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32…会いたいから

「……何だか、すごくギャラリーがいるんだけど」


 馬車の窓からのぞいているミアは、青ざめている。


 砂浜海岸は長く、端なんて見えない。

 その砂浜の見える範囲どころではない、きっと端から端まで人だらけだろうと気が遠くなるくらい人がいる。


 ミアは今までこんなに人を見たことがない。



「うん、いた方がお披露目になるよね」


「な、何の」


「ああ、僕とミアの?」


 ミアは開いた口が塞がらない。


 さっきからジュゼは何を言っているの。



「聖属性の浄化のお披露目だよ。変な意味は無いから大丈夫、安心して」





「それなら、直接浄化をしようよ」


 会議中に、珍しくジュゼが発言をした。


「数ヶ月に1回、行事にしてしまえば良いでしょ。僕の魔力量だけでもミアの魔力量だけでも足りないから、2人でするよ」



 数ヶ月に1回ミアと2人で海に行きたいだけだろ。お前の魔力量だけで足りそうなことは知ってるぞ。


 ルカは言葉を飲み込んだ。



「それに、ミアに箔が付くでしょ。聖女にすれば、皇太子妃として国民は受け入れるから、アルカルに堂々といられるし」



 ミアをスフィルに帰らせず、そのままアルカル国にいさせようと思ってるんだろ。お前が離れたくないだけだ。


 ルカはやっぱり言葉を飲み込んだ。



「浄化を教えるためのミアとの時間が欲しいな」



 あー、はいはい。



 会議出席者は王族だけでなく、有識者や為政者もおり、ジュゼがこんなに長文を話す姿を初めて見る者たちばかりだ。


 皆、目が丸くなって、何か信じられないことが起こったという顔をしている。

 皆視線はまっすぐだが、何人かは自分の頬をつねっているし、何人かは何かに祈っている。



 あっちの方で双子の皇太子が、超絶不機嫌な目つきでこっちを見ている。

 その視線は僕にではなく、ジュゼに向けるべきだ。



 ルカは静かに目を閉じた。





「そんなに派手にしなかったんだけど」


 ジュゼが気にしていそうな顔で、ミアを見てきた。


「え、ええ。祭壇はすごくシンプルで好みの感じなの。ただ、ギャラリーが」


 ジュゼも一緒に窓から外をのぞいてみた。


 確かに多過ぎるとかいう数ではないことを理解して、ジュゼが気まずそうにミアに視線をやった。


「ごめん、聖属性って珍しいのに2人も来るし、僕が表に出るのも珍しいから。こんなに来ちゃったのかも」


 申し訳なさそうな今日も美しいジュゼを見て、ミアはとっても納得した。



「そうね、ジュゼは今日も奇麗で素敵だもの」



 少し困り顔で笑いながら、ミアはジュゼに振り返ると、驚き顔のジュゼと目が合った。


 ミアからの初めての言葉に、ジュゼは目を丸くして止まってしまったのだ。



 何度も何度もミアが思ってきたことだったけれど、実は言葉にして出したのは初めてだったのだ。


 自分で見て確認しなくても分かるくらい、ジュゼは自分の顔が赤くなっていくのが分かった。


 すぐにジュゼはミアの肩を持って窓の方に向かせ、そのまま自分の方に向かないようにしている。


「ごめん、あっち向いてて。ほ、ほら、カイも来てるし、空に、ビターも飛んでる、はず」


 早く、早く、平常心に。


 ミアに素敵と言われただけで、こんなに動揺するなんて、ジュゼは自分に驚いているようだ。



 平常心って何だっけ。


 ああ、もうダメだ。


 同じ空間にいない方が良いかもしれない、けど。



 馬車の窓のカーテンを閉めて、ジュゼはミアにしっかりキスをして、馬車から降りて扉を閉めてしまった。


 えぇぇえ?!

 あの美人は何をしてるの!!


