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はなみの夢  作者: 彼岸
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僕と花実ちゃん

空が広がっていた。

夕暮れ時の、暗い空。

もう紫とピンクが混じったようになって、どこか紺色も混じってきたような。

そんな、ごちゃっ、とした色。

それがぼんやりと、ぼやけて見える。

僕の周りは、空から差した光で影ができたみたいに、ぼんやり暗い…というか、黒い。

真っ黒な地面に、真っ黒なぼやぼやとした影が周りで蠢いている。

それもぼんやりと、ぼやけて見える。

どこか遠く。

全部がぼやけて見える。

これが夢なのか、現実なのか。

そんなことも考えられない。

僕は体の感覚がなかった。

痛いのかも、地面に寝転がってるのかも感じられなかった。

横を見た。

花実ちゃんの姿だけが、はっきり。

ただ、そこで倒れていた。

額の横、赤い傷口が見えた。


助けなきゃ


目を頼りに片腕を進めていく。

かろうじてどこかぼんやりと聞こえる、体と地面が擦れる音を頼りに、ゆっくり、体勢を変える。

這いずるように、腕を進める。

手だけが、焦るみたいにかさかさと音を立てる。

体はのろのろと、かすかにだけ動いた。

それがいらだたしいのかも、あまりわからなかった。

頭が腕を歪める。

でも、力を入れて這いつくばる。


花実ちゃんは、眠るようにそこにいた。

でも目をつむって、目覚めないみたいに。


いたいんだろうな、あれ。


なぜかそう考えた。

すすっ…とどこかで毛が擦れる音がした。

花実ちゃんは、ただどこか遠くで眠るみたいに。

横たわっていた。

顔がよく見えた。

やっぱりお人形さんみたいだった。

それが近づくのだけが見える。

顔が目の前に触った。

腕がほっぺに触れる。

……あたたかい。

それだけが感覚としてある。

柔らかいほっぺに手が触れて、もふもふしたような感触が伝わる。

思わず、というか、何も考えないまま。

首だけをぐっ、と上げた。

それで、力を振り絞るみたいに。

花実ちゃんの唇に、口付けした。

甘かった、かも。

少し。

でも、そんなことはあまり考えなかった。

僕は顔が熱くなるのをどこかで、感じた。

でも、それもほんの一瞬だった。

はちみつのような味が花実ちゃんに伝わるように。

柔らかい唇に触れていた。

触れていたかった。

もう少しだけ、このあたたかさに触れていたかったから。

でも。

僕は唇を離した。

もう、すっかり感触がなかった。

「…気づいて、」

声が出ていた。

茶色の毛に覆われた、腕を花実ちゃんのほっぺに触れさせたまま。

ただ僕は、花実ちゃんの姿を焼き付けるように眺めていた。

こうなることは、わかってる気もした。

だからか、そこまで悲しんだりはしなかった。

でも。

まだ僕は花実ちゃんに触れたまま。

ふ、と花実ちゃんのまぶたが動いた気がした。

「…花実ちゃん…」

僕は最後の力を振り絞るみたいに、声を出した。

柔らかい自分の毛に包まれたまま。

僕はまぶたを閉じるように。

意識を黒曜石のような縫い付けられた眼から手放した。


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