誰が為に『パーティー』はある
「えー、というわけでだな」
日も落ちた頃、拠点のラウンジスペース。
今現在街にいる全てのメンバーと、この拠点に関わる人達を集めた前で、俺はあの一段高くなっている特設ステージに立っていた。
隣ではシャールがやや緊張の面持ちで控えている。
俺が皆に話をしたのは、まず待遇面の改善についてだ。
最初は給料の見直し。
それから、上位ランカーによる下位ランカーへの締めつけの禁止。
高ランクの者が低ランクの者を無理矢理従わせるなんて事はナシで、報酬の上前を跳ねるなんて以ての外だ。
そう前科持ちのラギルに釘を刺すと、ヤツはショボンと小さくなっていた。図体の割りに可愛いヤツめ。
ただ、組織のシステムというのはトップが全てを決めても大抵ろくな事にはならない。現場には現場の『動きやすい形』というものがある。
だから、大事なのはここから。
皆の顔をしっかりと見ながら、俺は俺の考えを伝える。
「これからは「こうしたらいい」「こうすればどうだ?」って意見があったらドンドン言ってくれ。思いついたらいつでもいいし、ランクや立場なんて気にする必要ないよ。誰の意見でも、良い案は取り入れていこうと思う」
俺の言葉に、皆は明らかに動揺していた。
いや、ジョウとチビディーネだけはキラキラした瞳で俺を見ている。あの目は裏切れませんわ。
とはいえ、暴君だったリーダーが突然こんなことを言い出しても、すぐに「はい、分かりました」とはならないだろう。
だから俺はまず、多少は取っ付き易くなるであろう取っ掛かりを作る事にしていた。そしてこれは、シャールにリーダー権限を委譲する時のための布石でもある。
「俺に言いにくいならシャールに話してもらってもいいよ。はい、シャールからも一言どうぞ」
そう言いながら俺は一歩引く。
場の主役を譲られたシャールは、少し気まずそうな様子ながらも丁寧に一礼した。
拠点内が軽くざわつく。
「そ、その……私にも話し掛けづらいかもしれませんが、何かあれば頑張って聞きたいと思います。それでも、私にも話しにくい事なら、キエルやオーリさんに話してもらっても構いません。私は……私達はこの《輝く翼》をもっと良いパーティーにしていきたいと、そう思っているんです。どうかよろしくお願いします」
いつしか拠点内はシンとなっていた。
話すのが苦手ながらも懸命に自身の想いを伝えるシャールの姿には、なかなかにグッとくるものがある。
そのせいでつい出遅れてしまったのだが……
「あっ……!」
「おっ?」
パチパチという拍手の音にその出所を探ると、ジョウが嬉しそうな顔で一生懸命に手を叩いていた。いや、彼の頭の上でディーネも手を叩いている。
そんな彼らに笑いかけ、一拍遅れて俺も手を叩くと、拠点内は一気に暖かな歓声と大きな拍手の音に包まれた。
それらを一身に浴びて、シャールは恥ずかしそうに、だが嬉しそうに頬を赤らめ、何度もお辞儀を繰り返す。
ほらね。ちゃんとリーダーの素質あるじゃん。
「あ、あの……パウロ……」
欣喜雀躍するメンバー達の様子に、どうしたものかとシャールは目で助けを乞うてくる。
そんな彼女を救うべく、俺は再び前に出てパンッ!と強く一回手を打った。
「はい!それじゃー、皆よく聞けー!俺からもう一つ改善案だ。今日から上位ランカーだけじゃなく、メンバーは全員ここでのメシ代は免除にする。つまり、タダ飯だ」
『おおおおおっ!!!』
俺の提言に、若手達は狂喜乱舞だ。現金なヤツらやなー(笑)
ただ、プラスばかりではないですよー。
パンパン!と手を鳴らし、まずは彼らを落ち着かせる。
「はいはい、落ち着け落ち着け。体が資本だからな。依頼失敗したとしても、ちゃんと食って次に備えろ。ただし、高級食材は使わないようにするからなー」
『ええええええっ!?』
「はい!そこ!「えー?」とか言わないっ!お前らみたいな若いヤツらに高級食材バカスカ食われたら、ウチの財政は早晩破綻するわっ!そこは協力しろっ!」
場のノリに合わせてブーイングしてきた若手達をズビシッ!と指差すと、ドッ!と笑いが起こった。
ジョウとディーネ、隣のシャールも楽しそうに笑っている。
よしよし、和んできたかな?
