23.それは秘密!
飲食店の店員に聞いたところ、冒険者用の宿はギルドの裏にあるとのことだった。
それで、ボクとジノンは、昼食を済ますと、急いでギルド裏へと向かった。
取り敢えず、ジョッキ一杯では、お持ち帰り機能は発動しなかった。
なので、ボクはキチンと自分の足で歩けるよ。
ギルド裏には、宿が数軒立ち並んでいた。
ボク達は、その中でも最も見た目がイイ……と言うか、新しい感じのする宿へと入って行った。
基本的に、ボクもジノンも荷物は全てアイテムボックスの中に入れてある。
なので、部屋に何かを置いて行くことは殆ど無い。
本当にジノンの場合は、寝るための部屋を確保するだけでしかないだろう。
ボクの場合は、フェロモン魔法の出力を下げる代償行為を行うためってのもあるけど。
ここは、冒険者御用達の宿。
H目的の宿とは違う。
なので、
『休憩ですか、宿泊ですか?』
とは聞かれない。
聞かれたところで、休憩は無いけどね。
宿泊手続きはジノンがやってくれる。
ボクは、彼の後にくっついているだけになっている。
この辺は、行動力のある彼に任せよう。
ボクは、まだこの世界の常識を知らな過ぎるからね。
「別室で三十日頼む」
「部屋の管理グレードは如何致します?」
「Aランクで」
「分かりました。お二人様で六十万Genになります」
「では、これで」
ジノンが、さっきギルドで受け取った報酬から金貨一枚を取り出して受付に支払った。
この報酬は、ジノンの方で管理してもらおう。
別に、全額ジノンに使われても、ボクの方は何とかなるからね。
「それでは、お釣りと、こちらが、それぞれの部屋の鍵になります」
ジノンは、お釣りと鍵二つを受け取ると、先ず、お釣りを報酬の袋に入れて、袋ごとアイテムボックスに収納した。
その辺の管理はしっかりしている。
そして、鍵を一つ、ボクに手渡してくれた。
でも、転移魔法が使えるボクに、鍵は不要な気がしたんだけど……。
「ルカ。部屋の管理グレードをAランクにしたから」
「管理グレード?」
「転移魔法使いが勝手に入れないように部屋全体に特殊な結界が張られている部屋だよ」
「そんなのあるんですか?」
「無きゃ、転移魔法使いがいくらでも泥棒できちゃうだろ」
「あっ! そっか」
この程度のことも知らないからね。
ジノンに全部任せて正解だった。
「ちなみに結界魔法が無いタイプが管理グレードBだ。低ランク冒険者だと、支払い能力の面から管理グレードBを選ぶみたいだけど、セキュリティを考えたら管理グレードはAにしておかないとマズいからな」
「そ……そうだね」
ただ、管理グレードAの部屋だと、ボクでも鍵を使わなければ入れないってジノンは言いたいんだろうけどさ……。
『取説君:ルカ‐0721号は、サプライズで夜這いがかけられるよう、他人が張った結界魔法をキャンセルできます。そのため、結界魔法が張られた場所にも転移魔法で直接入ることが可能です』
実は、ボクには結界が通じないらしい。
その理由は最低だけど。
ただ、このことは、ジノンも含め、誰にも言わないでおこう。
こんなことが周りに知られたら、どこかで泥棒騒ぎがあった時に、真っ先にボクが疑われるからね。
取り敢えず、ボク達は部屋の場所と、鍵でキチンとドアが開けられることを確認した。
地球時代、海外出張した際に鍵が開かなくて困ったことがあったからね。
念のためチェックだけは先にしておいた。
そして、ボク達は宿を出ると、再びギルドを訪れた。
次の依頼を取るためだ。
二人して掲示板のところへと向かう。
この時、ボクは女性達のキツイ視線を感じた。
勿論、陰口も聞こえて来たけどね。
『取説君:ルカ‐0721号は、男性(異性愛者、同性愛者共に)の声なら、どんな小声でも聞き逃すことはありません。また、女性同性愛者の声も聞き逃しません』
『取説君:その分、ルカ‐0721号は、女性異性愛者の声を聞き逃すことが多々あります』
『取説君:しかし、女性異性愛者が聞かれて欲しくない言葉だけは、絶対に聞き逃しません』
基本的に、ジノンと一緒にいるのが気に喰わないってことのようだけど……。
勿論、今さら何を言われてもって思っていたけど、一つだけ引っかかる陰口があった。
「ジノン様とパーティを組むんだったら、もっと完璧な美人じゃないとね」
これを言ったのは、どいつだ?
