閑話休題10〜踏み出す一歩を
「あ、ミアだ」
アーティとチョークがいつものバルコニーで、お決まりの定位置で休憩していると、チョークが庭園でベンチに座っているミアを発見した。
「1人か? 珍しいな。嬉しそうだけど」
そう言いながらアーティが座ったまま身を乗り出してのぞくので、チョークはアーティが落ちないように彼の背中の服をつかんでいる。
皇太子即位式とパーティの翌日で、ちょうどミアがどんなに美しかったかとか、ミアとのダンスが楽しかったとか、ダンスの時のミアがどうだったとか、そんな話をしていたところだった。
「先に踊りやがって」
アーティもチョークも、視線をミアから離さず話している。
「俺が踊ってなかったら、チョークだって踊れてなかっただろ」
昨日からその言い合いばかりだ。
そんな双子に見られているとは露知らず、ミアは空にビターを見つけて、周りを見回して人がいないのを確認してから指笛を吹いた。
「ビター、良い子ね」
ミアが嬉しそうに笑いながら片手を上げている。
大きなタカが飛んできて、ゆっくりと腕に止まった。
ビターが少し太い枝をくわえて持って来ていたので、それをミアが投げてビターが取ってくる。
何度もミアは楽しそうに繰り返し、ずっと笑顔だ。
ああ、大好きだ。
「可愛いな。それに奇麗だ、絵になる」
ミアと話がしたいけど、恐くてまだ勇気が出ないアーティとチョーク。
「うん、何よりもミアが奇麗だ」
楽しかったダンスを、今はまだ楽しい記憶のままにしておきたくて。
今すぐにでも、そばに行って抱きつきたいけど、でもやっぱり恐くて、ここから見ているだけが精一杯だ。
5ヶ月離れていただけで、こんなに緊張するものなのかと自分たちでも驚いてしまった。
思い出の中のミアよりも少し大人びたミアは、更に可愛くて、やっぱり美しくて、声も好みで、アーティもチョークも上手く言葉が出なかったのだ。
ため息混じりにチョークが真剣な顔をした。
「次出会った時は、話をしないとね」
腹をくくらなければ、ミアに逃げられてしまう。
「ああ。スフィルに帰られてしまったら、もうチャンスが無くなるな」
ミアに伝わるだろうか。
アーティとチョークの想いを、そのまま。
2人を選んでくれなんていう願いを、聞いてもらえるだろうか。
ミアにどう反応されるのか恐くてたまらないのだ。
「「げっっ」」
庭園でも、ビターを腕に乗せたままミアもしまったという動きをしている。
ビターは一目散に空へと飛び立った。
気まずそうなミアの前にカイとジュゼが出てきて、ミアは2人に囲まれてしまう。
カイはミアと手をつなぎ、ジュゼはミアの背中に手を回して歩き始めた。
3人の様子が慣れた感じに見えて、アーティとチョークは蚊帳の外に置かれているような寂しさを感じてしまった。
5ヶ月前まで、あの中にいたのに。
するとその時、ジュゼが後ろを振り返り、アーティとチョークの方に向いて薄っすら笑ってきた。
「あいつ、気付いてるな」
「ジュゼ、手強いよね」
アーティとチョークにとってのジュゼは、今まで1度も敵わなかった最大のライバルで、鬼門中の鬼門なのだ。
アーティからどす黒い物が出始めていたので、チョークが背中を叩いて止めさせようとしたら、手すりに座っているアーティはそのまま落ちそうになってしまった。
「うぉおっ。昨日からマジで何なんだよ!」
「今のは、わざとじゃないって」
そんなやりとりをしているうちに、ミアは見えなくなってしまった。
「ミアをもっと見ていたかったのに」
とにかく悔しそうなチョークが、アーティをじとっと見ている。
「それはこっちの台詞だろ」
もうミアのいない庭園をチョークはまだ見続けていて、アーティはミアが放したビターを見ている。
ビターは気持ち良さそうに、空を泳いでいるように飛んでいる。
「またジュゼに連れて行かれたね」
「それな」
アーティは空を仰ぎながらため息をついた。
以前スフィル家に滞在していた時、目の前でジュゼとミアのキスを見せられて、2人とも悔しくて悔しくて、その日は初めて眠れない夜を過ごした。
その時はアーティとチョークはまだ幼く、ミアとお似合いの年格好のジュゼを見ると余計に悔しくて、胸が苦しくて、辛かったのだ。
その時から、いやそれより前から、アーティとチョークはずっとずっとミアだけを想ってきた。
年格好が釣り合うようにはなれたけれど、ミアと話をしなければと思うと、恐くて緊張してしまう。
「次、出会ったら、どんな場所でも状況でも」
「逃さずに話をしよう」
3人での未来を見たいから。




