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プロローグ:丘に住む男

ドルゴジェヴの丘は街から半時間ほど東に向かった丘のことで、この丘には一軒の古い木の家がある。

小さな野苺の農場がついたその家には街でも名の通った商人が住んでいて、時折市場に店を出すために丘を降り、珍しい工芸と人気の野苺のジャムを売るのだ。土より少し明るい色の陶器の小壺に入ったそれは街の子供に人気で、かれはその長身に群がる小さな子らの頭を優しく撫でてやると、きまっておかしな冗談を話して笑いをとる。それが面白いときもあるし、ぶっちゃけ何言ってんのかよくわからないような時もある。

街で彼を見かけたことがない人はいないが、彼の素性を知るものは、この街には彼のギルドの長であるヴラディヴォイと、取引先としてよく使っている店の主人であり彼の友人であるダレウシュくらいのものである。

当然、この丘の彼が素性を話さないことには理由があり、テキトーなことをぼやくで有名なかの不真面目な学生、ヘンリク曰く、彼はリヴニア貴族の末裔でありビヤウィクライの征服でこの地に難を逃れたが故に身分を隠しているのだ。と。

私は物好きな観察者として今日も彼を見る。どうやらちょうどあくびをしている。

とにかく、この春の陽光の下では温まった石畳も、夜に冷えた体を見事に温めて眠気を誘うのだろう。この街の人々の濡れた革靴に染み込んだ熱気がサウナのように温められ、高い湿気にコケが喜ぶ。数日前の水たまりに活気が戻った。

丘の彼は微笑みながら街の通りを歩き、観察者である私にも挨拶をしてくれる。この街が好きな理由はこういったところだ。他の町より衛生的なことはもちろんだが、こんなふうになんでもない外の人間である私にも好意的に接してくれる。


「おはようございます、カミルさん。今日はまたジャムを売りにですか?」


「おはようカヤ。そうだね。あとは久しぶりにお肉でも買おうかなと。すこし面白いことがあったからね。」


丘の男はカミル・イェションと言い、イェションとはつまり灰。彼は偽名なのだろうと皆が思っている。実名に関してもまた、彼の素性同様知るものはいないだろう。

そして今彼が言った、面白いことというのがまたどう言うものであるのか気になったが、それ以上に彼の買い物について行って、彼をより知りたいという思いが私の好奇心探知機によって優先された。

カミルに肉屋に案内するからと半ば無理やり同行を宣言したが、カミルはその際もニコニコとして"いいよ"と呟くばかりで、一言も苦言を呈することも、また面倒な素振りを見せることもなかった。その人の良さと彼の優しい微笑みに、月は少しばかり驚いて、その抱きしめてくれるような朝日から隠れてしまいたくなった。もっとも、彼のその絹糸のように繊細な銀髪の方が、より月明かりのように静けさを纏う美麗なヴェールのようであったのだが。

カミルは私の話を聞きながら歩いている時は歩幅を合わせてくれるし、また通りがかった子供達に、"カラスとは実は魔女の使いなのだから、きっと君たちのような子が1人になったらカラスに連れ去られてしまうぞ、気をつけろ"とくだらない冗談で子供達を震え上がらせてから野いちごを分けてやって送り出していた。くだらないことだが、彼は少なくともそれら、私や子供達に対する扱いは、間違いなく楽しみでしているのだろうと感じる。


「カミルさん、人は好きですか?」


「ん?うーん、そうだね。」


「好きだよ。」


「ふふ、カミルさんってやっぱり面白いですね。」


「そうかな?それなら嬉しいね。」


「ええ、今だって、質問にも私の話にも、ちゃんと"わかるまでよく考えて聞いてみよう"って思って答えてますよね。」


「あらら、ちょっと言い当てられるのは恥ずかしいな。」


「ふふふ、人、お好きなんですね。」


にへらとしながらちょっとだけ恥ずかしそうにしている彼を見ると、ただの市民の1人にも見えるほどだが、彼は紛れもなくほとんどの人が素性を知らない人物。しかも丘の上…つまり街の胸壁の外に1人で住んでいるのだ。当然街の外にも村々はあるが、大抵の場合は動物や魔物、山賊や略奪を恐れて柵を立てるし、複数人で住むのが当たり前だ。

変わっているどころか、異常事態だ。よほど人を避けているのか、人を避けなければならない理由があるのか…とも思えばこうして街に降りては人と関わるのが好きらしい。

詮索はよした方がいいと思いつつも、やはり気になるところの多い人物なのは疑いようもなかった。


彼の買った肉はとても大きなブロックだった。1人で食べるのだろうか。

いや、待てよと思考を巡らせる。

そもそも丘の彼が1人で住んでいるというのは、彼がそう言っていたからそうなのだろうと皆が思っている為だ。実は彼は亡国の騎士で、物語の中のように姫君を守っているのかもしれない。…あくまで仮定のはなしだが。しかし実際、彼が1人で住んでいるというのは疑問が残るし、彼が買った食事は生肉で、しかも大きなものだった。1人ですぐさま食べるのはよほどの大食漢だということになる。

一体その肉を誰が食べるのだろうかと見ていたら、彼にそれを気にしているのがバレてしまった。カミルはこちらと目が合うと、またすこし口角を上げてふっ、と笑ってから、「今日は客人がいるんだ」と答えた。

そうか、客人が…だからこんな大きなものを買ったわけだな。

それでカミルは、今日はダリウシュの店にも品を卸すから少し付き合ってくれるかい?と言ったので、私は喜んでお供しましょうと答えたのだ。

初投稿です。ぜひブックマークをお願いします。

第1話は明日の夜10時ごろ投稿予定です。質問、感想などもぜひお願いします。

描き溜めはあまりないので第2話以降は不定期投稿になると思います。安定した投稿は不得手ですがぜひ気長にお待ちいただければと思います。

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― 新着の感想 ―
人物や情景の描写が上手くて素晴らしくて好き。次回でも人物とその生活の描写が楽しみ。不定期でもぜひ頑張ってください。
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