閑話休題1〜ルカが普通だよ
「アーティ、チョーク、探してくれてたの?」
スフィル辺境伯邸のロビーに子猫の鳴き声が聞こえると従者が言うので、ミアが来たところだ。
ミアを探しに部屋を出たは良いが、迷子になってしまったらしい子猫たちは、ロビーの大きな置時計の裏に隠れて鳴いていた。
『ナァー』
『ミャー』
ミアの姿を確認すると、トタトタ走って現れた。
「ありがとう、大好きよ」
ミアは家族になって1ヶ月目の双子の子猫を抱き上げてキスをした。
「姉上、俺も」
ゆっくり近付いてくるカイを見て、ミアはくすくす笑いながらカイの頬にもキスをした。
ミアとアーティとチョークをひとまとめに、カイは大きく手を開いて抱きついた。
「今日はくっついとくからな。姉上もうどこにも行くなよ」
タウンハウスから帰ってきて1ヶ月経つのに、カイはまだこの有り様だ。
「ちょっと離れてただけじゃない」
コロコロ笑いながら、ミアは食堂へ歩き始めた。それにカイは付いて行く。
「3ヶ月はちょっとじゃねぇ!!」
カイは悲しそうに抗議した。
「これじゃあ私は安心してお嫁にいけないわね、アーティ、チョーク」
ミアはため息をついてアーティとチョークに頬擦りした。
「はぁぁ?! そんな不吉なこと言うな! そんな予定ないだろ?! 俺より強くないと前みたいにボコボコにするって決めてんだからな」
「あの方は大丈夫だったのかしら。確実に骨はいってたわよね。カイより強いなんて、きっとお父様以外にいないわよ」
ミアは諦めたように答えて、アーティとチョークに顔を埋めてもふもふを楽しんでいる。
「よし、姉上は誰の嫁にもなれねぇな! 俺と一緒にずっとここに住めば良い」
カイは上機嫌で食堂の扉を開けて、ミアを先に通した。
「カイのお嫁さんは小姑との同居なんて許してくれるかしら?」
上機嫌だったカイの顔がげんなりに変わってしまった。
「……嫁なんていらない。姉上は小姑じゃない」
カイはふてくされながらも、椅子を引いてミアを座らせる。
「何回も言ってるけど、私はカイのお嫁さんにはなれないわよ? アーティとチョークは私とずっと一緒にいてくれるわよね」
アーティとチョークはニャーニャー嬉しそうに合唱しながらミアに頬擦りしている。
カイはアーティとチョークをミアからそっと受け取り、椅子にドカッと座って片足あぐらをしたら、その上に子猫たちを乗せた。
「わかってる!! 言ってたのは子どもの頃の話だろ」
◇
「ね、普段はカイは可愛いんですよ」
カイが現れて、スフィル辺境伯からの手紙を読み、スフィル辺境伯家に興味を持ったジュゼが「仲良しだね」と聞くと、ミアが嬉しそうに話しているのだ。
「時々、私をデートに誘って下さった貴族の御子息と一悶着しちゃったり、釣書を下さった方が夜会に来られた時にもちょっと……」
それはちょっとどころではなさそうだとルカは思ったが、もう突込みを諦めて聞き役に徹している。
「あ、それ以来釣書が少なくなったと父が言ってましたけど、私の婚約が無いのはそのせいかしら」
確実にそうだろ。
思わず脳内で突っ込んだルカは、何が何でもカイにだけは標的にされたくないと心から思った。
ミアがにこにこ楽しそうに話しているのも相まって、ルカはかなりドン引きしている。
それと、本当にちゃんと姉弟なんだろうかと懐疑的だ。
ジュゼは奇麗な顔で平気そうに聞いている。
カイはすまし顔でミアの隣に足を組んで座っている。
反応が三者三様で、ルカは自分の反応がおかしいのか、どの反応が正しいのか分からなくなった。
後日、マルコに話したところ「何なんだ弟。羨ましいな」と返ってくるし、双子たちからは「「ミアは僕たちのお嫁さんだから」」と返ってきて……
もう、ますます分からなくなったルカだった。