この声がした方を振り返ると、そこにいたのは、お世辞にも決して美しいとは言えない女性冒険者だった。
しかも、ステータス覗き見スキルで見たところ、その女性のHP……ハレンチパワーは今まで見た中で一番低値。
まさかの、5/5だった。
大人気無いけど、ちょっとカチンときた。
なので、
「HP設定100!」
ボクは、この世界の人間女性で、最も高いと言われるレベルまでHPを上げた。
本当は、HPを2500000まで上げることができるけど、そこまで上げると逆に色々な意味で危険だからね。
それで、敢えて100に抑えておいた。
もっとも、HP100でも基本的に人類最高値レベルだから、HPを2500000にする必要性なんて全然無い。
通常なら100で十分過ぎる。
ボクのHPが上がると、HP5女は、
「クッ……」
と言いながらボクから目を逸らした。
ボクがジノンの横に立つのに相応しいと認めたようだ。
別にジノンと付き合おうって気は無いけどさ。
なんとなく抵抗してみたかっただけだ。
依頼掲示板の前に来た。
今回からは、ボクも堂々と高ランクの依頼を見ることができる。
一応、Bランクになれたからね。
ふと、ボクの目に飛び込んで来たのはワイバーン五体の討伐依頼。
ワーバーンは空を飛ぶからね。
結構、討伐するのはキツイとされている。
だからだと思う。
この依頼も、レックスの討伐と同様に何回も依頼料が変更されている。
何人もの冒険者達が依頼にチャレンジしては失敗しているんだろう。
魔獣の討伐依頼を出す場合、大抵は二通りの理由のどちらかになると思う。
一つ目は、討伐対象魔獣に生活を脅かされているので、生活を守るために大至急討伐して欲しいケース。
二つ目は、その魔獣を素材として狩って来て欲しいケース。
今回の依頼は後者のようだ。
なので、ワイバーンであれば、何処に生息しているモノを狩ってきても構わないし、言うまでも無く雌雄どちらでもOKだ。
ボクが、その依頼を見ているのにジノンが気付いた。
そして、彼が、その依頼書を掲示板から取り外す。
「これか?」
「うん」
「ワイバーン五体って、結構きつくないか? 飛んで逃げるし」
「でも、ボクならオスのワイバーンを誘き寄せることが出来るから」
「なるほど、たしかに。それに、素材回収目的なら、特定個体のワイバーンに限定されていないしな」
「うん。ただ、ワイバーンの生息場所が分かればなんだけど……」
実は、それがボクにとって一番の問題だった。
だから、この依頼を受けられるって判断ができなかったし、それ故に依頼書を手に取らずに見ているしか無かったんだ。
「たしか、ダイスーシー村の近くの山に巣がいくつかあるって聞いたことがあるけど?」
「それって、どの辺?」
「アサスズメ王国の最南端だな」
「そうなんだ。ちょっと場所を確認してみる」
ボクはマップ機能を立ち上げた。
すると、たしかに王国の最南端部にダイスーシー村と言うのが存在していた。
ここに行けばワイバーンが居るかも知れないってことだ。
「場所は分かった。行くならすぐに連続転移で行けるよ」
「だな」
「じゃあ、この依頼書を受けてイイ? トドメを刺す役は、この間と同じでジノンに任せることになるけど」
「ああ、構わない」
「じゃあ、依頼書を出してくる」
「いや、依頼書を出すのはワイバーン五体を揃えてからでイイと思う。どうせ、誰も受けないだろうから」
「そだね」
ボクは、その依頼書を、張ってあった元の場所に戻した。
出発は明日の朝。
連続転移で行き来できるから、毎日、日帰りになると思うけど。
ペースダウンします。




