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第六話 空に向かって語る思い出

橋のたもとに

すっかり元気をなくしてうつむく

一人のおばあさんが

ぽつんと座っている


ときおり

橋に

歩み寄り

ため息をついては

戻って

座り込む


もう何日も

同じ事の繰り返し


橋精アイリと

橋獣モクモクは

それを

見ていた


その日は

日が

雲に隠れて

おばあさんは

ぶるっと身を震わせた


アイリが

藍色の小さな傘をくるくる回し

おばあさんのまわりに

かぜの

かまくらを

作る


モクモクは

あたたかな体を丸め

おばあさんの足元に

すり寄った


「あら、まあ

 ぽかぽかしてきたわ」


おばあさんは

不思議そうに首をかしげた


そして

アイリとモクモクのいる方に

目をやった


ビクっとする

アイリとモクモク


けれど

おばあさんは

気づいたようすは

なかった


ほっとする

アイリとモクモク


足元から伝わる不思議で優しいぬくもり


固く結ばれていた口元がふわりと緩み

柔らかな微笑みが浮かぶ


「……ああ、気持ちいい。まるであの日のようね」


おばあさんは、

目の前のなにもない空間に向かって、

ぽつりぽつりと語り始めた。


「おじいさんとね、昔よくこの橋を渡ったのよ。

 郷土文化会館で催し物がある日は、

 ふたりで少しおめかしをしてね。


 行きも帰りも、この橋を歩きながら、

 お芝居の感想を、笑い合いながら話したっけ……」


語りかけるその視線の先。


そこには、人間には見えないアイリとモクモクが

ちょこんと座ってた。


ふたりは、おばあさんの思い出を、

うんうんと頷くように

一生懸命に聞いている


それからというもの、

おばあさんは橋に来るたびに、

優しい顔をして

なにもない空間に向かって

思い出を語るようになった


アイリとモクモクにとって、

その話を聞くのが一番の楽しみになった


「ねえモクモク、きっとまた来るよね」

モクモクは、なにも言わず

少しだけあたたかくなった。


けれど——


季節が巡ったある日から

おばあさんは

ぱったりと姿を見せなくなってしまった


その日から、

橋の上を渡る風が

少し寂しそうになった


それでもアイリとモクモクは

今日もあいせん橋で待っている


またいつか

おばあさんがふらりとやってきて、

楽しい思い出話を聞かせてくれるのを信じて


藍色の傘を回しながら、

あたたかい背中を用意して——

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