49.抱擁!
ボクは、ギロリン伯爵、ネーゲル、それから使用人達を縛る縄を順に解いて行った。
しかし、ネーゲルと使用人達は、その場で警備隊員達に改めて縛り直された。
勿論、亀甲縛りじゃなくて、普通にこの世界で罪人を捕える縛り方だ。
「ルカと言ったな」
「はい。何でしょうか、伯爵様?」
「何故、息子達に儂がお前を斬ったと言わなかった? 何故、未遂だったと言った?」
「だって、無傷ですよ。だったら未遂でしょう?」
「いや。あの時、たしかに儂の剣は、お前の身体を真横に真っ二つに切り裂いた。なのに、何故生きている? それと、ネーゲルや使用人達も、お前をギロチンにかけて首を刎ねたと言っている。それなのに何故?」
「きっと、全員、夢を見ていたんです。そう言うことにしておいてください。ただ、このお屋敷って、何時頃建てられたんですか?」
「この屋敷も地位も、全て親から受け継いだものでな。儂にも分からん」
「そうでしたか。では、ボクはこれで失礼します。大変お辛い立場だとは思いますが、後は、よろしくお願い致します」
ここから先は、ボクの領分ではない。
ギロリン伯爵と警備隊員達の仕事だ。
ボクは、ギロリン伯爵や警備兵達に会釈すると、転移魔法でオロイジン市の冒険者ギルドへと戻った。
一方のギロリン伯爵は、ボクに深々と頭を下げていたけど……。
そして、瞬時にギルドに到着。
ここで先ず、ボクは、この場で縛り上げた冒険者達の縄を解いた。
しばらく縛られっぱなしになっていて、少しは薬になっただろう。
「おい、ねーちゃん。お前、何者だ?」
「別に、普通のSランク冒険者だけど?」
「はぁっ? Sランクが普通のわけあるか! それに、一瞬で全員変な風に縛りやがって。全然見えなかったぞ!」
「まあ、夢でも見てたんでしょ。それより、もうボクの邪魔をしないで」
一応、ボクは、そう言いながら連中を睨みつけたんだけど……。
でも、全然、迫力の欠片も無いんだろうなぁ。
それでも、こっちがSランクってことで、今後は、ここの連中もボクにムダに話しかけてはこないとは思うけど……。
ボクは、その足でカウンターへと向かった。
そこには、ギルド長のナーミンの姿があった。
取り敢えず、コイツにお願いしておこう。
「ナーミンさん」
「はい?」
「今回の吸血魔女捕獲に関する報酬の件ですが、これは、後日改めてになると思います。その時には、お手数ですがご連絡ください」
「分かっております」
「それと、ギルド間通信ってありますよね? 済みませんが、それでボクの無事をアサスズメ王国ホウテイ市ギルドの方に連絡したいのですけど」
「ええと、通信は副ギルド長以上でないと使えないルールでして……」
「でしたら、済みませんが、ナーミンさんの方から無事を知らせてもらえますか? あと、今日は遅いので、コッチで宿をとることも併せて」
「承知しました」
「では、よろしくお願いします」
ボクは、ナーミンに会釈すると、そのままギルドを後にした。
別に、転移魔法でさっさと帰っても良かったんだけど、元々、この世界を色々見て回りたいって思っていたからね。
それで、今夜はオロイジンの宿に泊まることにしたんだ。
冒険者用の宿は、ギルドのすぐ近くで見つけた。
ボクは、ソッコーで、その宿に入った。
受付には、少々キツい目をした若い女性の姿があった。
この世界って、何故か男性の受付って少ないんだよなぁ。
「済みません。一泊したいんですけど」
「男連れ込んで一発とかは勘弁してくださいよ。」
「しませんって」
「ただ、今日は一番高い部屋しか空いてなくてですね。夕食はもう遅いので付けられませんが、朝食は?」
「無しで」
「では、一泊、小金貨一枚になりますが」
つまり、素泊まりで十万Genだ。
余程イイ部屋なんだろう。
本当に、この受付嬢の言う通りなら。
受付嬢は、ボクを受け入れたくなかったんだろう。
でも、生憎、ボクには支払うお金が十分にある。
と言うことで、ボクは、冒険者カードを提示しながら、惜しげも無くポンと小金貨一枚を受付に置いた。
「じゃあ、一泊で。ただ、その金額に見合った部屋なんですよね?」
冒険者カードを見て焦る受付嬢。
彼女は、急に手元の書類を確認し始めた。
「ええと、済みません。その部屋は埋まっておりました。空いているのは、その隣の部屋で一泊銀貨五枚です」
「じゃあ、これでお釣りを」
「しょ……少々お待ちください」
受付嬢は、震える手で小金貨を受け取ると、お釣りとしてボクに大銀貨九枚と銀貨五枚をバックした。
「では、19号室です。こちらが鍵になります」
ボクは、鍵を受け取ると部屋へと急いだ……って19号室か。
今日もアレ……聖水回収をヤラなきゃいけないから、ある意味、ピッタリかも知れないけど……。
そもそも、アレをやるから野宿ってわけには行かず、宿に泊まる必要があるんだ。
❖ ❖ ❖
翌日、ボクはオロイジン市を見物した。
そう言えば、ランタノイド王国もヤーリサ聖公国も、実質、見学していなかったに等しい。
チャンスがあったら、後で改めて行ってみたいモノだ。
オロイジン市は、割と面積が広い。
中央の市街地には数多くの家が立ち並んでいて、市街地自体の人口密度は非常に高い。
ところが、都市中央から500メートルも離れると、そこは田畑や牧草地帯が延々と続いている。
日本で言えば、駅の周りだけ栄えているけど、ちょっと駅から離れると閑散としている地方都市ってところだ。
それでも、多分、日本の地方都市の方が、駅から離れたところに立つ家の数は多いと思うけど……。
牧草地帯が続く中に、まるでお城のような屋敷が建っている。
あれがギロリン伯爵のお屋敷だ。
最終的にネーゲル達が、どのような処罰を受けたのかは、後で誰かから聞かされることになるだろう。
この辺りは、年間降水量が余り多くないらしく、カラカラに乾いた馬糞や牛糞が微粒子状になって風で飛ぶとかがあるらしい。
それが原因で花粉症に似たアレルギー症状が現れる人もいるとか。
まさに、
『花粉症』
ならぬ、
『馬糞症』
と言えよう!
