9:吸血衝動
次の日の朝。
私は、長年の癖でついた時間に起きようと身体を動かす。
すると、隣にあった何かに腕がぶつかる。
私は寝ぼけた目で隣を見た。
「……真、琴ッ!? …あっ!…いったた…。」
隣にいたのは自分の弟である真琴で
それに驚いた私は窓側にある人が1人入れそうな隙間に落ちて
頭を壁に打ち付けた。
真琴はその鈍い音に目が覚めたのか、目をこすってこっちを見た。
「んー……姉貴? え、姉貴!?」
「驚きたいのはこっちなんだけど!? また私の部屋に……。」
真琴はハルという人に会えないことが続くと
今のように私の部屋のベッドにもぐりこんで寝ていることが多い。
音もなくベッドで寝ているから、起きたときにビックリする。
(この頃はないと思ってたから、心臓に悪い…)
私はいまだにバクバクしている心臓を宥めながら
真琴を自分の部屋に帰す。
そして、制服に着替えて慣れた手つきで
お決まりの髪型にして、準備完了。
ま、あとは真琴の弁当を作ったり朝ごはんを食べて
幼馴染を回収するのが日課となってる。
「じゃあ、いってきまーす。」
「いってらっしゃい、気を付けてねー。」
「はーい」
お母さんからの言葉を後ろに歩いて行くと奏の家に着く。
すると、タイミングを見計らったように
響ちゃんがドアを開けて顔を出した。
「柚葉さん、おはようございます。
兄の奏ならそこで寝てるので勝手に回収してください。」
「分かった。」
私はいつも通り、寝起きの奏を支えながら
学校に向かった。
* * *
(んー…暇だなぁ。)
授業を聞いていて思う。今、やってる範囲は
私自身が小学生の高学年の頃に、お父さんにやらされていた範囲で、
既に理解しているし簡単すぎてつまらないのだ。
「……であるからして」
先生の言葉でさえも子守歌に聞こえてきた。
うつらうつらしている時だった。
どこからするのか分からないけれど、鉄くさい臭いが
私の鼻をかすめた。
「血?」
頭がそれを理解すると、ドクンッと心臓が激しく動いたかと思うと
酷く喉が渇いてヒリヒリしてくる。
「……はっ、ふぅ…は、」
「柚葉?」
私の異常にいち早く気付いた奏が声をかけてくる。
今日は、眠ってないみたいだった。
「気に、しない…で。」
「はぁ?」
「だいじょうぶ、だか、ら。」
(嘘、全然大丈夫じゃない。)
血の臭いが自らこっちに近づいて来ていて
余計に喉が渇き痛みが大きくなっていく。
(早く、早く…授業が、終わって!)
願いが通じたのか、授業の終了を知らせる鐘がなる。
私は、少し急ぎ気味に号令をかけて、喉の渇きと化け物じみた八重歯を
隠すために誰もいないだろう保健室に向かう。
「奏…次の号令は、よろしく……保健室にいる、から」
「分かった。」
奏に保健室に行くことを伝えて、次の号令を頼んで
私は人目につかないように保健室へ向かった。
「…失礼、します……」
中に入っても先生はいなかった。
(良かった…先生はいない)
私は、少しでも鋭くなった八重歯とヒリヒリする喉の渇きを
止めようと自分の手に噛みついて血を飲む。
すると、ヒリヒリするような喉の渇きと鋭くなる八重歯も少しは
治まったが、喉の渇きが無くなることも八重歯が鋭いことに
変わりはなかった。
「……これが、衝動…眠ったら、治ってるかな」
私は、そんな小さい望みをかけて
楽な体勢で保健室の扉から遠く離れたベッドに寝転んだ。