65.葉挿し!
翌朝、ボクは一人で冒険者ギルドに向かった。
ジノンは、旅の疲れが出たのか、まだ一人で寝ていた。
フェロモン魔法抵抗性とHP抵抗性を持っているから、ジノンは基本的に勃たない。
なので、少なくとも、
『どこぞの女性を連れ込んで、オールナイトしたから起きてこない……』
なんてことは、無いはずだ。
勿論、自家発電で疲れて寝ているってことも無いと思う。
ボクは、フェロモン魔法強度を下げる代償として、自家発電が日課だけど……。
「おはようございます」
「おはよう。ルカさん、ギルド長からお話があるそうですので、ここでちょっと待っていてもらえますか?」
こうボクに告げたのは受付嬢のエリカ。
リマは、昨夜遅くまでいたようで、まだギルドには顔を出していなかった。
「分かりました」
「では、ギルド長を呼んできます」
エリカが、一旦、奥に引っ込んだ。
彼女が戻ってくるまで、ボクは、掲示板を眺めることにした。
昨日見た時には、ロクな仕事が無いって思ったけど、新しい仕事が来ていないかなって淡い期待があったんだ。
そんな期待は、数秒で脆くも崩れ去ったけどね。
「アンデッドのダンジョンを知っちゃったら、こんなの割に合わないよ。それ以前に、物質創製魔法を使えば金貨数十枚を出すこともできるし」
大型魔獣の討伐で大金貨五枚なんて依頼があったけど、ボクの場合は、アンデッドダンジョンに行けば、同じだけのお金をもっと楽に稼ぐことが可能だ。
ボクの廃棄物(聖水)をかけるだけで、ドロップアイテムとしてアンデッド一体当たり大金貨一枚に早変わり。
数時間で大金貨数十枚が容易に稼げる。
Sランク冒険者として命令が下ったら、やらなきゃイケないけど、そうなるまでは放置しておこう。
今のところは、他の冒険者達に任せることにする。
少しして、エリカに連れられてギルド長が来た。
大体、何を言われるのかは予想が付いているけど。
どうせ、クリペアタのことだ。
「ルカ。昨夜、リマから聞いたが、しょい籠一杯分のクリペアタを持って来たって?」
「ええ、まあ……」
ビンゴ!
しかし、万が一、他にも依頼があったら、そっちの方が面倒だ。
今は、クリペアタのことだけにしてくれ!
「あと、クリペアタを葉挿しとか言う方法で大量に増やせるって聞いたけど、それは本当か?」
「本当です。勿論、植物体として成長するだけの時間は必要ですけど」
「そこは、成長魔法を使える者がいれば何とかなる。実は、クリペアタの栽培は回復ギルドの方でもチャレンジしたことはあるらしいんだが、花が咲いても種が出来ないらしくてな」
「そうでしょうね」
これは、クリペアタが三倍体のためだ。
種無しバナナとか種無しスイカと一緒で、種子が作れない身体にされた植物だと思ってくれ。
「知っていたのか?」
「ええ、まあ」
果物の場合は、種なしだと食べやすくて喜ばれるだろう。
しかし、植物を増やすと言う意味では、種子が作られないのは困る話だ。
人間の場合も同じだ。
種無しだと子宝に恵まれないから嬉しいことでは無い。
でも、妊娠回避のためには、そっちの方が有難いかも?
