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64、黒い羊3(ユーリウス過去回想)

 我々がリジェグランディアの侵略計画を知ったのとちょうど同じ頃、中央エターリアの聖結界に異変が起きた。


「魔導流がこちらに流れ込んで来ないだと?」


現在中央エターリアの聖結界に魔力を供給できる者はいない。中央エターリアの聖結界だけは特別で、エターナルリーベを持つ者でなければ魔力供給ができないからだ。

しかも魔力供給をしなければ他領の魔力をどんどん吸い取っていってしまう。他領が不満を持つ大きな原因となっていた。

私は仕方なくオルロワに頼み、中央(エターリア)に向けて遠隔地からの魔力供給をしていた。

腐海の進行は徐々に進んではいたが、なんとか聖結界の維持はできていた。

その頼みの綱のオルロワからの聖脈が突然、断ち切られたのだ。


「どういう可能性が考えられる?アブラム」


中央エターリアの聖結界に入って調べないとわかりかねます。ただこのままエターナルリーベを取れない状態が続けば、エターリアは守護結界を失い数年で滅びるでしょう」


衝撃的だった。

悠長に結婚相手を探して次代に期待しようと言っている余裕など、もうないということだ。





「ユーリウス、リジェグランディアの領主を暗殺したのはお前だと噂になっているが本当か?」


突然、執務室に入ってきたジャファラーンに神妙な顔つきで尋ねられた。


「本当だ。といっても私は命令しただけだが。実際に実行したのはリシュリアが率いる部隊だ」


「リシュリアはあの者の姉だろう。それに彼はまだ魔導学校を卒業したての子供だった」


「子供だろうが親兄弟だろうが関係ない。我々に反抗しようとする者は芽であるうちに摘まねばならない。戦争のような大事になるよりはマシな手だ。我々はそのように教わったではないか」


「確かにそうだが、お前までそのやり方を踏襲する必要はない。王家は非道だと囁かれているぞ」


「非道で何が悪い。エターナルリーベがない今は不満を持った者達に圧力をかけて支配するほかない。恐怖政治と呼ばれようが構わない。エターナルリーベ取得者が出るまでの我々は中継ぎだ。ジャファラーン、其方の考えでは甘すぎるのだ」


「聖結界も異常をきたしている今、余計な反発はくらいたくない。私はお前のやり方には賛成できない」


不満ばかりを言ってくるジャファラーンに更に言い返したかったが、その言葉をグッと飲み込んだ。


一体私がどれだけこの国のために、己の手を汚してきたことか。





 側近に頼んでいたアストリットの出自に関する報告書が届いた。


「やはりアストリットはエトノスの末裔なのか」


かつてエターリア王家を影から支えていた、王族の傍系一族の総称だ。ユーリウスの母が最後だと思ったが、まだ他にも分流があったらしい。アストリットの母親はユーリウスの曽祖父の末妹の娘だった。つまりユーリウスの母方の唯一の親族となる。


「エトノスの血を引く者は全てペトロネラに殺されたと思っていたが」


あの一族の娘で王家以外に嫁ぐ者がいたことにも驚きだが、確かにあの天真爛漫さは母アレクシアと通じるものがある。

ただ母はアストリットほどの魔力量はなかったし、部屋や備品を壊しまくって一部からは「破壊神」と呼ばれてしまうほどの魔力コントロールのまずさもなかったが。


「入庁した時にも私を見て特殊効果が現れたと言っていたな。あれは本当だったのか」


自分にとって魔力の親和性が高い相手。

エターリアが危機に陥っている今、母の一族の生き残りと巡り会えたことは単なる偶然なのだろうか。





 他領からの突き上げが酷くなってきた。

エターナルリーベを持たない(ジャファラーン)など、他領の領主から見ればただの飾りだった。

追い討ちをかけるように反ユーリウスを冠する者達が各地に現れ出した。

リジェグランディアの領主殺しの一件が不満を持っていた連中を結束させる引き金となり、王国内で大きな勢力となりつつあった。


「もはや王家など必要ないと思っている者達も多いのですよ」


シュルンベニアの次期領主が皮肉げな笑みを浮かべながらそう言った。


「聞いたか、奴のあのセリフを!我々に対して何といういいぐさだ!」


客人が去ったあとも延々とジャファラーンの愚痴を聞くハメになった。


ああ、魔導士庁に戻りたい・・。


アストリットの姿が脳裏に浮かんだ。あの笑顔を見たらささくれだった心も癒されるような気がした。


「其方らがリジェグランディアの領主を暗殺したりするから、このようになったのではないか」


「他に解決策があったと言うのか?あの少年は笑顔の裏で兵を集め、南部こちらに進軍する計画を立てていたのだぞ」


「あちらはただ単に軍事訓練をしていただけだと言い張っているからな。実行されていない以上それを領主殺しの言い訳にはできない。捕らえて塔に幽閉するなり、薔薇の呪いをかけるなりして言いなりにする方法が他にもあっただろう」


「そんなことは言われなくてもわかっている」


「では何故やらなかった?お前ならできたはずなのに」


ジャファラーンは私のことを万能とでも思っているのだろうか。

その言葉に、今まで我慢していたことがとうとう口に出てしまった。


「それほど気にいらないのであれば其方がやれ!