「酒の方は……ちょっとは金落として欲しいかな?飲めないヤツらからすると不公平だし。ま、定額制で飲み放題とか、色々考えてみるよ。ともあれ……」
そこで俺は一度言葉を切り、一つ咳払いをする。
そして、全員がしっかりとこちらを見ていることを確認して、右拳を振り上げた。
「今日は食べ放題っ!飲み放題だっ!!!たっけーメシも!たっけー酒も!カラになるまで食って飲んじまえっ!!!」
『おおおおおっ!?』
「今夜は祭りだーっ!!!」
『おおおおおおおおおっ!!!』
怒号の如き雄叫びとともに、全員が拳を振り上げる!
ま、上下関係の垣根を取っ払うには、皆でバカ騒ぎするのが一番ですよ。
だが、これで全てが解決するとは思っちゃいけない。これは最初の足掛かりだ。
けど……まぁ上々の滑り出しかな?
初めて見るメンバー達の楽しそうな顔に、俺はホッと胸を撫で下ろしていた。
◎
「じゃあ、俺は一度屋敷に戻るよ。皆でメシ食おうぜー、って言ったばかりだからさ。メシ食ったらまた戻るから、あんまりハメ外し過ぎないよう監視頼むわ」
「はい、ちゃんと見ておきますので、心配しないでください」
ドンチャン騒ぎの音がガンガンに漏れ聞こえてくる拠点の外。
わざわざ見送りに出てきてくれたシャールとジョウに、俺は片手を上げる。
と、ジョウの頭の上から飛び立ったディーネが、俺の頭の上に着地……着頭?した。
「ダーリンのおウチ見てみたいから、私も一緒に行くー!」
「なんでよ?つか、行けんの?ジョウから離れても問題ないの?」
「さ、さぁ……?どうなんでしょうね?」
尋ねてみると、マスターも小首を傾げた。曖昧かっ!
しかし、どうせガバガバ設定の世界だ。本人が「行く」と言ってるなら、多分行けるんだろう。
とは言っても何故連れて行かなきゃならんのか?
シャールさん、なんかちょっとムッとしてるし……
そう考えていた所で、俺ははたと思いついた。
ちょうどええわ、と。
「んじゃ、一緒に行くか?」
「ホントッ!?やったー!」
見えないが、頭の上で喜んでいるらしい。
そんなディーネを乗っけたままで、俺は「ニヒッ!」と二人に笑いかけた。
「それじゃ、二人で仲良くメシでも食いながら待っててよ。ゆっくり帰ってくるから」
「え、ええっ!?」
「パ、パウロッ!?」
俺同伴のデートという予備段階はスッ飛ばしてしまうが、二人でメシを食うには良い大義名分だろう。
狼狽える二人に笑いかけながらもう一度片手を上げ、俺は屋敷の方向へと歩き出した。
がんばれよー、ジョウ。
◎
「ダーリンのおウチの人達にも、ちゃんと挨拶しなきゃ。えーと、こういう場合どう言えばいいんだっけ?ふつつかものですが?」
「え?やめて?」
そんな会話を交わしながら歩いていく二人の後ろ姿を眺め、私はついつい苦笑してしまっていた。
まったくもう……『あの人』は……
本当にたった数日だというのに私は、私も知らない『私』を何人も見つけてしまった。
……あんなに大声で泣いたのは、いつぶりだろう……もしかしたら赤ん坊の頃以来かもしれない……
それだけじゃない。
こんなに楽しそうに大騒ぎする仲間の皆の声を聞くのも、こんなに生き生きとしたジョウくんの姿を見るのも、きっと初めての事だ。
何もかも、全てが不思議な『あの人』を見送り、私はジョウくんの方へ向き直る。
いつも真面目な彼は、緊張した様子でピシッ!と直立していた。
「それじゃあ、私達も夕食にしましょうか?」
「は、はいっ!」
強張ったジョウくんの返事に、また勝手に笑みがこぼれていた。
ああ、私はこんなに笑えたんだ……
話を終えると、シャールは「関」を切ったかのように大声で泣きながら俺の胸に飛び込んできた。
「関」ではなくて「堰」ですねー。
関を切っても水(涙)は出ませんわな。
嘴さん、お見事でーす。
ヽ( ´∀`)ノ
ここからオッサンリーダーの成り上がりターンです。
クズでもそれなりの評価があったヤツが真面目にやったらこうなるかなー、という話ですね。
今回も誤字で、お願いしゃすっ!
本当は「柏手」という字を混ぜ込もうかと思ってたんですが(正確には「拍手」で「かしわで」)元は誤写である「柏手」も今は市民権得ているらしく、急遽変更です。
 




