った恋人同士は、お互いの心の中に最も美しい瞬間を思い起こさせるのだとか。」


「おお〜、聞いてた通りロマンチックだな。」

 疾風が頷くと、ユニスが言った。

「そうでしょう? 〈恋人の心臓〉を自分の手で確かめられる絶好の機会なのに、アルはそのまま売ろうとしてるのよ!」


「割るのと、そのまま売るのって、何がそんなに違うの?」

 疾風の疑問に、アルが答えた。


「割って共鳴すれば〈恋人の心臓〉になるけど、共鳴しなかったら、ただの〈炎の鳥の心臓〉を砕いたものに過ぎない。実際、共鳴しない場合のほうが、圧倒的に多いんだ。

 だから、割られていない〈炎の鳥の心臓〉のほうが、割った状態の〈炎の鳥の心臓〉よりも10倍近い値段で取引されるんだよ。」


「つまり、割られていないものを買う人は、それで自分の運を試してみるわけだね?」

「そんなところだな。」


「まったく、難しい魔石だね。」

 疾風は高価な宝くじ、あるいは賭博のようだと思い、ユニスの手にある赤い魔石を興味深そうに見つめた。



 一行はそこから、火の鳥の心臓をどうするかについて、熱い議論を交わした。


 アルは『割らずにそのまま売るべきだ』という意見で、マックスボーンも『ギャンブルは良くない』として賛成した。一方、ユニスは『絶対に割ってみるべきだ』と主張し、レオンもユニスに賛成だった。

 残るはキアンとフローラだった。アルはキアンに尋ねた。

「キアン、お前はどっちだ?」


 キアンは落ち着いた口調で答えた。

「スカーレッタで魔石が見つかったこと自体、すでに十分な幸運だと思います。自分の人生でそんな幸運が重なるとは思えません。そのまま売るのが賢明でしょう。」

 アルは、ユニスに見せつけるように拳を力強く握った。


 今度はユニスがフローラに尋ねた。

「フローラ、あなたの考えは?」


 フローラはじっと火の鳥の心臓を見つめつつ言った。

「共鳴しないかもしれないけど、する可能性もあるでしょ? 一度どうなるか見てみたいわ。」

 今度はユニスが、アルに向かって親指を立て、勝利のポーズを決めた。


 意見は3対3で完全に割れたため、一行は疾風に意見を求めた。

「疾風、お前が決めろ。それに従う。」

 アルは燃え上がるような目で疾風をじっと見つめた。一方で、ユニスも、今にも目からレーザーを放ちそうな勢いで疾風を睨んでいた。


 疾風はあまりにもプレッシャーを感じた。正直な気持ちを言えば、火の鳥の心臓を割って、どうなるのか見てみたかった。


 しかし、アルやマックスボーン、キアンの意見ももっともであり、ただ売る場合と、割って共鳴しなかった場合の価格差が約10倍もあると聞けば、堅実な生活を送るアルやマックスボーンにはあまりに大きな損失になりそうで、『割ろう』とは言い出せなかった。


 ふと、レオンの両親の時はどうだったのか気になった疾風は、レオンに尋ねた。

「レオンが持っている〈恋人の心臓〉は、ご両親がここを冒険していた時に、手に入れたって言ってたよな? その時はどう決めたんだ?」


「当時の一行は5人だったんだけど、その時は3対2で『そのまま売る』が多数派だったみたいだ。父さんは『割ってみよう』派だったんだけど、売ることに決まった後、どうしても諦めきれなくて、持っているお金を全部はたいて、自分で買い取って、キベレで割ってみたらしいよ。」


「お母さんも『割ろう』派だったの?」

 ユニスが尋ねると、レオンは首を振った。

「母さんは『そのまま売ろう』派だったってさ。」


「面白いね。売ろうと思っていたのに、結果的に〈恋人の心臓〉の持ち主になったなんて。それもまたロマンティックだわ。」

 ユニスは両手を組み合わせ、夢見る少女のような表情を浮かべた。


 アルはそんなユニスの雰囲気には構わず尋ねた。

「で、結局どうするんだ? その時みたいに、お前が買って割ってみるか?」


 レオンは曖昧な反応を見せた。

「父さんはその時、母さんのことを想って買ったけど、俺は今、特に渡す相手もいないし、買うのは、ちょっとな。」


 再び皆の視線が疾風に集中した。

 両陣営の顔色をうかがっていた疾風は、保留することを提案した。


「ここで即決しないで、次の安全都市に着いたら相場を調べて、もう一度話し合うのはどう? その間に気が変わるかもしれないし。 もしその時も意見が割れたら、ゲームでもして決めるってことで。」


 幸い、両陣営とも疾風の提案を受け入れ、最終決定は安全都市バイアフで下すことになった。

「じゃあ、到着するまでの間、これをしまっておく箱を作らなきゃね。」

 ユニスは火の鳥の心臓を小さな革の袋に大事そうにしまった。


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