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閑話休題17〜結婚式とは(アーティ)

 結婚のお祝いにと海王が現れた。


 海王は悪びれた様子もなく「前のお詫びと浄化のお礼と、結婚のお祝いだよ」と海の幸や真珠といった数々の物をどっさりとプレゼントしてくれた。


 お祝いを海王から受けるのは建国以来初めてのことで、その場に居合わせた王族は勿論、従者たちも見入って動けなくなっている。


 皇太子妃となる聖女ミアは、第三皇子殿下のみならず、海の王にまでも気に入られていると噂になるには十分だった。



 見たことのない海産物たちに目を輝かせて「明日のお誕生日の晩餐と結婚パーティの料理にお願いしてみるわ」と言うミアの手を取り、海王は優しくほほ笑んだ。


「本当は、僕のお嫁さんになって欲しかったんだけどね」


 そう言う海王からさっとアーティがミアを引き離した。

 そして、アーティはミアを後から抱きしめて少しずつ後退している。


 その横から前へ出て、チョークがきれいにお辞儀をして薄ら笑いで応えた。


「御冗談を。私たちの婚約者ですからね」



 そんな皇太子たちを、海王は愉快そうに笑って眺めている。


「もし、家出したくなって、スフィルにも帰れない時は、海においで。好きなだけ居て良いからね」


 海王はそう優しく言うと、ミアの手にキスをして、アーティとチョークに不敵な笑みを送り、消えていった。






 バージンロードのど真ん中で、3人が立ち止まって動かないので、会場はざわつき始めている。



「パパ、諦め悪いな。早くミアを渡してくれよ。あ、お父さんって呼んだ方が良いのか?」



 結婚式は王城の庭園で行われている。

 一帯に結界が張られ温度調節をされているため、涼しいそこは快適なのだけれど……


 屋外のため、アーティの声が響くことなく参列者たちは何を話しているかは聞き取れない。


 何となく予想がつく親族たちは、苦笑しながら、とりあえずは見守っているところだ。



「お父様。結婚しても、私は私。また移転魔法で会いたい時に会えるわ」


「月に1回帰省するんだぞ。第三皇子殿下にお願いしないとな」


「ダメだろ」


「片道なら、私の魔力で足りるらしいわ」


「「ダメだ」」


 息の合った2人に驚いて、ミアは目が点になった。


「日帰りできないだろ」


「だから第三皇子殿下に頼んだら良い。今日は参列されていらっしゃらないな」


「断固拒否してたぞ、どっかでいじけてんだろ。パパ、何でそんなにジュゼを推すんだ」


「妻の推しだからな」


 アーティはひどく仰天した顔になった。


「ママの?! いやいや、てか今、俺たちの結婚式なんだけど。何でさっきからジュゼの話してんの」


 スフィル辺境伯はミアを取られるのが悔しくて、アーティに少し意地悪をしてしまったのだけれど、そんな子どもみたいなことは言えず黙ってしまった。


 残念なことに、スフィル辺境伯夫人の推しが今もジュゼであることは事実だ。

 例の本も読んでしまったのだが、推し愛が更に深まったとか。



「……お父様! アーティも」


 美人が本気で怒ったら寒気がするくらい美しくなるのかと、ミアを見たアーティはゾッとした。


 それはそれは美しいミアが、視点を合わせていない目を地面に向けて薄ら笑いしている。


「2人とも、私のきっと人生でたった1度の結婚式を大切にしてくれていないのかしら」



ドォォン



 ミアの片手に、スフィル辺境伯夫人の銃のような物が見える。

 それよりも可愛くない音がしたけれど。



「お母様に嫁入り道具としていただいたの。私、魔力多いみたいだから、良いのではないかって。常に身に付けて、もしも困ったことがあったら、容赦なく撃ちなさいって」



 アーティは恐る恐る、ミアに手を差し出した。


「ごめん……ミア、どうか俺の手を取って下さい」


 まだ恐ろしく美しい顔のままのミアは、アーティから視線をそらした。


 アーティはどんどん真っ青になっていき、涙目になっている。


 王城のバルコニーで、チョークが腹を抱えて爆笑しているのにも気付かず。



「私、海に行こうかしら」


「ごめんっっ!!!!」


 勢いよく額を地面に付けて、アーティが土下座した。


!!!!!!


 先程からのこともそうだが、極めつけに国の皇太子が土下座しているのを見て、参列者たちの目は落ちそうなくらい大きくなっている。



「立って下さい。みっともないです」


 アーティがしょんぼり立ち上がると、ミアに抱きついた。


「……私、式を楽しみにしていたの。着飾るのもきちんと受け入れて、すごくすごく楽しみにしていたのにっ」


 そう、今日のミアはとっても奇麗で、アーティもチョークも大声で宣伝して回りたいのを我慢するのが大変だったのだ。


 ミアは我慢していた涙をポロッと落してしまった。


 それを本当に申し訳なさそうに、そっと優しく拭くアーティ。



「ごめん。俺も楽しみにしてたんだ。あの祭壇創らせるくらい」


 アーティの指はバージンロードの先をさしているのだが、幾何学的な美しさを惜しみなく取り入れながらも豪華になりすぎていない、ミアの好みど真ん中の祭壇が建っている。



「……ふふっ」


 ミアはアーティの土のついた額に触れて、優しく土を落とし、アーティをホッとさせた次の瞬間。


「でも、次は無いわ」


 何よりも恐ろしいくらい美しい顔をして目を合わせてきたミアの言葉に、アーティは首を小刻みに縦に振って応えるしかできなかった。



「お父様も」


 いつになく冷たい眼差しでミアが見てくるので、スフィル辺境伯もしょんぼりうなずくしかない。


 ミアはため息のような深呼吸をして、父親へ向けて、この上ない美しいカーテシーをした。



 親族席では、カイが「姉上すげぇ」と目を輝かせていて、その隣りでスフィル辺境伯夫人が頬に手を当ててため息をついている。

 そこへ今にも泣き出しそうな悔しさを持て余したスフィル辺境伯が戻ってきた。

 スフィル辺境伯家はどこへ居ても通常運転だ。



 祭壇に2人で上がり、本当に嬉しそうな笑顔のアーティを見て、ミアは肩の力が抜けてしまい気を許してしまう。

 アーティの無邪気な笑顔が、ミアは好きなのだ。



 誓いのキスの後、アーティは「これで名実ともに俺の奥さんだ」と言い、この上なく嬉しそうにミアを抱きかかえて、ミアの頬にキスをした。


 ミアは一瞬目を丸くしたけれど、嬉しくてたまらないのが溢れ出ているアーティを見て、ふわりと笑ってアーティの頬にキスを返した。


 予定外のことをアーティが次から次へとするものだから、王族たちは死んだ目をしているけれど。


 壇上のミアとアーティは、この上なく幸せそうだ。




 聖女ミアの正体は、都市伝説として噂になっていた "特別美しくも恐ろしい程に強いエスカー国のスフィル辺境伯令嬢" だった。

 それが国民という国民へ知れ渡るまでに、時間はかからなかった。


 ミアの知らない所で数多くの女性ファンが生まれたことを、本人は知る由もない。



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