「そうか。結局、回復ギルドの方では、クリペアタを結実させる方法が見つからなかったって話だった。しかも、ポーション作成には葉も茎も根も全部使う」
そう、植物体全部を使うことが問題なんだ。
例えば、ポーション作成の際に、葉しか使わないのであれば、根は採取しないで済む。
根が残っていれば、新たに地上部が生えて来るだろう。
ところが、中級以上のポーションを作成する際、クリペアタは葉だけではなく、茎も根も使われる。
なので、当然だけど、根が付いた状態で採取される。
「そのようですね。ただ、種子が出来ない植物を根ごと乱獲したら、絶滅するに決まってますよね?」
「ああ。ルカの言う通りだ。だから、ルカも自生地を明かしたくないんだろう」
「ま……まあ、そうですね」
自生地を言えないのは、これをボクは物質創製魔法で出しているからなんだけど……。
しかし、都合が良い方向に誤解してくれたから、そう言うことにしておこう。
「それで、葉挿しってのは、どうやるんだ?」
「では、実際にやってみましょう。先ず、用意するのは、鉢と土と水ですが」
「鉢なら、一応、用意してある」
「じゃあ、実際にやってみましょう」
「ああ、頼む。それじゃ、コッチに来てくれないか? エリカも一緒に」
ボクとエリカは、ギルドの裏に連れて行かれた。
ただ、用意されていた鉢の数は十個だけ。
しょい籠一杯分のクリペアタを葉挿しするには、全然足りないので、後で必要数を改めて用意してもらうことになるけど……。
取り敢えずボクは、アイテムボックスからクリペアタを一株だけ取り出し、十鉢分の葉挿しを実演した。
勿論、やることと言えば、鉢に湿った土を入れて適当な大きさに切った葉を挿すだけ。
余りにも簡単なことなので、ギルド長もエリカも目が点になっていた。
「こんなんで増えるのか?」
「植物にもよりますけど、クリペアタは可能です。もし、ギルド内に成長魔法を使える人がいれば、成長魔法をかけてもらえば、すぐに証明できます」
「たしかに。じゃあ、エリカ、頼めるか?」
「はい」
今、初めて知ったけど、エリカは成長魔法が使えるのか……。
だから、ボクと一緒に連れて来られたってことだ。
エリカが葉挿しした鉢に手をかざして十秒くらいすると、挿した葉から新芽が出て来た。
さらに二十秒くらいすると、新芽は結構な大きさに成長した。
勿論、根も出ているはず!
これで十分、移植可能と思う。
「エリカさん。そろそろ大丈夫だと思います」
「あっ、はい」
ボクは、成長した葉挿し苗を、一つ鉢から抜いてみた。
クリペアタは、葉挿しで結構簡単に増える植物の様で、その苗には、しっかりと根が付いていた。
『取説君:ルカ‐0721号は、抜くのが大変得意です』
抜くの意味が違うと思うんだけど……。
それはさて置き、これを見て、ギルド長もエリカも驚いていた。
葉を挿すだけで増やせると言われていても、やはり、実際に見せられると、それはそれで驚異の出来事なんだろう。
この世界では、葉挿しとか挿し木とかの概念が無かったみたいだからね。
「信じられん。本当に、これで増やせるとは……」
「これを、畑に移植してください」
「おお、そうだな」
「あと、クリペアタは、しょい籠一杯分あります」
「リマから、そう聞いている。それらも、今すぐ全てギルドの方で買い取る。ただ、後払いにして欲しいが」
「分かってます。では、コチラを」
ボクは、アイテムボックスに収納したクリペアタを、しょい籠ごと全部出した。
その量を見て、再びギルド長達は驚いていたよ。
言葉で聞いていても、実際に見ると圧巻だからね。
一先ず、ボクは、これで今日はギルドを後にした。
ただ、ジノンは宿で寝ているし、イイ依頼も無いし、今日はホウテイ市内の劇場に足を運んだ。
演劇をやっていたんだ。
劇の題目は、
『ヅラシック・パーク』
だった。
これを目にした時、
『どんなパクリもんだよ!』
と思ったけど、ちょっと興味が湧いた。
それで、衝動的に見てみた。
ただ、内容は、ヅラを被った男性が不倫をする話で、巨大生物が出て来るとかは、一切無かった。
不倫が家族にバレて家族を失い、かなりの額の慰謝料を支払うことになる。
また、不倫相手にヅラなのがバレて、不倫相手も去って行く。
結局、その男性は全てを失うって話だったけど……。
予想していたのとは全然違っていたよ!
ある意味、ヅラを被った男性にとってはロストワールドなのかも知れないけどさ……。
❖ ❖ ❖
それから二週間が過ぎた。
ギルドでは、成長魔法が使えるスタッフが総出でクリペアタの繁殖を行ない、かなりの量のクリペアタを確保したらしい。
また、葉挿しで増えることは、ホウテイ市ギルドで行なった検証結果も含めてギルド本部にも報告された。
これを受け、今後は、クリペアタを各地で大量に栽培することになったとのこと。
これで、中級以上のポーションの価格は、一気に下がるだろう。
少なくとも、ボクのオシッ〇ポーションを使う必要は、基本的に無くなると思う。
それでも、最上級ポーションだけは、作るのに特殊な技術が必要らしく、価格が下がったとは言っても、一般の人達には手が出ない価格だけどね。
しかし、供給できないわけじゃないから、ボクのウ〇コエリクサーも必要とされることだけは、多分無くなるだろう。
と言うか、無くなってくれ!




