14話「ダンジョンの新事業計画」
筋肉痛の身体に鞭を打ち、やってきたのは呪具が見つかった屋敷です。
その屋敷の一角をサキチは快適な居住区に変えていました。
縁側を作り、ゴブリンたちに庭を整備させながら、回復薬入りの苦いお茶を飲んでいました。
「身体がいたくないんですか?」
胡坐をかいて、茶を飲んでいるサキチに聞きました。
「痛いに決まっているだろう。一歩も動きたくないというのに、ミキモトさんが掃除をしてくれるから、仕方なしに縁側にいるんじゃないか。それよりも聞いたか? ミノウさんがやろうとしていた計画を」
「いえ、聞いてません」
「鬼族は結局のところ、平等を謳いながら、貧富の差が激しい社会を作っていたのは?」
「そうなんですか?」
後ろにいたアライさんを見ると、頷いていました。
「掲げる理想と現実がかけ離れていることは否めないわ」
「あら? アライ、いたの? ちょっとハーブを取ってきてくれる?」
「はい」
台所から出てきたミキモトさんに言われ、アライさんは庭のハーブを摘んでいました。
「ミノウさんは鬼族から外れた者たちで自由に商売ができるギルドのようなものを作りたかったらしい。ただ、それも盗賊や山賊によって潰されて上手くはいかなかったらしいけどな」
貧富の差が激しくなれば、盗賊や山賊も増えていく。人の国でも王都の周辺の山村ほど貧困家庭が多いと聞きます。
「教育水準、技術進歩、労働の制度、原因はいくつもあるでしょう。鬼族だけに責任を押し付けるわけにもいきませんよ」
「そうだな。で、わざわざ痛い体を圧してまで屋敷まで来たのには理由があるんだろう?」
「ええ、どうやらダンジョンマスターのマスダさんは我々を解雇、いえ、独り立ちさせるつもりらしいのです」
「独り立ちって言っても……、なぁ」
「別に実用的な技術者である我々は、ダンジョンに頼って仕事をしているわけではありません。ただ、アライさんからいろいろと聞いた結果、ダンジョンとクリスタルを使った新しい事業を思いついてしまいました」
「そうか。じゃ、やろう」
まだ、説明をしていないのに、サキチはやる気になっています。
「どういうものかもわからないのに?」
「どういう事業なんだ?」
「今のところダンジョンの運営は、魔物の視点で運営されているらしいので、冒険者の視点でも運用してはどうかと思いましてね」
「ああ、それは成功しそうだ。やろう」
「だから、まだ詳しくは説明してませんよ」
「いいだろう。どうせ、成功するまで止めないさ」
サキチは笑っていました。私の自信のなさを察してか、サキチは背中を押してくれます。
「じゃあ、ステュワートさんの計画を聞きながら、食事にしましょう。今日は体の芯まで温まる回復鍋ですよ」
鍋を持ってミキモトさんが台所から出てきました。まだまだ、補修工事が必要な屋敷ですが、使えるところは使えるようです。
小さなテーブルにアライさんも含めて4人で座り、鍋をつつきながら、私は計画を話しました。
「だったら、先に利益を追求した方がいいかもよ」
「ですが、数を集めるのには時間がかかりますから同時にやった方がいいかもしれません」
「どちらにせよ、そんな技術があるのか?」
三者三様の感想をいただきました。
「技術的にはできなくはないんじゃないかな」
「ええ、不安でしたら、それこそインプから技術者を呼べばいいのです」
アライさんもミキモトさんも技術的なことは問題ないようなことを言っています。
「そんな……。こんな西の果てのダンジョンにインプの技術者が来てくれるのですか?」
「たぶん、マスダの知り合いにもいるはずだから、クリスタルで呼び出して聞いてみればいいんだ」
遠隔地と会話するって、そんなに簡単なことなのでしょうか。やはり魔物の国は進んでいるようです。
美味しい鍋を食べ終え、片づけは男2人ですることに。私もサキチも一人暮らしは長いので、そのくらいはします。
「朝は動けないと言っていたのに、動いても平気そうですね?」
「ミキモトさんの料理のお陰だよ」
サキチの感想に、ミキモトさんは満足そうに頷いていました。
「じゃあ、マスダに計画を話しに行こう。どうせ、私たちを独り立ちさせることしか考えてないんだから、面食らうぞ」
アライさんは狡賢い子供のような顔で言いました。
「では、行きましょうか」
4人で、ダンジョンへと休日出勤することになりました。
ダンジョンには未だ客が残っていて、ホームへと帰っていくところです。皆、満足そうに死闘の話をしていました。
我々は裏口から入り、アライさんの案内でダンジョンマスターの部屋へと向かいます。
コンコン、ガチャ。
マスダさんの返事も聞かずに、アライさんは扉を開けました。
中は大きな球体が浮かぶ装置が正面にあり、手前には長いテーブルと8脚の椅子が備え付けられています。ダンジョンマスターのマスダさんは奥の机で、紙に何か書いているようでした。
「マスダ! 急なんだけど、計画があるんだ。聞いてくれ」
アライさんはずかずかと入っていき、椅子に座りました。
「本当に急だな。4人とも同じ計画か?」
「そうです」
「わかった。聞こう。今まさに、4人の報酬を計算していたところなんだ」
マスダさんは立ち上がって、テーブルまで来て椅子に座った。
「酒が欲しかったら、そこに置いてある。水でも蜂蜜酒でも持ってきて飲んでくれていい」
テーブルの近くには箱が置いてあり、中にはワインや蜂蜜酒などが入っているようです。
私もサキチも飲みませんが、ミキモトさんは普通に蜂蜜酒を持ってテーブルについていました。
「一応、俺も計画は立てたんだ。計画通りに行くと、お前たち4人はあと8年労働をすれば、遊んで暮らせる計算になるんだが、聞かないか?」
「それは我々の計画を話した後でもよろしいですか?」
「うん。わかった」
私たちも椅子に座りました。座る瞬間だけ、太ももの筋肉が突っ張って、痛みが走ります。
「無理しなくてもいいんだぞ」
「話すなら、早い方がいいらしいので」
「それで、計画というのは?」
「40階層をレンタルさせてくれませんか?」
「レンタルだと?」




