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あの大きな樹とともに  作者: 三笠 好弘


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第二章 理香……その2

 三年生進級で初めてのクラス替えがあった。

僕は理香と聡子とまた同じクラスになった。

理香も聡子と同じクラスになれたことを、とても喜んだ。

三年生になった理香は、すでに身長が160cm程あった。

そして朝礼でも体育の授業でも、女子の列の一番後ろに並んでいた。

僕はと言えば一年生からずっと列の一番前に並び、三年生になったときにせいぜい120cm足らずで、一年生から同じく列の隣に並んでいた聡子も同じくらいだった。

秋になり、運動会が開かれた。

僕たちのクラスは紅白の紅組だった。

その年の夏休みから少年野球チームに入団していた僕は、これまでの運動会よりも自信を持って臨んだものの、徒競走もハードル走も六人中四着という成績に終わった。

例年通り、理香は運動会で自分の個性を存分に発揮していた。

同学年の徒競走もハードル走も文句なしのぶっちぎりだった。

そして、運動会のクライマックスにある、全学年男女混合の紅白対抗リレーが始まろうとしていた。

紅組白組それぞれが、各学年から一名ずつ代表者を合計六名選び、小学校低学年には少々長い距離になる約八十メートルのトラックを一周ずつバトンリレーするのだ。

紅組の三年生代表として選手に選ばれていた理香は、気合十分だった。

出走順は直前のくじ引きで決められた。

穴の開いた箱に入れられた小さなボールに番号が書いてあり、一年生の選手から順番に一つずつ取っていった。

三番目に引いた理香のボールには、6、と書いてあった。

理香は紅組のアンカーになった。

対する白組のアンカーは六年生の男子だった。

白組は、二年生男子、四年生女子、五年生女子、三年生男子、一年生女子、アンカー六年生男子の順。

紅組は、四年生女子、一年生男子、二年生男子、五年生女子、六年生男子、アンカー三年生理香の順。

レース前、出走順に整列していた理香の身長は、同じくアンカーとなった白組の六年生の男子よりも少し高く、身体のハンデはないように思われた。

理香は被っていた赤白帽子を脱いでハチマキを取り出し、赤を表にしておでこにつけ、ぎゅっと強く締めた。

そして背筋をピンと伸ばして胸を張り、静かに目を閉じて集中していた。

レースは開始早々に紅組の四年生女子が転倒してしまい、すぐに立ち上がって痛む足を引きずりながらもバトンを次の走者に繋いだが、その後は紅組の走者よりも高学年の走者が続く白組がどんどん差を広げていく展開となった。

紅組第五走者の六年生男子がバトンを受け取ったときには、白組との差は一周以上もあった。

その六年生男子が、先行する白組第五走者の一年生女子との間を約半周足らずにまで詰めた時に、白組はアンカーの六年生男子がバトンを受け取った。

紅組の六年生男子も最後の追い上げを見せて、助走を始めた理香にバトンを繋いだ。

理香は走り出した。

力強く、そしてしなやかに、自己を解き放つように走った。

その時の理香は、父親にそっくりな美しく伸びた手足を思うままに動かし、母親譲りの跳ねるようなストライド走法を見せた。

前を行く走者は少し余裕を感じさせながら走っていた。

とんでもない勢いで差を詰める理香に大きな声援が飛ぶ。

「うしろ! うしろだ! きてるぞ!」

迫ってくる理香に気付かない六年生男子走者に向かってクラスメイトが声を掛けるも、大きな声援にかき消され彼の耳には届いていないようだ。

ゴール前の最終コーナーで、あんなに差が開いていた六年生男子に並んだ理香は一瞬にして彼を抜き去り、そのままの勢いを落とさず駆け抜けてゴールテープを切った。

ゴールラインを越えた理香は徐々に速度を落とし、転倒した四年生女子の前で足を止めると彼女に抱きついて喜んだ。

追い抜かれた六年生男子走者は、何が起きたのかと茫然としている。

保護者席から大きな歓声が上がる。

僕も自分にとって身近な憧れのヒーロー、いやヒロインの活躍を我が事のようにとても喜んだ。

今日一番の盛り上がりを見せたバトンリレーが終わると、最後に全校児童による創作ダンスが始まった。

毎年、児童の保護者が楽しみにしている創作ダンスを、僕は列の隣に並んだ聡子と手を繋いで踊った。

理香とペアになった男の子は、僕よりもずっと背が高かったが理香には不釣り合いだった。

さっきとは打って変わって、理香は長い手足を不自由そうに動かしてダンスを踊っていた。

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