 驚きすぎたミアは固まってしまい、予定としてはジュゼと同時に馬車を出るはずなのに閉められてしまったし、ミアは出だしから何が何やらの状態だ。




「ジュゼが1人で出る手順なのか?」


 カイが隣りに座っているチョークに話し掛けている。


 ジュゼって、姉上と一緒だと何かしらやらかしそうなんだよなぁ。



「違ったはずだよ。同時に出るんだけど」


 チョークはジュゼから視線を離さず答えた。




 ジュゼは周りに一礼して挨拶をした後、従者に馬車の扉を開けさせた。

 そして、馬車の中で停止中のミアに、申し訳無さそうに小声で話し掛けた。


「ミア、ごめん。僕の手を取ってくれる? 行こう」


 ミアはそっとジュゼの手を取って、馬車から降りてきた。


 ジュゼの衣装と合わせているのだが、ミアの衣装はいかにも聖女らしいシックで美しいデザインだ。

 それを見事に着こなすミアが馬車から出てきたので、にぎやかだった会場は一瞬で静まり返った。



 ミアの、馬車を降りる足音しか聞こえない。



 着飾ったミアは、この状況をポジティブになんて受け取らない。


「ジュゼにエスコートされて出てきた聖女が自分なんかで期待外れで、皆あ然としてるんだわ、とか思ってんぞ、絶対。可愛いよな」


 あきれたような、慈しみのような、ため息をついてカイが話しているのを、隣りにいるチョークが苦笑いしながら聞いている。



 そんなことだろうとジュゼも苦笑いしながらエスコートしている。

 ミアの両足が砂浜に降り立った時、ジュゼがミアの頬にキスをした。

 角度的には口にしているように見えなくもないそれは、そこにいる人という人を驚かせるには十分だった。


 一部から悲鳴のような歓声が上がり、一部はどよめいている。



「どういうご関係なの?!」

「お似合いで素敵!」

「あれが聖女様ね」

「第三皇子殿下に引けを取らない美しさね」




「これで人の反応は気にならなくなったでしょ」


 笑顔で言うジュゼ。


 やはりジュゼは常識という概念を持ち合わせていないらしいことを、ミアは改めて教えられた。


 カイとチョークの座っている貴賓席とアーティの乗っている馬車の方を、ミアは恐ろしくてしばらく向けなくなったけれども。



 色々ありすぎて、もう白目をむきそうなミアだけれど、なんとか踏ん張っている。

 聖女が白目をむいたなんて、きっと死んだ後も語り継がれるに違いないから……

 そんな不名誉、ミア自身も嫌だし、家族に申し訳なさすぎる、と。



 しかし、何もかも気にならなくはなったのは確かだったので、ミアはジュゼにお礼を言ってしまった。

 もうミアは何が正解か分からなくなっているようだ。


 ジュゼとミアは手をつないだ状態で、波打ち際に用意してある祭壇へ進んだ。


「8割くらいで出してみて。僕が合わせるから」



 ジュゼの言葉にミアはうなずいて、両手を海へ向けて浄化をし始めた。


 ジュゼは勿論、関係者も目を大きくしてミアを見ている。想像以上の魔力量だったのだ。


 ミアの魔力量はジュゼの半分はありそうで、それはアルカル国でも五本の指に入るかもしれない。


 視線をミアから海に移して、ジュゼも片手を出して、ミアと同量の魔力量で浄化を始めた。





 何だかドキドキするなぁ。


 今回の浄化が国民に好評なら、様子を見ながら続けていくことになっている。


 浄化が終わり、祭壇からジュゼが視線をやったのは、馬車に乗って出てこれないため怒りの形相で様子を見ているアーティと、貴賓席で目が据わっているチョークだ。

 馬車から黒いモヤが見えなくもない。


 ジュゼは満足そうに笑った。



「申し訳ないけど、大好評だね」



 そうか、数ヶ月に1回でも、2人でミアと確実に会えるのが、僕は嬉しいんだ。

 うん、そのためなら、何だってするよ。



 また手をつなぐようなエスコートでジュゼとミアが馬車の前へ移動すると、ジュゼは大勢の国民たちの方を向いて、少し手を上げて少し笑顔になった。


 その隣りでミアは美しいカーテシーをする。


 またジュゼがミアの頬にキスをすると……



 大歓声が上がったのは言うまでもない。




 帰城する馬車に乗り込み、ジュゼはミアと一緒に窓から手を振って去っていく。



 聖女ミアのお披露目は大成功に終わった。





 聖女ミアと皇太子殿下リカルドの婚約が後に発表されるのだが。

 その際に、第三皇子殿下ジュゼと聖女ミアとの悲恋や略奪の書籍が数多く売り出され、大ヒットする。


 アーティとチョークは荒れに荒れ、その様子を楽しそうに見るジュゼ、遠い目をしているルカ。

 その情報から遠ざけられているミア。



 それはもう少し後のお話。



次話から閑話休題を数話投稿して、最終話になります。

あと少し、よろしくお願いします。

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