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33…最終話

「結婚式は俺だな」


「結婚パーティは僕ね」


 ハルノを筆頭に侍女たちに準備をしてもらいながら、ミアは少し離れたソファに座っているアーティとチョークと打合わせをしている。

 ミアは、少し緊張気味にうなずいた。


「分かったわ、名前はリカルドだからリックと呼ぶのよね」



 ミアは先日の浄化等の活躍でアルカル国で立派に聖女として認識され、皇太子妃として十分な地位を得た。

 アルカル国では誰にも反対されることなく、晴れて結婚ということになったのだ。


 スフィル辺境伯領では反対意見が多かったようだけれど、アーティとチョークの頑張りとミアのお願いに泣く泣く了承したようだ。



「それ、ミアだけの呼び方だよ。父も母も兄たちも、リカルド呼びだからね」


 チョークは愛おしそうにミアを見ている。


「他の奴が呼んだら、闇魔法で2度と呼べないようにしてやるからな」


 悪そうな顔をして足を組んだアーティが、ミアに笑った。


「不穏だわ」



 ほぼ準備が終わり、ミアは立ち上がった。

 侍女たちがドレスの細かい所を見ている。


 ミアの美しさに釘付けになったアーティとチョークが、ゆっくりミアの目の前にやって来た。


「僕たちは半分だけやれば良いけど、ミアは全部しないといけないよ」


 チョークが少し心配そうにミアを見ている。


「大丈夫よ。任せて」


 ミアはにっこり笑って、チョークの頬にキスをした。



「地味には生きていけないな」


 アーティも笑いながらも心配そうに、ミアの髪飾りを指で弾いた。


「装飾は控えめにしてもらえると嬉しいけど。良いの、幸せだから。どうせなら、しっかりやってやるわ」


 またミアはにっこり笑って、アーティの頬にキスをした。


「頑張るから、見ていてね」


「いつも」


「いつまでも」



 ミアは最高に幸せそうに笑った。





 さて、イベント事は何とか無事終わり、今日は初夜という日になるのだけれど、ミアはどちらが来るのか知らないままだった。


 さっきのパーティが終わって寝室まで送ってもらった時、「決まった方が来るから」と去り際にチョークに言われただけだった。


 きっと、じゃんけんか何かで決めているのだろうと考えて、ミアはふふっと笑ってしまう。


「何で決めたか聞いてみようかしら」


 そんな事を呟きながらも、どんどん緊張してしまうミア。

 さっきからそわそわして寝台と扉を行ったり来たりして、時々姿見でいつもと違う自分の姿を見ては驚いて、ソファに座ってみたり、とにかく落ち着けない。



「どっどっ、どうしよう」



 こんなに緊張するものかしら。

 ここに来るどちらかも、こんなに緊張しながら来るのかしら。

 ああぁぁぁあぁあ、どんな顔すれば良いの?!



