消える絆と生まれる絆
……一度状況を整理しよう……
原作では、別々のパーティーの一員としてこの島に来たジョウとシャール。
それぞれに冒険者ギルドで依頼に関する話を聞いた後、二人は街でバッタリと出会う。
そうして互いの近況を話している最中、ジョウはふと気づくのだ。近くの露店で売られていた双翼のペンダントの存在に。
そして、おもむろにこのペンダントを買ったジョウは……
「あ、あの、シャールさん。よ、よかったらこれ……受け取ってもらえませんか?」
「えっ?これを私に?」
「は、はい。シャールさんにはずっとお世話になってきたので、そのお礼に。片方のペンダントは……シャールさんの大事な人に渡してください」
そう言いながらシャールに一対一組のペンダントを手渡すのだ。
そして、それを嬉しそうに受け取ったシャールは……
「ありがとうございます、ジョウくん。それではお言葉に甘えて……この片翼は、ジョウくんが持っていてください」
「……え、ええっ!?」
「ダメ、ですか?」
「ダ……ダメじゃないです……」
こんなやり取りを交わして、二人は恥ずかしそうに揃いのペンダントを分かち持つ。
というのが原作の展開だ。
いやー、甘酸っぺぇ。
……これで他のヒロインとの生臭い関係がなかったら、なお良い話なんだけどねー……
さて……以上を踏まえた上で、今のこの状況を確認してみよう……
ジョウがペンダントを差し出している相手は、シャールじゃなくてパウロ。
そして、原作では一組の状態でシャールに渡していたが、今ジョウの手にあるのは片翼のペンダント。
……うん……整理したところで、まるで状況が飲み込めない……
が、これだけはハッキリと分かる。
俺がこれを受け取るのはどう考えてもおかしいだろ、と。
◎
「え、えっと……こ、こういうのは、シャールにでもあげるとスゲー喜ぶんじゃない……かな……?」
「あっ、大丈夫です。これは元々二つで一つになるペンダントで、片方はもうシャールさんに渡してますから」
「…………なんて?」
どうにかしてあるべき流れへ戻そうとひきつり笑顔で誘導を試みるが、思わぬジョウの切り返しに一瞬で真顔に戻る。
そんな俺の様子を気にも留めず、ジョウは眩しい笑顔を弾けさせた。
「ボク、これを目にした時に感じたんです。これは《輝く翼》に……パウロさんとシャールさんにすごくピッタリなペンダントだ、って」
「ん、んん……?え、えっと……それはどういう……?」
まさか……パウロとシャールをくっつけようとしてる……?
ついそう思ってしまったのは、俺がこのペンダントを『色恋沙汰の象徴』としてしか捉えていなかったからだ。まぁペア物といえば結構な人数が男女の関係を想起するだろうが。
だが、物に対する認識など人それぞれ。
色恋沙汰に疎ければ、必然こういった見え方になる事もあるのだろう……
「《輝く翼》には、本当にすごい人達がたくさんいます。けど、やっぱり《輝く翼》にとっての翼は、パウロさんとシャールさんだと思うんです。だから、どうしてもお二人にこれを渡したくって」
「……あ……」
ジョウは照れて笑っていた。だが、そこに迷いの影は欠片も見えなかった。
本心から俺とシャールにこのペンダントを贈りたいと、そう思っているのだろう。一切の邪念なく。
でも……違う……違うんだよ、ジョウ……
それは本来、お前とシャールが切れない絆の証として持つものなんだよ……
だけど、俺にそんな事を言う資格などない。今ここにいるジョウの姿は、俺が良かれと思って導いた結果の姿だ。
ジョウとシャールの間に生まれるはずだった絆を切ったのは……紛れもなく俺だ……
悔恨の念が顔に出てしまっていたか、ジョウの表情がわずかに曇る。
「あ、あの……ご迷惑、だったでしょうか……?」
「あっ!い、いや、違う!ごめん!えっと……シャールはなんて言ってた?片割れを俺に渡す事は伝えてるのか?ちょっとその辺りが気になって……」
これでさらに彼を悲しませたりすれば、俺は救いようのない大馬鹿野郎だ。
慌てて気を張り、笑顔を作ると、ジョウはホッとしたように胸を撫で下ろした。
「シャールさんは「そういう事なら」と受け取ってくれました。パウロさんに片翼を渡すことも「いいんじゃないですか」って。ちょっと声が上擦ってましたけど」
