働かざる者にお仕置きを
原作では詳しい説明が一切なかったのだが、こうして様々な書類に目を通してみるに『パーティー』というのは会社や互助組織のようなものらしかった。
こなした依頼の報酬は一度パーティーのものとなり、その後で『ランクに応じた固定給+歩合』という形で再分配されるわけだ。
……これ、ホントに作者が考えた設定か?
ちなみに、書類は全て日本語で作成されていた。
この点については作者に感謝してやろう(上から目線)
しかし、日本人にとっての誤字が「誤字じゃない」ってのだけは許さん。脳が混乱するわ。
この国の文字は作者の誤字脱字文章が基礎になってるのか……
そんな感じで脳を酷使しながら、解読するように書面を読んでいたものだから、『それ』を目にした時の頭痛は殊更のものだった。
「……ごめんな、ジョウ……」
「えっ?何がですか?」
俺が思わず謝ってしまったのは、先月、メンバーに支給された給料の明細書を見たから。そこに記載されたパウロとジョウの支給金額を見てしまったからだった。
この国の通貨単位は『イェン』。
作中で唐突に「1イェン=1円くらいだ」という記述があったが、今思えばあれも転生要素だったのだろうか?
全く説明はなかったが。
それはさておき……
先月のジョウの給料は……固定給一万イェン、歩合五千イェン……だった……
若手の芸人かっ!?いや、ガチの若手芸人よりはいいのかもしれないけど……
それに対してパウロの給料は……
「……ディーネ……ちょっと、離れてもらっていい……?」
「え?うん」
頭の上にいたディーネが宙に舞うのを確認してから、俺は席を立つ。
そして……
ドズンッ!!!
『わあぁぁぁっ!?』
近くの太い柱に、建物が揺れるくらい全力で頭を打ちつけてやったぜっ!!!
三人と一体が上げた仰天の声が綺麗に揃う!
一瞬意識がブラックアウトしかけたが、噴き出したアドレナリンで何とか踏みとどまり、俺はフラフラと席に戻る。
睨みつける明細にはポタポタと血が落ちていた。
「……あんのクソパウロ……七百万て、ふざけてんのか……!?」
「うわぁぁぁっ!?パ、パウロさんっ!?血っ!血がっ!」
「きゃあぁぁぁっ!?ダーリンッ!?」
「オ、オーリさんっ!タ、タオルってどこでしたっけっ!?」
「ち、ちょっと待っててっ!」
事務所内が大騒ぎになる中で、俺は手にした明細を握り潰す。
先月のパウロの給料七百万イェンは固定給の部分であり、歩合の方はゼロだ。
つまり、パウロは先月、全く依頼に関わってない立場でありながらこんな大金をせしめているのである。
「ダ、ダーリンッ!これっ!」
「おう、ありがと。ディーネ」
オーリからタオルを受け取り、フラフラと飛びながら運んできてくれたディーネに感謝してから、俺は受け取ったそれをハチマキのように巻く。
そして、青くなっているオーリとキエルに指示を出した。
「メンバー全員の給与見直すんでっ!ここ数年の帳薄お願いしゃすっ!」
『は、はいっ!』
マジでパウロ許さんっ!!!
◎
「ホン……ットに!スンマセンッ!オーリさんとキエルさんの給料も、今月から上げさせてもらいますんでっ!」
「え、ええっ!?そ、そんなっ!?アタシは別に不満なんて……!」
算盤(何故かあった)を弾きながら謝罪する俺に、キエルは慌てて首を振った。
同僚の言葉に同調するように、オーリも頷く。
「私達は皆さんのように危険な目に遭っている訳ではないですから……」
そんな殊勝なことを言いながら、その内アナタは横領重ねるんですけどね。
まぁ未来の話は置いといて……
俺は二人の言葉をズビシッ!と掌で制した。
「現場の人間が現場に集中出来るのは、裏で支えてくれる人がいるからだよ。ここの連中なんて、自分で冒険者ギルドに提出する書類一つまともに作れない奴等ばかりでしょ?どっちが偉いとか、そんな話じゃないんだよ」
そう、世の中、意外とこれが分かっていない奴等が多い。「若い奴等は~」とは言わないが。
俺の同期にもアホなヤツがいた。
「事務は涼しい所で楽な仕事して、いいよなー」とか言うヤツが。
もうね、アホか?と。バカか?と。なら、お前が事務作業やってみろ、と。
無論、現場の方が下、などと言うつもりもないのだ。
一人で全てを賄う個人事業主ならともかく、仕事なんてお互いがお互いの役割を尊重してこそ。
少なくとも、俺はそう思っている。
だから、借り物の立場とはいえ『リーダー』なんて役割を与えられているのなら、俺は正当な仕事には正当な評価を下したいのだ。
ま、独善的なものかもしれないけどね。
収支計算をしつつ、俺は用が済んだ帳簿を仕舞ってくれているジョウにも声を掛けた。
「ジョウの給料も上げるからな。無理にバイトなんてしなくてもいいくらいには」
「ええっ!?そ、そんな……ボクなんて、大して役にも立っていないのに……」
驚いて振り返ったジョウは俺の言葉に、申し訳なさそうに縮こまる。
そんな彼に、俺は軽く笑って片手を上げた。
「お前はちゃんとやってるよ。それに、仕事がないときにこうして事務の手伝いまでやってるヤツなんて、お前とシャールくらいだろ?そこを評価しないヤツなんて、雇用主失格だよ。ま、お前はその内、Sランクまで一気に駆け上がるだろうけどな」
何気なくそう言うと、ジョウもオーリもキエルも、目を見開いてこちらを見ていた。
……ああ、そう言えば、パウロはジョウやシャールが事務作業手伝ってるなんて知りもしなかったんだっけか?