 アルカル国まで一緒に付いて来てくれた専属侍女のハルノと、王城の皇太子妃専属侍女たちが、さっきまでミアを素敵にするために頑張ってくれたのだ。


 ミアはそれもむずがゆくて恥ずかしくて、余計に緊張させられている気がする。


 化粧はしてないけれど、髪が巻かれ、いつもと違う寝衣で、ミアが自分で見てももう別人にしか見えない。


「捧げ物みたいなのよね」


 独り言が終わらないミアは、そわそわしすぎて少し心臓あたりが疲れ始めたので、寝台に座ってみた。


「でもやっぱり緊張するわ」


 ミアが手で自分の顔を覆った時、扉を開ける音がした。


コンコン

カチャ……


 足音が聞こえるような、鼓動しか聞こえないような、ミアはパニックだ。


 ミアはゆっくり顔から手を離して、前を向いた。


「え??」


 ミアの目の前にアーティとチョークが立っている。


 アーティとチョークはミアと目が合うと、瞬きもせず固まった。


「……すごく奇麗」


「どこまでも奇麗になれるんだな」


「あ、ありがとう」


 ミアは2人が来ているので、どうしたのだろうかと不思議そうにしている。


 そんなミアに気付いて、アーティとチョークがミアの左右にひざまずく。

 アーティが申し訳なさそうにミアの手を取った。


「ごめん、ミア。どっちも譲れなかった……でもほめてくれ。平和的解決をしたんだからな」


 チョークもミアの手を取って、ミアを見た。


「そうそう、殴り合いでもしようかってなったんだけど……傷になったら、明日の朝、ミアのせいになっちゃうからね」



 確かに、皇太子妃が初夜に皇太子を殴るなんて前代未聞だろう。

 聖女がバイオレンスだなんてイメージが悪いにも程がある。



「ふふっ、お気遣い、ありがとう……」


 ミアは頑張って考えた。

 2人で来たということは、小さい頃のように3人揃って川の字で寝るということだろうか、と。

 それはそれで、なかなか幸せそうだ。


「どうぞ」


 ミアは寝台に上がり、アーティとチョークが子猫だった頃によくしていたように、両手でトントンと布団を軽く叩いた。



 アーティとチョークの顔が一瞬でスンッと無表情になった。


「なあ、絶対分かってないだろ」


 3人で寝ようと布団に入ろうとしたミアの左腕をアーティが捕まえた。


「分かってないよね」


 チョークもミアの右腕を取って、深いため息をついた。


「……え?」



「今日は記念すべき初夜だろ」


「そうだよ、そのまま寝るわけないよ」


「えっ、でも、ほら、ふっ2人とも、来てる、から」


 両腕を握られているミアが、危険を感じてジリジリと寝台の上を後退して逃げようとしている。

 しかし、それでも寝台の上だ。

 ひざまずいていたアーティとチョークも立ち上がった。


「大丈夫だろ」


「3人でもできるんだよ」



「なっな、何言ってるの?! でっで、できないわよ。私聞いたことないわ。1番常識的なチョークが何を言ってるの?!」



 ミアは声が裏返り、最後は叫び声のような声を上げる。


「ミア、それは間接的に俺をディスってないか」


 そう言うと、アーティは自分の手をミアの腕から手に優しく移動させて、ミアの手にキスをした。


「っ!!」


 ミアの反応に満足そうにアーティは優しく笑った。


 チョークにも右手を取られ手にキスをされると、ミアは恥ずかしくて涙目になっていく。


 そんなミアの反応は、今のアーティとチョークにとっては挑発にしか受け取れない。



「待って……お願いだから」




「「持てない」」




 ミアのお願いは聞いてもらえなかった。









 長い長い夜が過ぎ、空が白み始めた頃、ミアがやっと声を出すことができた。


「空が、明るいでしょ。もう、動けないから、お願い……終わりにして」


 何とかミアから出せた、次のお願いだった。



「「もう1回だけ」」





 1回どころじゃなかったわ。





 ミアのお願いはことごとく聞かれることなく時は過ぎた。




 もう声も出せない状態でミアが開放されたのは、お昼過ぎという名の夕方だった。


 ご機嫌なアーティとチョークが部屋から出ていく時に、ミアは「もう、本当に2人で来てはダメ。スフィルに帰るわよ」と枯れた声で念をおした。




 その日の夜はさすがに誰も来ないだろうと、ゆっくり寝ようとしていたミア。


 アーティが来た時は驚愕して、ミアが全力で部屋から押し出そうとしたら「ちゃんと1人で来ただろ! 今日は何もしない」と言われて部屋に入れてしまった。

 小声でアーティが「たぶん」と言うのをミアが聞き逃してしまって。

 入れてしまったのだ。




 人の話は最後まできちんと聞かないとダメだと思い知ったわ。






 そして何度か2人で訪ねてしまう夜が、来るとか来ないとか。







 2人の皇帝が1人の聖女だけを生涯かけて愛する物語は、これからが本番。







完。



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