あの者は高位の闇魔法を使って我々の仲間を何人も廃人にした!だからこちらも反撃せざるをえなかった!私とて、この結果を望んでいたわけではない!」


ジャファラーンが驚いて、唖然とした表情で私を見た。

滅多に感情を荒げない私が叫んだのでびっくりしたらしい。


「失礼する」


書類を手に持ち、魔導士庁の長官室へと移動した。

長椅子に腰をかけて目を閉じていると、ノックの音がしてアストリットがお茶の用意をして入ってきた。


「誰かに行くように言われたか」


「いえ、わたくしが自主的に来たのですよ」


一目で機嫌が悪いことがわかる私に物怖じもせず近づいてくるのはアストリットくらいだろう。

目の前にカップを置く彼女の手に自分の手を重ねた。

そのまま彼女を引っ張り、長椅子に横たえて抱きしめる。


「ユーリウス様・・」


伸ばした手がたまたまアストリットの胸に触れた。


「男と二人きりになるということはこういうことだ、アストリット」


私はアストリットを見つめながらそっと輪郭を撫でた。

アストリットは目を見開いて私を見つめ返した。添えられた手が震えながら私の袖口をギュッと握りしめた。


「煽るな、アストリット・・本当に、こんな場所で襲われるぞ」


「ユーリウス様にだったら構いません」


「私は構う」


離れようと体を起こした私を引き止めるように今度はアストリットの方から抱きついてきた。背から腕を回して力一杯抱きしめてくる。


「アストリット、離れなさい」


「嫌です」


アストリットの腕にさらに力が入る。狭い長椅子の上で、アストリットの柔らかな体が密着する。体温と清潔な石鹸の香りとともに微量な魔力が流れ込んできた。

夏のそよ風のような気持ち良さが私を包んだ。


「何かあったんですか」


「・・・ジャファラーンとやり合って、少し疲れただけだ」


「わたくしからジャファラーン様に文句を言いましょうか」


「いい。単なる兄弟喧嘩だ」


弱音を吐いたのは初めてだった。

アストリットは朝露のように純粋で、不思議と捻くれた私の心を解きほぐした。


「人々は魔法を万能だと思っている。だから下手に魔力を持っていると皆から期待をされる。上手くいかないことだってあるというのに、勝手に期待され勝手に失望されて・・・私は完璧な人間などではない」


「ユーリウス様ほど完璧な方はいないと思いますが」


「王家の者として完璧に見えるよう取り繕っているだけだ。心の中ではいつも迷い、正解を求めて足掻いている」


しがみついていた彼女の腕を解き、アストリットの方を向くと彼女は優しく慈愛に満ちた表情で私を見つめていた。


「ユーリウス様はユーリウス様らしく生きれば良いのです。誰かのためではなく自分のために生きましょう。きっと私が参考になると思います」


「君を参考に・・」


思わず吹き出してしまった。「破壊神」などと揶揄られているアストリットを参考になどしたら、エターリアはとっくの昔に滅びているだろう。


「むぅ、私が言いたいのはですね。本能の赴くままに、たまには好き勝手しても良いってことですよ。ユーリウス様は我慢しすぎなのです」


「なるほど・・君の言いたいことはわかった・・」


私はアストリットの髪に触れた。

柔らかい太陽のような黄金色の髪。

私が微笑むとアストリットも微笑みを返した。

再び抱き寄せてアストリットの胸に顔を埋める。


「君は・・温かいな」


似た色をした淡い金色の二つの魔力が溢れ出し、私たちの周りを包んでいく。


「ユーリウス様、わたくしユーリウス様が喜ぶような言葉を本を読んでたくさん勉強してきたんですよ」


「そうか、ではさっそく勉強の成果を聞かせてくれるか」


「それではですねぇ・・・」


照れ臭そうに彼女は私の耳元に顔を寄せた。

これが恋というものなのだろうか。

どうしようもなく彼女に惹かれていることに、私はやっと気づいた。

心地よい子守唄のような睦言が繰り返し囁かれる。

その瞬間は憂い事など全てを忘れて、私はそのまま彼女の優しさに浸っていた。





 執務室に戻るとジャファラーンが例の書類を食い入るように見ていた。机の中に閉まっていたのだが、鍵をかけ忘れたらしい。


「ジャファラーン、勝手に人の机の中を漁るのではない」


「そんなことよりユーリウス、これは本当か?アストリットがあの一族の血をひいていると?」


思わず舌打ちが出る。

この男には知られたくなかった。


「アストリットにエターナルリーベを取らせよう。

王族ならば我々と同じ責務を負うはずだ」


「ジャファラーン、彼女はまだ十六歳だぞ」


「子供だろうが関係ないと言ったのはお前ではないか」


自分の言葉で揚げ足を取られることになるとは思ってもいなかった。


「アストリットには無理だ。戦い方など知らない典型的な貴族の令嬢だぞ。グリフォンの餌になるのがわかりきっていて送り出すのか」


「だが我々には時間がない。グリフォンなど魔法でどうにかできるであろう。お前がやらせぬのなら私が命令しよう」


「無駄だ。アストリットは上の命令に素直に従うタイプではない」


案の定、ジャファラーンは反撃に遭い怒って帰ってきた。


「私が王だというのに何だあの不遜な態度は!」


「だから言っただろう、ジャファラーン。彼女にエターナルリーベを取らせたいのなら、懐柔して上手に誘導せねば」


「お前ならできるのか」


恐らくできるだろう。

彼女は私に盲目的に恋をしている。

それを利用すれば。

だが・・・。


「滅びの時は間近に迫っているのだぞ。迷ってないでやれ!ユーリウス」





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