そんなアホなことを考えていると、突然、ボクの頭の中で取説君の声が聞こえて来た。
今回も、ウラヌス討伐の時と同様に、取扱説明のことじゃなく、三級天使サクラからの通信内容の報告だった。
『(報告)三級天使サクラより報告です。
吸血魔女ネーゲルを捕えられたことに感謝します。
ネーゲルは異世界転生者ではありませんが、堕天使サキュレントから『若くて活きのいい女性の血を浴びれば美しさを維持できる』と騙され、沢山の活気溢れる女性を捕えては殺していました。
ただ、死体を屋敷内に隠していましたので、これまでは、血を失った死体が発見されたわけではありませんでした。それでいて吸血魔女に殺されるとの話が出ていたのは、サキュレントの手下達が地上に降りて、人々に恐怖を与えるために噂を流し、被害女性の失踪と話をリンクさせたためでした。
ここ数年は、吸血魔女の噂が必要以上に広まったこともあってネーゲルも自重していたようですが、『そろそろ女性の血を浴びないと』とは思っていたようです。
そこにルカが現れたことで、かつてのように行動を起こしたわけですが、お陰でネーゲルは捕えられ、今後、人々は吸血魔女を恐れる必要が無くなりました。
今後もルカの活躍に期待します』
天界から礼を言われるのは名誉なことなんだろうけど……。
ただ、最後に、
『今後も』
ってあったよね?
これからも、こう言った堕天使絡みのトラブルを解決しろってこと?
なんか、非常に面倒臭いんだけど!
天界のイイように使われている気がする。
❖ ❖ ❖
一先ず、この日は、日が暮れる前にアサスズメ王国に転移魔法で戻り、ホウテイ市の冒険者ギルドに顔を出した。
すると、入って比較的すぐのところにあるテーブル席に、半死半生状態の顔をしたジノンが座っていた。
彼は、ボクが入って来たのを見るなり、
「ルカ!」
席から立ち上がり、ボクの方へと駆け寄って来た。
そして、そのままボクを抱き締めた。
「ルカ。心配したんだぞ!」
「ありがとう。でも、ほら。無事だってことは、昨夜、ギルド間通信で入れてもらったじゃん?」
「ギルド長からは、そう聞いていたけど、今日、帰って来るのが遅いから、また拉致されたんじゃないかってさ」
「そっか。ゴメンゴメン」
この時のジノンは、超フェロモン魔法と超高HPのダブル攻撃を受けていた時とは違って、ナニが静かだった。
当然、ナニをボクに擦り付けて来るなんてことも無かった。
しかし、このままじゃマズイ。
ボクの方のスイッチが入りそうだ。
『取説君:ルカ‐0721号は、ヤラれるためだけの存在です。口ではイヤと言いながらも身体は正直です』
とにかく、ジノンの抱擁から逃げ出さないと!
「ジノン、苦しいって」
「あっ、ゴメン」
「一先ず、受付に挨拶に行かないと。それから、次の依頼も探さないと」
「そ……そうだな」
取り敢えず、ジノンが抱擁を解いてくれた。
まあ、ジノンなら外見も内面もイケメンだし、ナニは男子共が惚れ惚れするくらいのサイズだし……。
……って、ボクは、いったい何を考えているんだ?
ボクの中で、マズいスイッチが入りかけている気がする。
身体が心に支配されるってのは、あると思うけど、身体に心が支配されるって……たしかにエロ系なら定番か。
そうならないように、心を強く持たないとイケないな。
この身体は、魔力で動くダッ〇ワイフ(オート股)として、これからも絶対に正しくなんか使われてやんねぇぞ!




