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閑話休題9〜争奪(カイは見た)

「はあぁぁああ?! 何だって? お前もっかい言ってみろ。何勝手なことしてんだよ!!」


 カイは驚いて振り返った。


 いつもはアーティが言いそうなセリフを、どこかしらの部屋からチョークが言っているのが聞こえてきたのだ。


 皇太子の即位式パーティが開かれているので城内は浮足立っているのに。



 今しがたアーティとダンスをし終わったミアをジュゼに任せて、カイは手洗いに行って戻る途中だった。


 数人のご令嬢に一緒に会場まで行こうと絡まれたけれど、エスカー語で「姉上の方が奇麗だな」とか「エスカー語話せよ」とか好き勝手なことを言ってまいてきた。



 すると、突然チョークの怒鳴り声が聞こえてきたので、カイは少しだけその部屋をのぞいてみることにしたのだ。

 カイは今は好奇心旺盛な14才だ。



「抜け駆けだろ! ふざけんなよ!!」


 チョークが面と向かってアーティの髪をつかんですごんでいる。


「だから、ごめんって」


 何かアーティの謝り方、軽いな。


「ごめんで済んだら、裁判なんてしねーんだよ!」


 確かに。って、うわっ、チョークがアーティを足蹴にしてら。

 さっきから珍しくチョークが口も足も悪いな。



「ふざけんなクソが! 俺も踊ってくる。チェンジしろ、服脱げ、お前この部屋にいろ」


 あー、アーティが姉上と踊ってたからか。双子で取り合ってんのか。


「え、俺まだミア見た」


「脱げよっ」



 やべぇ、猫ん時みたいに、もみくちゃになってら。

 懐かしいなぁ、喧嘩も可愛かったんだよな。

 何か、人だと引くぐらい可愛くないな。

 うぉっ、まじでチョーク容赦ねぇな。 


 ……俺は姉上のとこに戻ろっ。



 アーティとチョークの喧騒を見なかったことにして、カイは歩き始めた。



 カイはミアが人気なのは当たり前だと思っている。

 今まで蹴散らしていたのは、自分が認められない小物ばかりだったからだ。


 ジュゼも、アーティもチョークも、それなりに申し分無いとは思っている。

 ミアが3人から誰かを選ぶとは限らないけれど。

 それにジュゼは最近おとなしい気がするのだ。


 何にせよ、カイは自分より他の人がミアと距離が近いのは許せない。


 そして、やっぱり大好きな姉が誰かのものになるのは寂しい。


 昔は結婚できないことが本気で悲しかった時期があったけれど。

 恋愛なんかのいつ切れるか分からない不安定な繋がりよりも、姉弟のように確実に切れない繋がりの方が今は良いと思っている。



「ははっ、アーティ謝んの軽かったな。俺の立場まで奪おうとするけど、容赦しなくても怒らないし怯まないんだよな。チョーク怒ったらまじで強いな。あー変な奴ら。また猫になんねぇかな」


 カイは独り言をつぶやいて、足早にミアのもとへ向かった。



 アルカル国に向かう馬車の中で、成人したらもう猫にはならないという残念な報告を、カイはジュゼから聞いた。


 カイは子猫のアーティとチョークを弟のように本当に本当に可愛いと思っていたのだ。


 今も密かに家族だと思っているのだけれど、変に喜ばれると嫌なので決して口にはしない。




「もう一度、よろしいですか」


 息を切らせたチョークが気まずそうに格好をつけてやってくるのを、カイは笑いを堪えながら黙って見ていた。

 よく見ると髪も服も少し乱れているのだから、尚更笑いが込み上げてくる。

 口を開けたら確実に爆笑してしまうから、何もしないのが1番だと、カイは奥歯を噛んで我慢した。


 ジュゼが「双子でむしり合いでもしたの」と突っ込んだ時なんて、カイは思いっきり吹き出しそうになったのを必死に息を止めて我慢していたのだ。

 先ほどその可愛くない悲惨な現場を見て来てしまったのだから。


 あんなに荒れていたチョークがサラッと話しているのも、突っ込みたいのにできないし。


 もう踊るならさっさと行ってくれと思いながら、カイは視線を外し時が経つのを待った。


 でもやっぱり、ミアが誰かと楽しそうに踊るのは気に入らないカイ。

 終始不機嫌そうに2人のダンスを見据えていた。




 ダンスの後にチョークに何かを耳元で言われて、ミアはその場で固まってしまっている。

 カイは戻って来ないミアを迎えに行って、手を引いた。


 ミアは声を出せず、手をつないだカイにしがみついてきたので、何かあったことだけは分かったけれど。

 手が少し震えているし。



 いつも姉上がおかしくなるのは、あの双子絡みなんだよなぁ。



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