少女の涙とオッサンの決意
この物語における『パーティーリーダー』とは、そのパーティーにおいての絶対君主のような存在だ。
俺がいくらジョウや若手の待遇を変えた所で、本物のパウロが戻ってきてしまったら、それは一瞬でひっくり返されるだろう。
そうさせないためには、俺が自由に動ける内に俺からリーダーの権限を剥奪しておくのがベストだった。
そして、「剥奪したリーダー権限を誰に移すべきか?」となると、俺が思いついたのは二人だけ。
他のSランクメンバーはかなりクセが強い奴等だからね。
その二人の内の一人が彼女、シャールだ。
もう一人は……『資格』こそ申し分ないが、絶対に「リーダーになる」とは言わないだろう。そんな男である。
だから俺はまずシャールにリーダーの座を譲り渡し、『彼』が帰ってきたら事情を説明してシャールのサポートは『彼』に任そうと、そう考えていた。
「ガドウィンが戻ってくるまで出来る限りサポートするからさ、引き受けてくれないかな?」
「……」
すんなり引き受けてもらえるとは思ってなかったが、うつむいたままで返事もない。
ため息を吐き、俺は空を仰ぎながら彼女の考えがまとまるのを待つ事にした。
Sランク冒険者『ガドウィン=アーカーバルダー』39歳。
通称『ガド』。それが『彼』の名前だ。
二つ名は……《獅子王》……
まぁそりゃあね、なるわ。
初登場時、感想欄が「し~んぱ~いないさぁぁぁ♪」の一色に。
《獅子王》でいいじゃねーか……作者はバカなのか……?
……バカなのか……
二つ名の通り、栗色の、獅子のたてがみのような髪とアゴ髭を持つ大男で、俺(本来の、四十オッサンの方)より老けた見た目をした豪傑であり、パウロが唯一逆らえない存在。
だがコイツ、「生涯一冒険者」を標榜する脳筋で、政には一切関心がない。
だから原作ではパウロにリーダーを任せ、挙げ句の果てにはやさぐれていくパウロをあっさりと見限ってパーティーを離脱するのだ。
パウロもパウロだが、ヤツにも説教をする必要があるだろう。
「お前、もう少し年上らしく振る舞えや」と。
……本人を前に言えるかどうか分かんないけど……
そうしてしばらく無言の時間が続き、やがてシャールは口を開く。
返ってきた答えは、やはり芳しいものではなかった。
「……私には無理です……」
「んー……そこをなんとか」
「貴方は……私がどんな人間なのか知っているんでしょう……?」
「まぁ、ね……」
暗い空気を纏って聞き返してくる少女に、俺は少し躊躇いながら返事をする。
口下手で、感情表現が苦手で、人と距離を置きがちな女の子。
それが本来の物語における『シャール=エルステラ』という少女の人物像だ。
が、たった数日の付き合いではあるが、俺にはどうしても彼女が額面通りの人物には思えなかった。
昔から天才肌で、美しく、強い。
それ故に人から距離を取られ、それ故に人付き合いが下手なまま成長してしまっただけなのでは?
俺にはそう思えていた。
だからキエルのような裏表のない子とは普通に話が出来るし、ジョウのような素直な少年に優しく、淡い恋心を抱いたりもする。
そして、俺のような馬鹿には説教も出来て……一緒に大笑いする事も出来る。
自分の殻さえ破る事が出来れば、彼女には十分人を束ねる素質があるんじゃないだろうか?
さらに言えば、その殻はもう少しで破れそうなのだが……
などと考えながら腕組みをして唸っていると、不意にシャールはスッと立ち上がる。
そして俺の方を向いて踵を合わせると、真剣な眼差しで言った。
「……私は、このまま貴方にリーダーを続けて欲しいと、そう思っています」
「いや、だから俺は……」
部外者。
そう口にする前に、シャールは俺に頭を下げた。綺麗な髪がサラリと流れる。
「貴方を見て、私は昔のパウロが戻ってきたのだと思っていました。いえ、その……昔のパウロでもあそこまで……え、ええと……は、破天荒……ではなかったので、少しおかしいとは感じていたんですが……」
「あっはっはっ……言葉を選んでくれて、ありがとー……」
『アホ』を『破天荒』にすり替えていただいた事に感謝しつつ、苦笑する。
しどろもどろになっていたシャールは頭を振ると、顔を上げてまた俺を真剣な目で見つめてきた。
「それだけではなく、貴方からはガドさんのような鷹揚な余裕も感じるんです」
「あー、それはその……年の功っつーか……」
「貴方の助けがあれば、壊れかけていた私達のパーティーも元に戻る……いえ、今よりずっと良くなると、私にはそう思えるんです!」
苦笑する俺に向かって半ば叫ぶようにそう言ったシャールの目からは、気がつけば涙が溢れていた。
どうやら思ってた以上に彼女は色々な想いを抱え込んでいたらしい。
だから本来の物語でも末期の末期までパーティーにしがみついてたのかな……?