「そ、そっか……」
まぁ、ジョウにそう言われちゃあ、あの子も断れんわな……
こうなるともう、俺にも断るという選択肢はなかった。
ここで受け取りを拒否すれば、形としてはジョウの手元にこのペンダントが残るかもしれない。が、それはもうシャールとの絆の証と呼べる代物ではないだろう。
今のこのペンダントは……俺が犯してしまった罪の象徴だ……
だけど、こんな後ろめたい気持ちをジョウに知られるわけにはいかない。
暗い感情を飲み込み、明るい感情だけを面に映す。
「うん、そういう事なら是非受け取らせてもらうよ。本当にありがとうな、ジョウ」
「いえ!ボクの方こそ、いつもありがとうございます」
微笑みながらペンダントを受け取り、感謝の言葉を返すと、ジョウはパッと顔を輝かせてくれた。
感謝の気持ちにも言葉にも、決して嘘はない。このプレゼントが泣ける程に嬉しいのは偽りない本心だ。
だが、ジョウの笑顔に胸の奥が痛んだのも、また事実……
そんな痛みと一緒に、隠すように、俺はジョウから貰った片翼のペンダントを右胸の内ポケットにしまい込んだ。
「まぁでも、普段は見えないようにしとくからな?ほら、俺とシャールがこういう揃いの物を持ってるのがバレたら……またディーネが包丁持ち出しかねないし……他の子達も怖いし……」
様々な感情を誤魔化すように小声でおどけてみせると、そこで一対一組のアクセサリなる物が持つ別の意味に気がついたのか、ジョウは「あっ!?」と声を上げる。
実際冗談ではなく、かなり現実味のある話だけどねー……
そして、俺はワタワタとし始めたジョウの頭を苦笑しながら撫でた。
「ま、隠れてこっそり眺めて、ニヤニヤさせてもらうよ。ホントは皆に見せて、自慢して回りたいんだけどね」
「あぅ……すみません……気がつきませんでした……」
「ははっ!いいって。それに、こういうのもいいんじゃない?俺とジョウとシャール、三人だけの秘密ってのもさ」
そう言ってまた頭をワシャワシャと撫でると、それでジョウは満面の笑顔を見せてくれた。
そんな彼の肩を叩き、「さぁ、そろそろ行こうか」と部屋の扉を開く。
そうして二人で廊下に出て扉を閉めたところで、俺はもう一つ、自身の落ち度に気がついた。
「そういや俺、ジョウや皆に貰ってばっかだなぁ……年上なのに……」
今や愛用の鎧に始まり、今回のペンダント。
シャールにはいつも稽古などで世話になり、ディーネやパーティーメンバーの皆、果ては別パーティーの子達からも色んなものを貰っている。手作りのお菓子だったり、酒だったり、酒の肴だったり。
細かいお返しはしているが、それでも圧倒的に貰う事の方が多い。
不甲斐ない思いについため息を溢すと、隣を歩きながらジョウはブンブンと首を横に振った。
「そんなことないですよ。ボクはいつも、パウロさんにたくさんのものを貰ってます。きっとみんなだってそう思ってます。だからボクは、ボク達は、少しでもお返しが出来れば、って」
「うーん……そうかな……?」
形のない贈り物。想いのプレゼント。
それだって俺の方が余程多く貰っている気がする……ちっとばかしハードなものもあるが……
俺がその役目を終える時までに、果たしてちゃんとお返しが出来ているだろうか?
そんな思いから唸っていると、不意に左手の袖がツンッと引かれる。
何事かと首を捻れば、そこには恥ずかしそうに俺の袖を摘まむジョウの姿があった。
「だからその……これからもよろしくお願いします。ボクはパウロさんと一緒に色んな景色を、誰も見たことがないような景色を見てみたいです」
「……」
……あー……戻りたくねーな……
なんて思いが胸の奥から湧いて出てしまったのも仕方がない。
ジョウにそう言われた時、皆と一緒に見た事もない風景の中を旅するパウロの姿を思い描いてしまったのだから……
きっと俺は皆にお返しをしきれないまま、多くの贈り物を抱えてこの世界を去る事になる。
だからよく考えて、俺に出来る限りのお返しをしていこう。少しでも悔いが残らぬよう。
「……おう!俺の方こそ、よろしくな」
「まずはここから」と、俺は今出来る最高の笑顔をジョウに贈った。