『ハメ太郎』などと散々批判されていたジョウだったが、俺はこのエピソードに関しては彼に敬意を抱いていた。だからよく覚えているのだ。
頭の上で、ディーネが俺の頭を撫でる。
「ダーリン、格好いい」
「おう、ありがとさん。さて……問題は上位ランカーの連中の給料だけど……これは流石に勝手に下げるわけにはいかんよなー……要個人面談だな」
紙面の上でペンを玩びながら、俺は思考を巡らせる。
ラギルのようなヤツなら問答無用で給料を下げてもいい気はするが……現実はそうもいくまい。
このパーティーを実質支えているのは、ヤツを含めた上位ランカーのメンバーだ。俺の都合で給料を下げたのでは、モチベーションや信用に関わる。
が、一人だけ、給料を好きに出来る上位ランカーがいた(笑)
「パウ……俺の給料はゼロでもいいかなー(笑)」
『えっ!?』
半分冗談、半分本気の俺の言葉に、ジョウ達は弾かれるようにこちらを向く。
まー、金バラ撒いて遊ぶことしか頭にないような男の発言とは到底思えないでしょうからね(笑)
本物のパウロが戻ってきた時、給料がゼロになっていたらどんな顔をするのか是非拝んでみたいものだが……それはきっとどう転んでも叶わない願いだろう。
と、俺はここであることを思い出していた。
「あー……ダメだ……パウ……んんっ!お、俺の屋敷の維持費がいるんだったな……」
唐突に思い浮かんだ面倒な案件に、眉間辺りを指で揉む。
俺個人の問題で終わるなら、俺は給料ほぼゼロでも構わない。メシは拠点で食えるし、使うアテもないし。
だが、パウロは屋敷を持ち、使用人も抱えていた。
俺の鬱憤晴らしのために彼らを犠牲にするわけにはいかないよなー。
なら、そろそろ屋敷にも行ってみなければいけないか……
そう考えて、俺は席を立つ。
そして、ジョウの頭に頭を寄せ、ディーネに移動してもらった。
「ちょっと屋敷に戻って維持費計算してみるよ。多分、パウロの給料は半分以下に出来ると思うんだけど……上位の連中には戻ってきた順に俺から話をしてみるから、とりあえず確定した人達の給料はこんな感じで」
「は、はい……分かりました……そ、その、ありがとうございます……」
「あ、ありがとうございます!」
新たに作り上げた今月の給与明細をオーリに渡すと、彼女とキエルは俺に頭を下げてきた。
けど、そんなの必要ないですよー。
むしろ頭を下げねばならないのはパウロの方だ。
「これからも、どうぞよろしくお願いします」
『っ!?』
深く頭を下げると、二人は絶句していた。
ホントにもー……あのバカ、裏で今までどんな態度取ってたんだ?
そうして俺はジョウの肩を叩き、ディーネの頭を指先で撫でてから、事務室を後にした。
この後、事務室は、この拠点はさぞ大騒ぎになったことだろうね。
『目覚めも『四度目』になれば、少しは慣れてくるものだ』
パウロとして目覚めて一度、二度寝して起きて二度、追放劇済ましてから夕方に起きて三度、翌朝起きて四度。
なので、この日の目覚めは五度目ですねー。
くるぐつさん、嘴さん、お見事でーす。
……チクショー……ちゃんと読んでやがりなさってやがる……
ありがとうございまぐぬぬ……
はい、腹筋しまーす。
今回は誤字じゃいっ!
ヽ( `Д´)ノ