そんな考えがふと頭をよぎった。
「……ふぅ……」
必死な彼女の請願に、大きく息を吐いてから俺は腹を括る。
そうして立ち上がり、瞬きすらしないシャールと真正面から向き合った。
真剣な想いに、真剣に向き合うために。
「……二つ。二つだけ条件がある」
「……はい!」
覚悟を決めたような表情のシャールに、立てた右手の二本指を見せながら続ける。
「さっきも言ったけど、どうしてこうなったのか分からない以上、俺はいつまでこの世界にいられるのかも分からない。だから、いつでもシャールにリーダーの権限を委譲出来るよう、必要な準備はしておく。いざという時は覚悟を決めろ。パーティーを、仲間を守りたいならな」
「……はい……」
中指を折りながら告げると、躊躇いながらだがシャールは頷いた。
残る人差し指は……
「もう一つは……本物のパウロが戻ってきたら、ちゃんと話をしろ、だ」
「えっ?」
「お前は、「このままじゃダメだ」ってパウロと話をしたか?どうせ聞いてくれないって最初っから諦めて、話し合う事を放棄してたんじゃないか?」
「そ、それは……」
図星だったか目を逸らすシャールに笑いかけ、俺は拳を握り込む。そして、その手を開いて彼女の頭を撫でた。
シャールは「あっ……」と小さな声を漏らす。
「たとえ長年連れ添った夫婦でもな、「話さなくても分かる」なんてのは幻想だよ。大切な事は、ちゃんと話し合わないと分からないもんだ」
「……」
「そりゃあね、腹割って話したって分かり合えないヤツはいるよ、必ず。だけど、腹割って話してみないと、実際の所どうなのかなんて分かるわけないんだよ。だから、納得いくまでちゃんと話し合え。お前がリーダーになるかどうかなんて、その結果で決めればいいんだよ」
そう言って、子供にするように頭をグリグリ撫でると、シャールは思い切り顔を歪めた。
まぁでも、可愛い子はどんな顔でも可愛いもんだ。
そして、俺は歯を見せてニッと笑いかけた。
「無理に我慢しなくてもいいんだよ」と、そんな想いが伝わるように。
「出来るって。だってお前、俺を正座させて説教したでしょ? あれでいいんだよ、あれでさ」
「……う……ああぁぁぁぁっ!!!」
話を終えると、シャールは関を切ったかのように大声で泣きながら俺の胸に飛び込んできた。
その細い体を受け止め、苦笑しながら俺は彼女の頭をポンポンと叩く。溜め込んでいたものが早く出尽くすように、と。
作者が自己の欲求を満たすために好き勝手やった結果がこれだ。
そして、何故か俺はそこに巻き込まれてしまった。
ならば……もう俺も好き勝手にやっていいよな?
さぁ!思うようにやってやろうかっ!
シャールが、ジョウが、皆が、自然な形で心から笑える。
そんな物語になるように!
◎
「……あ、あの……」
「ん?」
夕暮れが迫る頃。
思う存分泣かせてあげてから、拠点に戻ろうと二人で並んで歩き出したその時、シャールがおどおどと声をかけてきた。
人前であんなに泣いたのは初めてだったのか、恥ずかしそうに顔を隠しながら。
「その……今さらですが、お名前を聞いてもいいですか……?」
「名前って……『俺』の?」
自分を指差しながら尋ねると、シャールは小さく頷いた。
とは言っても、だ……
「んー……ここでは『パウロ』でいなきゃいけないし、そう呼んでもらわないといけないし……必要ある?」
そう、『俺』の名前を教えた所で、その名で呼ばれるわけにはいかないのだ。
だが、首を傾げる俺に、シャールはもう一度頷いた。
今度は力強く。
「あります。私が知りたいんです」
「ははっ。それは立派な理由だな」
なら仕方ないか。
この世界に一人くらい、『俺』の名前を知ってくれている人がいてもいいだろう。
そう考えて、俺は彼女に笑いかけた。
「俺の名前は……」
風が吹き、少女の髪が揺れる。
こうして『俺』の名は、一人の少女の胸に、この世界に刻まれる事になった。
「麗らかな陽射しの下、大きな木の切り株に、少し距離を「開けて」座った俺とシャール」
空間に対して使う「あける」は「空ける」ですねー。
軒下烏さん、お見事でございまーす。
ヽ( ´∀`)ノ
さて、某ネ申作家様が久し振りに新作を発表しましたねー。
あちらは39歳、アッシの「オッサン」は四十。
奇しくもほぼ同じ歳ですな。
結構バカもやっておりますが、それなりにまともな「大人」として書けていますでしょうか?
「こんなん『なろう主人公』じゃねぇ!」と思わせる人間に出来ていたらアッシの勝ちだと思ってます(笑)
今回もシンプルな誤字でーす。
ヽ( ´∀`)ノ




